「質問はプレゼンをするつもりでしろ」と言われたことがあります。同じことを何回か言われました。
ずっと耳に残る言葉、というのが幾つかあります。言われたその時はピンとこないけれど、後からじわじわと意味が分かってくる言葉。細かいシチュエーションは覚えていないけれど、フレーズだけは妙にはっきりと覚えている言葉。
まだ社会人1年目か2年目くらいだったので、15年は前のことだと思います。私は当時、とあるSI会社に所属していて、客先常駐で開発をしていました。
とはいっても、まだ大した仕事が出来る時期でもありませんでしたので、いろいろ資料と取っ組み合いながら、テストケースを消化したりこまごまとしたツールを作ったりといった仕事をしていたんだと思います。
とあるドキュメントの意味がよくわからなかったので、先輩に質問をしに行った時、何度か叱られました。
質問のやり方ってものがてんでなってない、と。
お前はぼちぼち、質問の意味というものをちゃんと理解してもいい頃だ、と。
先輩が教えてくれたことについて、正直細かい言い回しはよく覚えていないのですが、骨子は大体覚えています。ざっと箇条書きにすると次のようなことでした。
・質問には、「能動的な質問」と「受動的な質問」というものがある。
・質問というのは、単に「わからないことを聞く」だけのものであってはいけない。
・質問をする時は、同時にその質問に関して、「何かが分からない」という状況について、可能な限りの情報を相手にも伝えなくてはいけない。
・自分はどんな背景で、どの部分を理解しなくてはいけないのか。今どこまで理解出来ているのか。どういった部分が障害になっていて理解できないのか。理解する目的は何なのか。
・つまり、質問というものは、聞くと同時に「相手に伝える」ものでないといけない。それが能動的な質問。
・そういうことが整理して伝えられないようであれば、そもそも「何が分からないのかが分からない」という段階であって、質問をする段階にない。
・全くのド素人ということであれば、そもそも「なにがなんだかわからん」という状況に置きっぱなしにしている上司が悪いが、お前は既にその程度のことは整理出来る状況にあるんだから、ちゃんと整理してから質問を持ってこい。
おそらく、先輩にしてみれば当たり前のことだったのだと思います。今改めて整理してみると、私も「これは当たり前のことだ」と感じます。
つまり私は、「なんだかよく分かりません」というだけの、まったくの受け身の質問をしていたのだろう、と。それは、教える内容を完全に教える側に丸投げするという、非常に「楽をした」質問です。
この質問に真面目に答えるとすれば、教える側は、
・具体的にどの部分が分からないのか
・その部分を理解する為の前提条件は何か
・何が目的でその部分を理解しないといけないのか
・その目的を達成する為にはどんな教え方をしないといけないのか
といったところまで、全て自分で考え、掘り起こさなくてはいけません。いわば「理解という行為の丸投げ」です。
いや、これ、勿論ケースバイケースで、必ずしも「絶対ダメ」という話ではないと思うんです。
そもそも全く知識がない分野であれば、「何がなんだかわかりゃあしない」というのはむしろ普通の状況です。
「何が分からないのか分からない」というのは非常に一般的な状態であって、例えばそういう状況に陥った新人の子に「ちゃんと整理してから質問しろ」と言ったところで、それは手の短いペンギンに「三点倒立しろ」と言っているのとそれ程変わりません。
それについてはきちんと先輩も言及していて、「全くのド素人ということであれば、そもそも「なにがなんだかわからん」という状況に置きっぱなしにしている上司が悪い」というのもまさにその通りだと思うんです。
だから、上司となっている今の自分は、新人の子に対しては「同じことを何度でも聞け」「整理されてなくてもいいから取り敢えず聞け」と言っています。
質問自体のハードルが高い内は、なるべくハードルを下げる努力をしなくてはいけない。
しかし、既にある程度「その知識」に手が届く状況なのであれば、理解という行為をまんま丸投げするというのは、流石に不誠実というものです。
正直、似たようなことを何回かやらかしてしまったのですが。先輩にこう言われ続けて、私は徐々に、「自分はどこがどんな風に分からないのか」ということをまず整理する、ということを習慣づけられるようになっていきました。
やり始めてみると当たり前のことで、「何が分からんのか分からん」という状況は、「何が分からんのかを整理する」という行為である程度解決出来るのです。
ただ何となく調べるのではなく、「分からないことを整理する為に調べる」ということ。これをやっている内に、そもそも質問するようなことでもないなコレ、みたいなものも少しずつ分かるようになっていきました。
その頃になると、先輩が言っていた、「質問はプレゼンだ」ということも少しずつ分かるようになってきました。
つまり、ただ「何が分からないのか、を伝える」というだけの話ではなく、
・自分が「ここまでは分かっているんだ」ということを相手に伝える
・自分が「何を知りたいと思っているんだ」ということを相手に伝える
・自分が「どんな目的をもっているんだ」ということを相手に伝える
という意味では、質問はまさに、そのままの意味で、自己アピールの為のプレゼンテーションの場にもなり得るのです。
相手に伝える。そして、相手から教わる。
質問というものは、一方通行ではなく、双方向のコミュニケーションなんだ、と。
すごく単純な話なのですが、最初の内はその程度のことも、私は全然わかっていなかったんだなあ、と。
今では多少は分かるようになったかなあ、と。
私が分かったことを、今度は私が自分の部下に、後輩に教えていかないとなあ、と。
一応中間管理職っぽい立場にある今の私は、そんな風に考えているのです。
今日書きたいことはそれくらいです。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
【プロフィール】
著者名:しんざき
SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。
レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。
ブログ:不倒城
(Photo:Sébastien GARNIER)