いわゆる「強者」たちは、「変化を楽しもう」とよく言う。
私もかなりの会社で、この言葉を聞く。
例えば、コンサルタントたちは、このフレーズが好きだ。
こうした変化の激しい時代なので、常にアンテナを高くして新しいテクノロジーを面白がることができる、変化を楽しむことができる人材が活躍できるチャンスが確実に広がっていると思います。
特に間違ってはいない。彼らが勝ってきたのはその対応力ゆえであるし、企業において言えば硬直的な組織は永くは存続できない。
だが、「変化を楽しもう」は、時として大きな反発を受ける言葉でもある。
なぜならそれは、強者のみが言える言葉だからだ。
◆
昔、「変化対応」を事あるたびに説く経営者がいた。
もちろん彼は心から「変化対応」を望んでいた。
当たり前である。お客さんの要望に合わせて会社を変化させて行くのが、彼の役割なのだ。
ある時経営者は人事評価制度を大きく変えた。
「売上をあげる営業」よりも「利益を出す営業」を評価するため、そして「新事業を担う人を評価する」ためだった。
この経営者の行ったことは「会社の存続」という視点からは至極まっとうだ。
だが、社内のベテランからの反発は大きかった。
なぜなら、今までの「みせかけのトップ営業」が、平凡な営業に堕ちてしまったからだ。
経営者は「変化対応が必要だ。利益重視に変わるべき」と主張した。
が、評価の下がった一部のベテランは表立っては言わないものの「経営者だけに都合の良い変化など認められない」と不満を貯めていた。
かと言って、彼らは実力があるわけではないので、転職する事もできない。
「不満分子」として、会社にのこり、事あるたびに若手へ経営陣への不満を言い始めた。
「変化対応っていうけど、すぐに手のひら返します、ってことだからね。」
もちろん若手もバカではない。ベテランに耳を貸す人は少なかった。
だが、若手たちも不安だった。「変化対応」を謳う経営者が、いつ評価基準を変えるか、わからなかったからだ。
環境が変われば、だれでも「堕ちる」可能性がある。若手の一人は「ベテランの気持ちもわからなくもない。」と言っていた。
結局、事態を重く見た経営者は「ベテランたちの評価は、今から3年間は古い制度で運用する」と譲歩し、事態は収拾した。
人は「損をする可能性」に過剰に反応する
「変化」の一例として、「人事制度の変更」や「転職」がある。
しかしそれは新しいチャンスを生む一方、給与が下がったり、職場に馴染めない、という心配もある。
変化の渦中にいる人物にとって、変化はメリット、デメリットの両者が存在する一種の「賭け」だ。
だが、「賭け」は歓迎されるとは限らない。例えば、次のようなシーンを想像してほしい。
あなたはコイン投げのギャンブルに誘われました。
・裏が出たら、1万円(100ドル)払います。
・表が出たら、1万5千円(150ドル)ドルもらえます。
このギャンブルは魅力的ですか?あなたはやりますか?
期待値がプラスのギャンブルであるから、受けない手はないのだが、実は、このギャンブルを受ける人は少ない。
参考:
なぜならば、大抵の人にとって、1万円を損する恐怖感は、1万5千円を得する期待感よりも強いからだ。
ちょっとした金額であっても「賭けに乗っても良い」という金額は、損失の1.5倍〜2.5倍の金額にも昇る。
また、こんな「賭け」も考えてほしい。
あなたは現在の富に上乗せして1000ドルもらった上で、次のどちらかを選ぶように言われました。
・50%の確率で1000ドルもらう
・確実に500ドルもらう
これも、大抵の人は2.を選ぶ。確実な500ドルは、もしギャンブルに出て1000ドルもらえなかったら、「損失」と見られるからだ。
人は「損が大嫌い」。しかも、賭けの金額が大きくなればなるほど、人はさらに、損失回避的になる。
得をする可能性があっても、損をする可能性はそれを遥かに上回る「嫌い」なのである。
「変化」を好む人は何を考えているのか?
上の会社が拙速に制度を改革しようとして失敗したのは、人の「損失回避の傾向」を甘く見たからだ。
だが、世の中には「変化対応」=「賭け」が好きな人もいる。
ではどんな場合に人は「変化対応」を好むのだろうか。
上の実験を行った経済学者のダニエル・カーネマンによれば、
「人は、悪い選択肢しか見えないときには、リスク選好的になる」という。
例えば、カーネマンは上の質問をすこし変化させた質問をした。
あなたは現在の富に上乗せして2000ドルもらった上で、次のどちらかを選ぶように言われました。
・50%の確率で1000ドル失う
・確実に500ドル失う
実は、この質問では面白いことに、大抵の人が「50%の確率で1000ドル失う」を選ぶのである。
つまり「悪い選択肢しかない」場合、「確実な損失よりも、損せずに済むチャンスに賭けてみる」と殆どの人は判断する。
ここに「変化対応」を好むか、好まざるかの境界がある。
変化を楽しめるのは、強者の証。
多くの経営者や仕事のできる人々が「変化対応」を好むのは、まさにこの性質による。
彼らの多くは「現状維持では確実に今後の状態は悪くなる」と思っており、座して確実なマイナスを待つより、賭けに出るほうが、感情に叶うのである。
そして、それは「コントロールする楽しさ」を伴う。
だが、そう思わない人も数多くいる。
弱者は「自分の人生はコントロールできる」と思っていない。
そして事実、おかれた環境に翻弄されてしまう。
彼らは「現状維持のほうが楽なのに、なぜ敢えて変えようとするのか」と疑問に思っている。
また、誰かが変化を起こそうとすると「現状が良くなる可能性」よりも「今より悪くなる可能性」が気になるため、損失回避傾向が働いて反発する。
彼らにとっては「現状維持」が最低ライン。プラスが見込めれば、変化に賛同してもいい、という感覚だ。
新しいテクノロジーは、自分の職を奪うかもしれず、新しい働き方は、自分の収入を減らすかもしれない。
そこで「変化を楽しもう」と言われれば、カチンとくるのも無理はない。
「変化を楽しめる」のは、それだけで強者の証だ。
そして、強者の都合だけでは、国も組織も動かないのである。
(事業サービス責任者-ティネクト株式会社 取締役 倉増京平)
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