当メディアに寄稿をしていただいている熊代亨氏から、最近また、本を贈っていただいたので読んでみた。
タイトルは『「若者」をやめて、「大人」を始める』
この本には「若者」であるかのように振る舞い、その結果として痛い目にあう中年が数多く登場する。
実際、彼らは多くの人の目から見ても、大人げなく、イタい存在なのだ。
熊代氏は、本の中で
『「大人」が「若者」と同じように振る舞うと、破滅が待っている』と述べ、読者へ大人への成熟を促すメッセージを出す。
熊代氏は、書籍の中で「大人」になれない人が増えているのは、
・マスメディアが若者を礼賛する
・社会から大人を強制するような通過儀礼が失われている
・年長者と年少者の接点が少ない
と言った、昨今の社会事情を挙げている。
そして、熊代氏は一つの指摘をする。
「高学歴、かつ大都市圏で勤める人は「大人」を始める時期がどうしても遅れる」と。
それは、仕事を始めたり、結婚をしたりするのが遅く、アイデンティティの確立が遅れるからであると、氏は言う。
■
一方で、私はこの点に関しては「企業の責任」がかなり大きいと思っている。
率直に言えば、
「企業が若者ばかり欲しがる」から、都会の高学歴は「成熟」できないのだ。
中途採用市場を見てみると良い。年齢だけ考えても、殆どの企業が求めているのは、今でもせいぜい四〇歳前後までだ。
経験や成熟度を考えれば、別に五十代、六十代を採用しても良いはずなのに。
もちろん「年齢は関係ない」という企業もある。
でも、そういった会社であっても、殆どの経営者や採用担当者は言う。
「同じスキルなら、若い方がいい。だって、オッサンオバサンは、物覚えが悪く、頑固で、プライドが高いから。」
このように、企業は中途採用市場に
「チャレジングな人が欲しい」
「新しいことに意欲的に取り組める人が欲しい」
「守りに入ってはならない」
「フットワークが軽くなくてはならない」
というメッセージを発信し続けている。
そして、これらの活動は少し考えてみればわかるが、すべて「若者らしい」振る舞いだ。
対照的に「オッサン」的な発想は、面接ではNGだ。
・自分よりも若い人に頑張ってもらえるように振る舞います
・新しいことは苦手ですが、今まで作り上げたものには自信があります
・リスクを減らし、失敗を恐れます
・古き良きものを出来る限り残します
こういった「成熟した大人」を求める企業は殆どない。
でも、上のことは「親」や「コミュニティの長」としては、大切なことではないだろうか。
親は自分より子供に活躍してもらいたいと願うのが普通だし、家庭を「失敗しても良い」と、大きなリスクに晒すことはしない。
更に「若者的な振る舞い」が求められる最たる存在が、起業家たちだ。
いかに既存の枠にとらわれない発想ができるか。
いかに慣習にとらわれないで実行できるか。
いかに既得権を破壊するか。
起業家は、「大人」であるよりも、「若者」のように振る舞うことが良しとされる。
つまり「資本主義」そのものが、成熟した大人よりも遥かに、若者を求めている。
■
昔、「ちきりん」という著名ブロガーが下のようなツイートをしていた。
私はこれを見、「成熟」について考えさせられた。
(さっきのRTに関して) あたしに関していえばそれは違います。人は「自分の過去の成長カーブ」が、「自分のこれからの成長カーブより大きい」と感じ始めると、自分の成長より、他者の成長を手伝うほうが価値が高いと判断しはじめる。つまり(続く)
— ちきりん (@InsideCHIKIRIN) 2013年9月16日
(承前)つまり、自分の先行きの成長カーブに限界が見え始めると、「教育に関心がある」とか、「後進に自分の学んだことを伝えたい」とかいう気持ちになるんです。(続く)
— ちきりん (@InsideCHIKIRIN) 2013年9月16日
(承前) つまり「教育に関心がある」とか言い出したら、その人自身の成長は終わりってことです。本人が自覚したからこそ、そういう発想になる。(続く)
— ちきりん (@InsideCHIKIRIN) 2013年9月16日
(承前)あたし自身はもう何年も前に自分の可能性については見切ってしまったところがあり、だから開き直って、若者を中心に周りの人を「煽る」のが、(自分のできることの範囲内では)一番価値があることなんだろうと思ってる。というお話でした。(この件おわり)
— ちきりん (@InsideCHIKIRIN) 2013年9月16日
この件に関して、元LINEの執行役員だった田端信太郎氏が、次のようにツイートした。
ちきりんさんが突いてる「教育に関心がある、と言い出したら、その人はアガってる」論って、いろんなギョーカイで最大のタブーだったりして、幾らKYなオイらでも社会が狭くなりそうだから言えなかったんだけど、さすが!ちきりんは、俺達が出来ないことを平然とやってのけるぜっしびれるぅ!
— 田端 信太郎 (@tabbata) 2013年9月16日
「教育に関心がある」と言うのは、つまり「大人」になったということにほかならない。
そして、企業の中では「終わった人」「アガった人」と呼ばれる。
そう。
「高度の資本主義にさらされる、高学歴、かつ大都市圏で勤める人は、企業の中で「大人」になってしまったら終わり」なのだ。都会の高学歴が「大人」への成熟を求められないことの本質は、ここにある。
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