もう1ヶ月以上前のこと、私はとある就活イベントに参加していた。
就活イベントといっても採用するためのイベントではなく、大学の卒業生がどのように就職活動をしてきたか、今どのような仕事をしているかについて話し、在学生の参考にしてもらうためのイベントだ。
興味深い話はいくつかあったが、中でも特に印象に残っていることがある。
それは社会人の1人が学生と社会人の違いについて言及した話だ。私がこれまでに聞いたことがあるのは、「評価のされ方が違う」「責任の重さが違う」「時間の使い方が違う」「教えてもらうか、自分で覚えるか」「お金を払うか、受け取るか」「人間関係を選べるか、選べないか」「正解があるか、ないか」といったものだった。
その人は、学生と社会人は「恋愛か、結婚か」という違いがある、と言っていた。
確かに、学生の頃は結婚の話をしている人はほとんどいなかった。飲み会で盛り上がる話題は常に恋愛であり、誰もが恋愛をしたがっているように見えた。
大学の人間関係は恋愛至上主義で成り立っていると思えるほどだった。
高校までは偏差値至上主義であり、大学は恋愛至上主義になる。会社は成果至上主義だ。
現実はもっと複雑にできているけれど、メインの評価軸は決まっているように見える。
と、少し話が逸れてしまったが、とにかく大学生の頃はプライベートの話と言えば恋愛だった。そこに結婚の話はなかった。
それが社会人になると急に結婚の話になる。この変化に驚き、戸惑った、という話だ。
社会人になると、「誰かと付き合っているか」ではなく、「既婚者か独身者か」という点を見られるようになる。
恋人の有無ではなく、配偶者の有無が問われる。“恋愛”という感情から“結婚”という制度の話に変わっているのである。
これが良いとか悪いとか、そういう話をしたいわけではない。ただ「結婚」というものが社会において大事だと思われていて、しかも結婚しているかどうかがその人を表す重要な指標になっているということだ。
実は同じイベントでもう1つ興味深い、そして残念な話を聞いている。
それは結婚と評価の関係についてだった。
なんと、結婚していないと会社で評価してもらえないということがあるというのだ。衝撃を受けた。このご時勢でまだそんなことをしている会社があるなんて。
露骨に評価を下げるということはさすがにしないらしい。それでも結婚していないことが評価と結び付けられていることをひしひしと感じる、感じざるを得ないようなことが重なり、確信してしまう。
こうして優秀な人材が転職を決意する。
未婚者が評価で不利になるのは、結婚してこそ一人前という価値観があるからだろう。
ただ、この価値観、今でも本当に残っているのだろうか。
ふと過去のちょっとした会話を思い出した。
30歳前後、いわゆるアラサーの容姿端麗な女性がいる。彼女にはお付き合いしている男性がいるようだが、結婚はしていなかった。
彼女と仲が良い人たちは、「あれだけ美人なのに結婚していないと、何か欠点が隠れているのではないかと思われてしまいそう。美人で損なこともあるのねー」と言っていた。(文字だと伝わりにくいが、嫌味ではなく、フレンドリーな会話の一部である。)
「欠点が隠れているのではないか」ではなく、「欠点が隠れているのではないかと思われてしまいそう」というのがポイントで、周囲の人たちは皆彼女が素晴らしい人だと知っていて、貶す意図など全くない。
ただ、彼女のことをよく知らない人が独身であるという点だけで彼女を欠点のある人だと決めつけてしまわないか心配しているのである。
似たような話がある。
淡々と要領良く仕事をする彼は、周りの先輩に「自分は君が仕事をしっかりやっていることを知っている。だが他の社員には伝わらないだろうから、アピールすることも大事だ。もっと他人からどう見られているかを意識したほうがいい」とアドバイスされたという。しかも1人ではなく、複数人に。
皆、「自分にはわかる。でも他の社員にはわからないだろう」と想像してアドバイスをくれる。
だが「仕事をもっとしっかりやったほうがいい」と言う人は1人もいないらしい。つまり、「他の社員」にも彼が仕事をしっかりやっていることは伝わっていて、アピールする必要などなかったのだ。
もちろん、ただ仕事をしているだけは評価してもらえないこともあるため、アピールも大事だというアドバイス自体は間違っていない。
ただ、彼の場合はアピールするまでもなく周囲に仕事ぶりが伝わっているにもかかわらず、周囲の人が勝手に「彼が良い仕事をしていることは自分にしかわからないはずだ。だからアピールすることの大切さを伝えてあげなければ」と思っていたのだ。
この「自分は理解しているが、他の人は違うだろうから、気をつけたほうがいい」というアドバイス。
私も聞いたことがある。
「僕は賛成だけど、周りの人は反対するだろうから、やめておけば?」
「私は偏見ないけど、周りの人はあるだろうから、言わないほうがいいよ」
その「周りの人」は本当に存在するのだろうか。少なくとも私は、彼らがいう「周りの人」に出会ったことがない。
結婚している人はまとも、結婚しない人はまともじゃない。この価値観についてどう思うか。
「自分はそうは思わないけど、世間はそう思うんじゃない?」
そう思っている「世間」は本当に存在するのだろうか。もしかしたら、皆の頭の中でだけ存在している「世間」かもしれない。
いや、それは都合良く考えすぎだろうか。いずれにしても、時代遅れの価値観を反映した評価制度がなくなることを願わずにはいられなかった。
(2025/7/14更新)
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第6回 地方創生×事業再生
再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは
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保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例
再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む
経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説
「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論
数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する
経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”
【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。
【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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【著者プロフィール】
名前: きゅうり(矢野 友理)
2015年に東京大学を卒業後、不動産系ベンチャー企業に勤める。バイセクシュアルで性別問わず人を好きになる。
【著書】
「[STUDY HACKER]数学嫌いの東大生が実践していた「読むだけ数学勉強法」」(マイナビ、2015)
「LGBTのBです」(総合科学出版、2017/7/10発売)
(Photo:World of Payne)