以前、東京大学の教授が「古代ローマの奴隷はサラリーマンと似たようなもの」と述べていた。
日本のローマ研究の第一人者である東京大学の青柳正規名誉教授が、当時の時代背景について説明。「古代ローマにおける奴隷の存在」について聞かれ、こう語った。
「我々は奴隷というと、アメリカにおけるアフリカ奴隷が頭にある。しかし古代ローマの場合は戦争捕虜として、最初は連れられてくるんだけど、非常に貴重な働き手だった」
そのため「生かさず殺さず、子どもも作って欲しいという待遇」だったといい、「今で言えば言葉は悪いけど、ちょうどサラリーマンみたいな存在と考えてもいいんじゃないですか」と話した。(Blogos)
塩野七生著「ローマ人の物語」においても、彼らが貴重な労働力として大切にされていたという表現があり、われわれが奴隷にもつイメージと現実は異なっていたのだろう。
そして、つい先日も奴隷に関する本を読んだ。
著者名を見ると、マルクス・シドニウス・ファルクスとあり、古代ローマ人が書いたものと錯覚しそうだが、もちろんこれは古代ローマ人が書いたものではない。
ジェリー・トナーというケンブリッジ大学の研究者が、古代ローマにおける奴隷の扱い方、生活の実体について研究をもとに書いた本だ。
そして、驚くべきことに内容は現代の「上司本」とほぼ同じである。中身はぜひ読んでいただきたいが、amazonの解説を見るだけでも思い当たることが数多くある。
古代ローマ貴族が教える、究極の“人を使う技術”
◆奴隷の買い方
→若いやつにかぎる◆やる気を出させるには
→目標を持たせ、成果報酬を採用しろ◆管理職にするなら
→顔の良い男は避けろ◆拷問の行い方
→奴隷は資産。適度な鞭打ち、鉤吊りを◆性と奴隷
→家族を持たせて人質に◆反乱を防ぐには
→互いに話をさせるな
もちろん、古代の奴隷に対する凄惨な暴力には目を覆うものがある。
が、現代の会社でも「やりがい」と引き換えにサービス残業させ、目標未達者に対して恐怖で威圧したり、家を買った瞬間に転勤させたり、言論統制したりと、古代ローマも現代もほとんど変わりがないのだな、とも思う。
奴隷が廃止されたのは大別すると2つの理由がある。一つは道徳的観点から、もうひとつは経済的観点からだ。
「人が人の運命を勝手に決めることができる」という状況は、多くの宗教観や道徳観と一致しない。また、13世紀のマグナ・カルタに始まる人権というものの発明により、奴隷制は不道徳なものとして次第に忌避されるようになる。
また、奴隷を維持するには多額の経費がかかるので、女工哀史に描かれたような「事実上の奴隷」は機械に取って代わられた。 近代国家には「奴隷」は不可欠ではなくなったようにみえる。
だが実際には奴隷「制度」が無くなっただけであり、金銭的な理由で「自分の運命を自分で決めることのできない人」は、現代の日本にも大勢存在している。
もちろんサラリーマンは奴隷ではない。サラリーマンは奴隷と異なり、自由に雇い人を変える自由を持っている。主人に絶対の服従を誓う必要もない。
しかし、国や会社・上司にいいように振り回される人生をおくるのではなく、自由な人として存在したいなら多くの人は、経済的な自立を果たしたい、人生の決定を他者に委ねず、自分で決定したいと思うのではないだろうか。たとえ安定を失ったとしても、と考える人は増えているように思う。
依存は必ず搾取をもたらす。そして有史以来、それはほとんど変わっていない。
(2025/6/16更新)
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第4回目のお知らせ。
<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>
第4回テーマ 地方創生×教育
2025年ティネクトでは地方創生に関する話題提供を目的として、トークイベントを定期的に開催しています。
地方創生に関心のある企業や個人を対象に、実際の成功事例を深掘りし、地方創生の可能性や具体的なプロセスを語る番組。リスナーが自身の事業や取り組みに活かせるヒントを提供します。
【ご視聴方法】
ティネクト本音オンラインラジオ会員登録ページよりご登録ください。ご登録後に視聴リンクをお送りいたします。
当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。
【ゲスト】
森山正明(もりやま まさあき)
東京都府中市出身、中央大学文学部国史学科卒業。大学生の娘と息子をもつ二児の父。大学卒業後バックパッカーとして世界各地を巡り、その後、北京・香港・シンガポールにて20年間にわたり教育事業に携わる。シンガポールでは約3,000人規模の教育コミュニティを運営。
帰国後は東京、京都を経て、現在は北海道の小規模自治体に在住。2024年7月より同自治体の教育委員会で地域プロジェクトマネージャーを務め、2025年4月からは主幹兼指導主事として教育行政のマネジメントを担当。小規模自治体ならではの特性を活かし、日本の未来教育を見据えた挑戦を続けている。
教育活動家として日本各地の地域コミュニティとも幅広く連携。写真家、動画クリエイター、ライター、ドローンパイロット、ラジオパーソナリティなど多彩な顔を持つ。X(旧Twitter)のフォロワーは約24,000人、Google Mapsローカルガイドレベル10(投稿写真の総ビュー数は7億回以上)。
【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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