「二兎を追う者は一兎をも得ず」という諺があるが、本当だろうか。
私は二兎いれば二兎、三兎いれば三兎を追うのがいいと思っているタイプだが、結果的に一兎を得られる確率が上がるのか下がるのかについて検証したわけではない。
ただ、最近強く思うのは、目の前に二兎いたときに一兎しか追わなかった人は、たとえその一兎を得ることができたとしても後悔することが多いのではないか、ということである。
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就職先を選ぶ際も、付き合う相手を選ぶ際も、自分が一方的に選ぶ立場にあるということはまずなく、相手に選ばれて初めて就職する/付き合うことができる。
自分は常に選び選ばれる立場にある。
就職先を決める場合、これは大学生の就職活動においても社会人の転職活動においても言えることだが、いくつかの会社を比較しながら見ていくことになるだろう。
その中で「ここに入りたい」と思える会社が2つあったとする。
甲乙つけがたく、同率1位の会社である。履歴書やエントリーシートを送り、面接に進む。どちらも好感触だ。A社は本日、B社は来週最終面接がある。こんなケースを想定しよう。
幸運なことに、本日A社から内定がもらえた。さて、どうするか。
このようなケースでは先に内定がもらえたからとA社に決めてしまう人が結構いる。B社とは同率1位なのだから、先に内定をくれたほうに決めるというのは決して悪い選択だとは思わない。
ただ、B社の結果を知らないまま決めてしまうと、後悔のもとになってしまう可能性がある。
というのも、A社に就職したとしてその先ずっと100%満足していられるかというと、その可能性は限りなくゼロに近いからだ。
どんなに素晴らしい会社だったとしても、待遇も人間関係も仕事内容も、あらゆることに一切の不満なく何年も働き続けることができる人は滅多にいない。
就職している周りの人の話を聞いても、程度の差こそあれ皆何かしら不満に思うことはあるようだ。
そうなったとき、「もしB社に入っていたら」と思うことは絶対にないと言い切ることはできるだろうか。
A社の待遇に不満が出てきたとき「B社だったらもっと好待遇だったかもしれない」、A社の仕事内容がつまらなかったとき「B社だったらもっと楽しい仕事だったかもしれない」と……。
「手に入れることができたかもしれない未来」に対して、何の未練もなく断ち切れるほど人間は強いのか。
私は自分も含め、人間は弱いと思っている。
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これは恋愛についても同じことが言える。
「付き合えたらいいな」と思う人が2人いるとする。
AさんにもBさんにも惹かれるところがあり、2人とも同じくらい魅力的な人だ。
そんなとき、Aさんから告白された。もともと「付き合えたらいいな」と思っている人なので、OKの返事をする。
恋愛だと“縁”という話になりやすいため、内定先にOKの返事をするときより“当然”感が強くなるが(会社選びも“縁”だという人はいるが、恋愛ほどではないだろう)、後悔する可能性があるという点については会社選びもパートナー選びも同じだと思う。
なぜなら、「Bさんと付き合えたかもしれない未来」が存在してしまうからだ。
Bさんと付き合えるかどうか結果を知ることなくAさんと付き合うことを決めてしまうと、自分の中に「Bさんと付き合えたかもしれない未来」は一生残り続ける。
Aさんとずっと幸せな毎日を過ごすことができれば問題はないが、長く付き合っていたらたまには喧嘩をしてしまうこともあるだろう。
そんな時、「もしBさんと付き合っていたら」という邪念が脳裏に浮かぶことは絶対ないと言い切ることはできるだろうか。
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選ばなかった未来の結果を知ることはできない。
「やらずに後悔するより、やって後悔しよう」というが、まさにその通りだ。“手に入れることができたかもしれない未来”という、“もう絶対に手に入らない過去”を思い描き続けることほど不毛なことはない。
「手に入れることができたかもしれない未来」は、実は「もう絶対に手に入らない過去」なのだ。
これを認識しておくことは、未来の選択をする上でとても重要だと思う。
また就職の話に戻すと、A社に先に内定をもらったとしても、その時点でB社を切り捨てるのではなく、B社の最終面接も受けてみれば、結果はどうであれ、後悔することはなくなる。
B社からも内定をもらえれば、改めてA社とB社を比較し、自分の意志でどちらかを選択すればいい。
「先に内定をもらったから」という「自分の意志」とは関係ない理由で選択すると、うまくいかなかったときに後悔してしまう。
もしB社から内定がもらえなければA社に入るしかないので、これはこれで未練なく進むことができる。
もちろん、就職や恋愛の話は例であって、「仕事か家庭か」という(特に女性は)よく聞く選択や、「勉強か部活か」「大学院か就職か」という選択等、どちらかを切り捨てなければならないように感じる場面はあるだろう。
でもそれは本当に切り捨てなければならないものなのか、一考の余地はある。
「もしあの時こうしていれば」と思ってしまうことが多い人は、二兎いれば二兎、三兎いれば三兎を追ってみるのも悪くないと思うが、いかがだろうか。
追った数だけの兎が得られるかどうかは保証できないが、少なくとも後悔することはなくなるはずである。
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ではまた!
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(2024/1/22更新)
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【著者プロフィール】
名前: きゅうり(矢野 友理)
2015年に東京大学を卒業後、不動産系ベンチャー企業に勤める。バイセクシュアルで性別問わず人を好きになる。
【著書】
「[STUDY HACKER]数学嫌いの東大生が実践していた「読むだけ数学勉強法」」(マイナビ、2015)
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(Photo:Thomas Hawk)