プロフェッショナルマネジャーハロルド・ジェニーンという人物がいる。日本においては「プロフェッショナルマネジャー」という書籍によってよく知られた人物だ。この書籍はユニクロの柳井氏が絶賛したことでも知られているが、非常に良い本である。ジェニーン氏は十数年にわたってITTというアメリカのコングロマリットを指揮し、そこにおいて58四半期連続増益という金字塔を打ち立てた。

この本は彼が成した事を紹介する本なのだが、よくある経営ノウハウ本ではなく、どちらかと言えば彼の経営哲学を紹介した「思想書」と言っても良いかもしれない。

 

さて、この本の最後にジェニーン氏がまとめた「経営についての個人的な勧め」が掲載されている。非常に素晴らしいものであるので、紹介したい。

 

1.物事を行うには、ルール通りやらなければいけない。しかし、ルール通りに考える必要はない。

2.自分を大きく見せようとするな。

3.人々が考えることは、憶測を強く加味した事実である。重要なのは事実を伝える人間の信頼度だ。

4.本当に重要な事は全て自分で発見しなくてはいけない。現場に質問せよ。

5.現場は質問されたがっている。

6.本質的な質問を嫌がる奴はインチキな人間だ。そういう人間を発見して、追い出せ。

7.聞きもしないのに、教えてくれる人はいない。

8.きわどい決定はマネジャーが行わなくてはいけない。

 

そして最後に、ジェニーン氏は上のすべてを行うためには「犠牲」が必要だという。

 

”これら全てには、個人として支払わなくてはならない代価がある。自分に尋ねてみるがいい。傑出した結果を達成することに成功するマネジャーになるために、自分の人生のどれだけを捧げる気があるか?と。

(中略)もしそうした個人的犠牲を払う気があるなら、そうするがいいし、不平は言わないことだ。それを望んだのは自分であり、誰からも強制されたわけでは無いのだから。

そうして、一人前のマネジャーとなったら、毎日午後5時になると、必要とされる個人的犠牲に現実に直面させられることになる。マネジャーの正規の執務時間は、概ね他人のためのものだ。組織の中の誰かが彼と連絡を取る必要がある時には、いつでもそれに応じられなくてはならない。公式、非公式の会議、そして同僚や部下との一対一の話し合いは、際限のない緊張を彼に強いるだろう。

(中略)しかし、午後5時になると、押し寄せる人々とその要求の波は止まる。そして彼は1人机に向かって座り、ようやく自分のしたいことをしても良い時間が来たことを知る。

(中略)ほかのみんながいなくなってしまったその時間こそ、自分自身の仕事、自分自身の思考ができる時間だ。むろん、やらなくてもかまわない。彼がそうしないからといって、会社は潰れはしない。彼に変わって決定をしたがっている人間はいくらでもいる。だから適当に彼らに任せ、しかも自分がやっているように見せかけることもできよう。命令を発し、それに従わせることもできよう。しかし、そこには違いができる。

それらはもはや彼の命令、彼の決定ではない。他の人間がおこなったものを、彼の口から伝えているだけだ。そのことは自分も知っているし、組織の中の他の連中も知っている。

そして、彼は仲間や部下たちの尊敬と信用と呼ばれるものを失う。

彼のリーダーシップはビューロクラシーに取って代わられ、会社の活力は沈滞する。それは極めて徐々に進行するので、気がつくのはよほど敏感な人々だけだ。しかし本人は、心の底の底でそのことに気づかないはずはない。それを選択したのは彼自身なのだ。

きみは夜遅くまで宿題をやろうと思うか?それとも仕事じまいをして家に帰り、残った仕事は他人任せにするか?”

 

 

私は苦しい時にこの本のこの部分をいつも読み返すことにしている。この道を選んだのは自分なのだ。

 

 

プロフェッショナルマネジャー

プロフェッショナルマネジャー

  • ハロルド・ジェニーン
  • プレジデント社
  • 価格¥1,466(2025/06/06 04:45時点)
  • 発売日2004/05/15
  • 商品ランキング1,960位

 

【安達が東京都主催のイベントに登壇します】

ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。


ウェビナーバナー

▶ お申し込みはこちら(東京都サイト)


こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい

<2025年7月14日実施予定>

投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは

借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。

【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである

2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる

3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう

【登壇者紹介】

安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00

参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。


お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください

(2025/6/2更新)