先日の昇給に関する記事、昇給は、できるだけ小刻みに、不平等に行うこと。そうすれば従業員の幸福を長く保てる。をお読みいただいた一人の方から、

「金銭的な動機づけについては理解したが、「仕事を自分からやる気になる」ようにするにはどうしたら良いか」

というご質問を頂いた。

「何故ですか?」

と伺うと、「内発的な動機づけのほうが、仕事のパフォーマンスが高くなるでしょう」

と仰った。

 

なるほど、「社員がやる気になる」というテーマは、昔から普遍的なテーマである。

だが、私の観測範囲では従業員の「やる気」や「モチベーション」をアテにする経営者に、ロクな経営者はいない。

それはブラック企業への入り口である。

 

例えば、

「お客様からのお褒めが、従業員のやる気を高めるのだ」

「経営理念に賛同している社員は必死に働くはずだ」

といったような言葉は、間違いではないし、働いている人の幸せに貢献するだろう。

 

だが、負の側面もある。

一歩間違えれば、「待遇」などを無視し

「仕事そのものから満足を得られれば、人は待遇が悪くても我慢ができる」という考えに陥りがちだ。

 

真の意味で卓越した経営者は、従業員のやる気やモチベーションに関わりなく成果をあげる仕組みを作る。

実際「従業員に対して真摯に接するが、彼らのモチベーションには興味がない。」と、あるwebサービスの経営者は言う。

 

結局のところ、彼らが重要視するのはモチベーションではなく、一種の特権意識である、プロ意識だ。

仕事に必要なのはモチベーションではなく、プロ意識である

私が以前、「管理職研修」を営業した時、ある専門サービス業の経営者はこう言った。

「社員のモチベーションなど気にする必要は全くない。管理職研修など不要。」

いきなり全否定された私は、その理由を聞いた。

彼は言った。

「モチベーションは外から与えるものではなく、その人が自ら生み出すものだからだ。」

経営者は続けて言った。

「養うべきは、モチベーションではなく、プロ意識だ。これは徹底的に教育する必要がある。」

 

また、ある時私は保険の代理店に訪問した。その会社は社員は10名程度、ほとんどが「おばちゃん」だった。

彼女たちにモチベーションと呼ぶべきものは見当たらなかった。なにせほぼ毎日「仕事するの嫌やわ−」と言っているのだ。

だが、彼女たちは実によく働いていた。その代理店の成績、顧客満足度は、全国でも有数のレベルであった。

その代理店のおばちゃんの一人は言った。

「仕事は嫌だけど、お金をもらってるんだから、きちんとしなきゃ。」

この傾向は世界中いたるところに見られる。

例えば、インテルのCEOであったアンドルー・グローヴは、次のように述べている。

マネジャーはどうやって部下にやる気を起こさせるか。一般的に、このことばには、何かを他人にさせるというような含みがある。

だが、私にはそういうことができるとは思えない。モチベーションなるものは人間の内部から発するものだからである。したがって、マネジャーにできることは、もともと動機づけのある人が活躍できる環境をつくることだけとなる。

より良いモチベーションというのはとりも直さず業績が良くなることであって態度や気持ちの変化ではないのであり、部下が「自分はやる気が起きた」などということにはなんの意味もない。

大切なのは、環境が変わったために〝業績(遂行行動)〟が良くなるか悪くなるかである。

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グローヴが言うように、大前提として、そもそも人間のやる気や感情を「コントロールできる」と考えることが、そもそも経営者やマネジャーの傲慢である。

もちろん、従業員が仕事を愛し、好きでいてくれた方が良いが、極端な話、成果さえ出せば「仕事なんて嫌い」でも構わない。

 

さらに、やる気やモチベーションは、会社での出来事だけでなく、プライベートの状況によっても大きく左右される。

極端な話、

「今朝カミソリで顎を切ってしまったので、今日は痛くてやる気が湧かない」

「好きな子が結婚してしまい、ショックで仕事が手に付かない」

ということだって、人である以上、十分にありえるのだ。

そんなとき、会社は一体彼に何ができるだろう。

 

人間の背中に「やる気スイッチ」なるボタンが有り、それを押せば良いというのなら、これほど簡単なことはない。

だが、モチベーション、という極めて不安定なものは、上司が何かしたから、機械的に上がる、という性質のものではない。また、根本的に人は「操作されている」ということそのものに嫌悪感をいただく。

そこを勘違いしていると、

「部下のやる気を引き出す◯◯の方法」

「部下のモチベーションを上げる上司はこんな上司」

といった、薄い情報に踊らされてしまうのである。

 

ここまでお読み頂き、

「内発的動機づけを軽んじているのではないか」

と、お考えになった方もいるかもしれない。

 

しかし、誤解をしないでいただきたいが、私は「内発的動機づけが重要ではない」と言っているわけではない。

「重要だが、外からコントロールできない」

と言っているのである。

コントロールできないことに頭を悩ませるのは時間の無駄である。

 

そして、本質的に、大きく動機づけに影響を与える要因で、経営者がコントロールできるのは

「仕事の中身」

「待遇」

の2つしかない。

仕事の中身が決まっているのなら、従業員の動機づけで必要なのは、まず待遇だ。

だからこそ、「報酬の与え方」は死活的に重要なのである。

 

かつて、ハロルド・ジェニーンは次のように述べた。

初期の時代にITTを去ったのは、不断のハードワークのペースに適応できなかった人びとが大半だった。

しかし、のちには、よそからあまりにも好待遇で誘われたために、私としてはその人物のよりよき将来を祈って送り出さざるを得ない、といった場合が多くを占めるようになった。

だれにせよ、特別にすばらしい機会をつかもうとしている人物を、私はけっして引き留めようとはしなかった。そんなことをするのはフェアでなく、したがって長いあいだには、その人物の信頼と忠誠心を失ってしまうのがおちだ。

もちろん、どんな理由からでも、チームの良いメンバーを失うことを喜ぶ最高経営者はいない。しかし、しかし、理由として最悪なのは、報酬を十分に支払っていないために部下を失うことだと私は思う。

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そう、報酬のことで従業員に不満を持たれるのは「最悪」である。

 

さらに、経営者やマネジャーは、なんとしても部下に成果をあげてもらわねばならない。

実際、ピーター・ドラッカーは次のように述べている。

知識労働者も経済的な報酬を要求する。報酬の不足は問題である。

だが報酬だけでは十分ではない。知識労働者は機会、達成、自己実現、価値を必要とする。彼らは自らを成果をあげる者にすることによってのみそれらの満足を得ることができる。

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繰り返すが、やる気は重要である。

だがそれは、コントロールの対象ではない。経営者が気にする対象ですら無い。

 

経営者にとって重要なのは、従業員の待遇と、彼らが出す成果、それだけである。

 

 

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