それをお金で買いますか――市場主義の限界お金儲けはクリエイティブである。お金儲けは正しいことである。お金儲けは尊敬されるべきことである。これは本当だろうか?

実際には「お金儲け」の正当性は科学的に証明できない。だから、「お金儲け」は時として様々な議論の対象となる。

 

現代、教育、永住権、排出権取引、健康管理…あらゆるものが市場取引の対象となるに従って、「お金儲け」の倫理観に関して、人々はますます鋭敏になっている。

たとえ多くの経済学者が「市場は倫理観や道徳に影響を与えない」といったところで、多くの人はそうは感じていない。

 

例えば、マイケル・サンデル著「それをお金で買いますか」にはこのような事例がある。

 

”10万ドルの生命保険に入っている人が、医師から余命1年と告げられたとする。今や医療費として、あるいは残された短い人生をただ豊かに生きるために、彼にはお金が必要だとしよう。

病に冒されたこの人物から、ある投資家が例えば5万ドルという割引価格で保険証書を買い取り、毎年の保険料は代わって支払おうと申し出る。

原契約者が死亡すると、投資家は10万ドルの死亡保険金を受け取る”

 

これは、「バイアティカル」という名前で呼ばれる産業だ。たしかにこれを考えた人間は、クリエイティブなのかもしれない。大儲けをしているかもしれない。

しかし、あなたはこれを読んでどう思うか?サンデル氏はこう続ける。

 

”一見、すべての当事者にとって申し分のない取引のように思える。死期が近い原契約者は必要な現金を手にするし、投資家は大儲けできる。-ただし、その人が予定通り死んでくれれば”

 

このような「生命の取引」は市場の手に委ねていいものなのだろうか。

実際、「投資家」が「原契約者の早い死」を望むような商品は、販売されても良いものなのだろうか。

 

また、サンデル氏はこのような例も紹介する。

 

”シカゴでは、九年生が自分の履修する過程で良い成績を取ると、現金が支払われた。Aなら50ドル。Bなら35ドル。Cなら20ドルだ。首席の生徒は、一学年度で1875ドルというかなりの儲けを手にした。”

 

このように生徒にお金を与えて成績を向上させよう、という試みは世界各国で存在する。実際、「効果がある」とする報告もある。

また逆に「成績が上がったクラスの先生にお金を与えよう」という試みもあり、議論の対象となっている。

 

経済学者に言わせれば「全く問題ない」という、こういった取引に対してマイケル・サンデル氏は警告を発する。

「市場を通じた取引は、人の道徳観を弱める可能性がある」というのだ。

 

確かにバイアティカルは取引の双方が喜ぶ(かも知れない)。しかし、「人の死を願う人」を世の中に増やすという行為は、人の道徳観を著しく損なう。

また、「良い成績を取れば、お金がもらえる」と言うのは、勉強本来の「知的興奮」を減退させたり、「短期的利益ばかりを追い求める人をふやす」かも知れない。そういった価値観を助長してもいいのだろうか。

 

「お金儲けは悪だ」という人たちは、時としてお金が道徳を壊すということを知っている。

自由市場は万能ではなく、負の側面もあるのだ。

 

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安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
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(2025/6/2更新)