世の中で「生産性」の議論が活発である。

特に日本生産性本部が発表する、「OECD諸国との比較」において、日本が35カ国中21位と振るわないデータが発表されて依頼、「生産性を上げなければならない」という話題をメディアでよく見かけるようになった。

 

さらに、働き方改革に起因する「労働時間の短縮」がこれに拍車をかける。

「定時までに帰らなければならない」が、「個人が仕事を早く終わらさなければならない」と解釈され、効率よく、脇目も振らず一心不乱に仕事をすることが、「生産性向上」と曲解された。

 

しかし、本来の「生産性向上」とは、全くそのような話ではない。

なぜなら、上述したような施策はすべて「部分最適」に陥るからだ。

いくら個人が頑張っても、それは個人の成果はおろか、全体の成果には結びつくとも限らないし、場合によっては他部署を混乱に陥れるだけ、というケースもよくある。

 

世界的ベストセラー「ザ・ゴール」を執筆した物理学者、エリヤフ・ゴールドラットは「日本人は部分最適にかけては世界で超一級」と述べたが、裏を返せばそれは「全体最適については平凡」ということだろう。

 

だから「生産性」と「働き方」を結びつけてはいけない。

生産性は企業全体や、チームの話であり、働き方は個人の話だ。

ここを混同すると

「生産性を上げろ!早く帰れ!」という、わけの分からないプレッシャーのかけ方が、社内でまかり通るようになる。

 

「チーム」の生産性を高めるには

したがって、「生産性」は本来、サービス開発、マーケティングに始まり、顧客へのアフターサービスに終わる、一連の業務プロセス改善と同義である。

 

ソウルドアウト社の代表、荻原氏は「生産性の向上は会社全体で取り組むもの」と強く主張する。

荻原氏:

弊社では、幾つかの「生産性向上」に関する原則を持っています。

その中でも特に重要な幾つかの原則についてご紹介したいと思います。

 

1.「答える価値のある問い」を時間をかけてでも探す。

ピーター・ドラッカーの著作に、こんな言葉があります。

戦略的な意思決定では、範囲、複雑さ、重要さがどうあろうとも、初めから答えを得ようとしてはならない。

重要なことは、正しい答えを見つけることではない。正しい問いを探すことである。間違った問いに対する正しい答えほど、危険とはいえないまでも役に立たないものはない。

さすがドラッカー、と敬服するのですが、私の経験からも「生産性の低さ」は「答える価値のない問い」から生まれていることがほとんどです。

 

例えば、弊社は顧客へ定期的に広告のレポートを送っていますが、創業当時はこのレポートを書く作業に非常に時間がかかっていました。

一般的にはそこで問われるのは、「もっと早くレポートを書くためにはどうするか?」でしょう。

しかも、現場から意見を貰えば、「標準化しよう」や「教育する」や「事例を集める」など、数多くの生産性向上の施策が出てくると思います。

 

でも、残念ながらこの「どうしたらもっと早く書けるか?」という問いは完全な間違い、とは言わずとも間違った生産性向上をもたらす可能性があります。

本当に生産性を劇的にあげるならば、「どうしたらレポートを書かずに済ませられるか?」という問いのほうが、より効果的です。

レポートをコンサルタントが書かずに済ませられれば、その分は顧客のフォローや、効果的な施策の発案ができ、全く異なる次元で生産性が向上します。

 

結果的に、私達の会社では、「レポートの作成を自動化」することにしました。

このように「問い」を変えることで、生産性は大きく変わるのです。

 

2.「自前主義」を捨てる

弊社では出来うる限り、フリーランスの方々を活用することを是としています。

実際、自分たちで業務を行うより、フリーランスの方々のほうが上手に行くことも数多くありますし、弊社で行うには単価が見合わない作業も、フリーランスの方々にとっては「おいしい仕事」というケースは数多くあります。

 

かつて18世紀の経済学者、デヴィット・リカードは「お互いが得意なことに特化することで、全体の生産性を向上させることができる」という「比較優位」をときました。

 

その理論の通り、我々は「最も付加価値の高い仕事」に集中することで、多くの顧客を満足させることができるばかりか、我々と取引のあるフリーランスの諸氏に対しても、「いい仕事」を発注することができる。

これが真の生産性の向上ではないでしょうか。

 

3.「時間」が最も貴重な経営資源である

もはや「当たり前だろう」と指摘されるレベルであるとはおもいますが、この考え方を会社の隅々まで浸透させることはそう簡単なことではありません。

特に「時間が貴重である」という意識は現場のレベルでも徹底されなければなりません。

 

例えば、私は月曜日には外出しないようにしています。私に用があれば、月曜日に設定すれば必ず会えるとわかっていれば、余計な日程調整も必要ありません。

私もミーティングを月曜日に固めることで、他の日にわざわざ帰社する必要がなくなり、効率的に物事を遂行できます。

 

また、弊社では重要な会議であっても「ビデオ会議」が当たり前のように行われています。

「対面で行うこと」を重視する人もいますが、本当に対面で行わなければならない会議はごく僅かです。

むしろ、ビデオ会議はアジェンダを決めておけばダラダラ行われることもなく、決め事のみで短く終わります。

 

 

以上のように「生産性」とは、社員一人ひとりの努力に頼る話ではありません。

繰り返しになりますが、むしろ生産性の話は、経営陣しか解決し得ない話が数多くあり、「働き方改革」とは全く別の解決を必要とするものであると、私は思います。

 

 

 

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(Photo:Kanban Tool)