5歳と2歳になる娘がいる。

5歳の娘は言葉が達者になり、生意気だし、2歳の娘はいわゆる「イヤイヤ期」で、親が強いることに対して全て「イヤ」から入る。お陰で家の中はいつもカオスである。

だから、このくらいの子どもたちに、親の手伝いをすんなりやってもらうのは無理な相談だ……と思っていた。

 

だが先日、妻が子どもたちに、家の片付けを手伝ってもらっていたのを見て、ちょっと考え方が変わった。

 

事務所の本を宅配便で自宅に送ったときのことである。

私は本の到着の知らせが入ったので、「面倒だけれども本を本棚に片付けないと」と決意し帰宅した。

玄関を見ると、幾つかのダンボールが積まれている。

私は仕事が残っていたので、そのまま仕事を始めると、妻が「本を移動させる」と言ってきた。

「重いからいいよ」と言うと、

「子どもたちに手伝ってもらうので大丈夫」という。

 

あの子どもたちにどうやって手伝ってもらうのか不思議である。

「どうやって子どもたちに手伝ってもらうのか」と聞くと、妻は子供の方を振り返って言った。

今から「ヤマトさんごっこ」をします。

やるひと!

 

子供は目を輝かせて、「やるー!」と大声で叫ぶ。

妻は本棚の方に行き、

「玄関から本棚まで、お届け物をお願いしまーす」

と言った。

 

子どもたちは玄関から本を抱えて来て妻に言う。

「こんにちはー、おとどけものでーす」

妻に娘が本を渡す。

「はーい、ありがとうございまーす」

「またよろしくおねがいしまーす」

 

二人は何度も玄関と本棚を往復し、妻は黙々と運ばれてくる本を本棚にいれていく。

そして30分後、ついにすべての本を運び終えてしまった。

しかも、子どもたちは「お母さんと遊んだ」ことで、大喜びである。

 

家の手伝いをしなさい、と言っても全くそんなことをしない子どもたちに、喜んで手伝いをしてもらう工夫。単なる作業時間を遊びに変える工夫。

私がびっくりしていると、妻は「こんなことくらい、みんなやっているよ」という。

片方が「命令してやらせる」のではなく、お互いにメリットを感じた上で、協力関係を築き、成果につなげる。

なかなか仕事においても難しいことだ。

 

*****

 

「価値の共創」という言葉がある。

CK・プラハラードによれば、価値の共創とはサービス提供側とサービス享受側が、協力して価値を創り上げていく活動だ。

 

GoogleもAppleも、AmazonもFacebookも、ここ10年ほどで圧倒的に成長した企業群はいずれも、この「共創」を基盤においており、今後も暫くは「共創」を強みにした企業が、大きな成果をあげるだろうと言われる。

 

改めて考えると、「企業と、ユーザーが協力して作るサービス」は、全てこの形式かもしれない。

Airbnbも、Uberも、Amazonのレビューも、ユーザにとっては「喜び」として自発的に、積極性を持ってやっている。

 

もちろん、日本企業でも「共創」を経営の主軸に据えている企業は多い。

例えば、ソウルドアウトの代表である荻原氏は言う。

サービスの進化の段階は3つある。

一段階目は、「御用聞き型」で、お客さんから言われたことを、効率的に、ミスなくこなす段階。

ルートセールスなどによく見られるパターンだ。

 

それが進化して、二段階目になると、「啓発型」となり、コンサルティング的なアドバイスや提案などを積極的に仕掛けていく段階となる。「提案型営業」を軸に据える会社によく見られる。

だが、あくまで「サービス提供者」と「サービス受益者」という構図は変わらない。

 

そして、更にそれが三段階目の「共創型」となると、「お客さんと共に成果に取り組む」形になる。

例えば

・担当者と共に社長への提案書を作る

・クライアントと共同で、ワークショップを行う

・共にwebサイトの改善案を練る

・協力会社の選定を共に行う

などだ。

以上のように、「顧客に言われた通り動く」でも「顧客に教える」でもなく、「顧客と共に経験する」が、最もお客様との関係も強固になりやすい。

webマーケティングの分野も、「単にツールを提供すれば良い」ではなく、顧客と共に問題解決の現場に入ることに、本当の意義がある。

荻原氏が言うように、顧客と「共創」関係を生み出すことができれば、確かに理想的な関係を築くことができるのだろう。

 

ただ、問題もある。

顧客と「共創」の関係に至るには、前述した親子関係と同じく、信頼関係が不可欠だ。

そして、信頼関係を築くのは、一長一短にできることではない。

 

例えば、顧客がサービス提供者にたいして

「ウチら、詳しいことはわかんないから」と言ったり、

「プロなんだから、おまかせでやってくれるんでしょ」

と、「下請け」扱いしていたり、逆にサービス提供者が顧客を「数ある顧客の中のたった1社」扱いしていれば、「共創」は生み出せない。

 

ではどうすれば「信頼関係」を築くことができるのだろうか。荻原氏よれば、経験的に2つのことが重要であるという。

信頼関係を築くには、まずは顧客との対立から逃げないことが大事だ。

本気で事に向き合っても、成果が思うように出ない時もある。でもそこで顧客の言いなりになってはいけない。お客さんに対してはあくまで誠実に、成果を上げるまで、重要なことを堂々と主張することが重要だ。

でなければ、成果は出ない。

 

そしてもう1つはまずは「頭でっかち」でもいいと思うくらい、お客さんと業界、サービスの知識を身につけることが重要だ。

実際、ソウルドアウトでは、「頭でっかち」はむしろ褒め言葉。

十分な知識もないまま、顧客先に社員を行かせ、「とりあえずやってこい」は、インテルの元CEOが述べているように、「お客さんに教育コストを負担させているだけ」で、あってはならない。

だったら、こちらの社内でまずは思い切り知識を詰め込む。

 

ちょっと前に、「エンジニアは業務時間外にも勉強するべきか」という話題が盛り上がったが、我々からすると、業務時間外などではなく、業務時間内で思い切り勉強してもらっている。

弊社では資格を取ったら給料が上がり、研修を受けたら給料が上がり、社内試験にパスをすると給料が上がる。

 

逆に、いくら売上に貢献する活動をしても、資格も取らず、研修も受けず、社内試験に合格もしなければ、評価はされない。

若いときはそれでいい。ソウルドアウトは、制度として「勉強したもの勝ち」だ。

「共創」を主眼とするのであれば、企業は社員に「成果にかかわらず、知識を身に付きさえすれば給料が上がる」ような環境を作り、学ぶ文化まで高めていくべき。荻原氏はそう語った。

 

 

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