Diffusion of Innovations, 5th Edition「イノベーター理論」をご存知だろうか。少しビジネス書をかじったことのある方であれば、おそらく知っているだろう。

 

新しものがどのように「普及」してゆくのか、1962年、スタンフォード大のEverett M. Rogersが、提唱した理論だ。これらを研究する学問は「普及学」と呼ばれており、よく知られているのは下の図だ。

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図出典:Wikipedia

Rogersはアイデアが普及する過程における採用者を5カテゴリに分け、これら採用者の数を時間軸にプロットした。各カテゴリは採用した順番に「イノベーター」「アーリーアダプター」「アーリーマジョリティ」「レイトマジョリティ」「ラガード」と呼ばれる。

 

【イノベーター】(2.5%)

新しいものを最初に採用する人々。リスクを取ることを恐れず、新しいものを積極的に採用する。彼らにとっては「革新的である」というだけで価値があるので、「これを使うメリットが有るか?」はあまり考えない。

【アーリーアダプター】(13.5%)

2番手の人々。新しいものを積極的に取り入れるが、革新的であるということよりも、「これを使うメリットが有るか」を検証するためにいち早く新しいものを導入する。ある程度のボリュームがあるので、オピニオンリーダーとも言われ、彼らが採用したものは普及しやすい。

【アーリーマジョリティ】(34%)

アーリーアダプターが採用したものを見て、それに追随する人々。平均的な生活を送る人々であるがゆえに、「それを使うことが普通である」という理由で新しいものを採用する。付和雷同のグループではあるが、サービスが広く普及するためにはこのグループの導入が不可欠である。

【レイトマジョリティ】(34%)

アーリーマジョリティの人々を見て、「乗り遅れている」と知り、「仕方なく」新しいものを採用するグループ。「絶対に役に立つ」という確固たる理由がなければ、新しいものを採用することはない。

【ラガード】(16%)

新しいものが嫌いな人々、伝統を重んじ、変化を好まない。「普及しているから」という理由だけでそれらを採用しないという人もいる。

 

少なくともアーリーマジョリティまで巻き込まないことには、「普及している」とは言えないだろう。逆にマーケットの半数の人々が採用してくれるようなものであれば、「革新的な商品・アイデア」と言える。

では、どのような商品・アイデアならば、普及させることができるのだろうか。Rogersは普及に影響を与える本質的な要因として、5つを挙げている。

 

1.比較優位性

新しいものが、どの程度今までのものと異なるのか?どの程度優れているのか?

2.適合性

今の生活を変えずに導入できるか?人間は大きな変化を好まない。

3.シンプルさ(複雑さ)

わかりやすいか?操作しやすいか?直感的に使えるか?シンプルでなければ、普及しない。

4.簡単に試せるか?

試しに使ってみて検証が可能だと、導入されやすい。

5.他の人に見えやすいか?

新しいものを使っていることが、他の人に見えやすいと、普及させやすい。

よく売れたものや、急速に普及するものにはこういった条件を満たしていることが多い。いずれも「なんとなく」はわかっていたことではあるが、このように明文化されていると役に立つ。

 

さて、余談だが実際のマーケティングにこれを応用しようとすると困難なことが生じる。

・マーケットのサイズはどの程度か?サイズがわからなければ、今どのグループまで採用されているのか分からない。

・イノベーターや、アーリーアダプターはどこにいるか?彼らをセグメントする方法がわからない。

・人はそもそも固定されたグループに所属しているわけではない。ある人はスマートフォンに関してはイノベーターかも知れないが、自動車に関してはレイトマジョリティかもしれない

 

従って、イノベーター理論は、「理論」としてはよく知られているが、実際に応用するためには丹念なデータ収集を必要とする。

したがって、商品をリリースした後に「顧客の属性」を収集し、現在はどのグループに採用してもらっているのかを判断することは極めて重要である。

しかし、多くの会社は「売った後」の情報収集を実はきちんとやっていない。釣った魚には餌はやらない、というやつである。

 

担当者を新規営業ばかりに集中させ、既存の顧客の属性を調べないのは実にもったいないと思うのだが。

 

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(文責-ティネクト株式会社 取締役 倉増京平)