「仕事ができる人になりたい」。
だれだって、1度や2度はそう思ったことがあるだろう。わたしだってそうだ。
じゃあ、「仕事ができる人」ってどんな人だろう。そんなことを考えていると、ふと2人のセールスパーソンのことを思い出した。
デキる美容部員のスムーズなセールストークに感動
横浜駅直結、平日でも多くの人で賑わう高島屋。
20代半ばにもなってまともに化粧のやりかたを知らないわたしは去年、資生堂コーナーで化粧品を一通り買い揃えることにした。
美容部員の方に肌質チェックをしてもらい、化粧水、美容液、乳液、化粧下地、ファンデーション、アイブロウに眉マスカラ、チークにアイライナー、アイシャドウにマスカラ、口紅下地にリップライナー、口紅にグロス……なにからなにまで一通り使い方を教えていただいた。
その人はアイシャドウや口紅を何色も出してくれたうえ、「せっかくだから」と何回かつけては落としてを繰り返し、似合う色を見つけてくれた。
「肌質を見る限り、化粧水と乳液はこれがおすすめです」
「アイシャドウはパープル系やピンク系がお似合いですよ。思い切って紺もありです」
「そのアイシャドウを使うのなら、この口紅はいかがでしょうか」
「このファンデーションなら、お粉はなくても平気です」
スムーズなエスコートのおかげで自分にぴったりの化粧品を選ぶことができたし、必要ないものを買わされることもなかった。
しかも、おすすめされたものの大半は、海外展開しているシリーズだった。
「どちらからいらしたんですか」という質問に対し
「横須賀です。でもふだんはドイツに住んでいて、一時帰国してるんで母と買い物に来たんですよ~」と答えたことを踏まえ、さりげなくドイツでも買えるものを用意してくれたのだ。素晴らしい心配りである。
思う存分買い物をした後、わたしは母とともに、「今日の人はすっごくよかったね!」と上機嫌でランチを食べに行った。
「これ以上あなたに似合う服はない」と言い切る販売員
もうひとり、すごい……というか、もはややばいセールスパーソンに出会ったことがある。
去年、付き合っている彼が職場のみんなでオペラを見に行くことになった。
しかし彼はそういったことにまるで興味がないので、着ていく服がない。
というわけで、P&Cという、ドイツにいくつもの支店を構える大型洋服店へと足を運んだ。そして、スーツ売り場の人に声をかける。
「オペラを見に行くんですが、どんな服装がいいのかわからなくて。適当に見繕ってもらえますか」
「OK、ちょっと待っててください」
そう言って、販売員の方はどこかへ行ってしまった。
ドイツでは客が放置されることは珍しくないので、「まぁ待っていれば戻ってくるだろう」と売り場をうろつくことに。
そして5分ほど経ち、販売員が戻ってきた。青い布地のジャケットと、グレーのスラックスを持っている。
「これを着てみてください」
「あの、大きさとかは……」
「大丈夫、絶対ぴったりだから」
半信半疑のまま彼が着てみると、驚くほどにぴったり。
彼は最近太ったから「似合うジャケットがない」と嘆いていたけれど、問題なく前も閉まるし、肩も上がる。
小さい頃から卓球をしていて太ももが太く、いつもズボン選びに四苦八苦するのだが、スラックスも快適らしい。
「一応、ほかのものも見せてもらったら?」とわたしが言うも、販売員は「あなたにこれ以上似合う服はありません」と断言。
その勢いに押され、彼は気がついたらレジに並んでいた。1時間はかかるだろうと覚悟していた買い物は、ものの10分で終わったのである。
絶妙な「判断を任せるさじ加減」で売りこむセールスパーソン
なぜわたしはこの2人のセールスパーソンを、「仕事ができる人」だと思ったんだろう。
海外在住のわたしに海外展開している商品を勧めたから?
サイズを伝えていないのにぴったりのものを持ってきたから?
たしかに、相手の希望を先回りして叶える能力は、仕事においてすごく重要だ。
でもそれだけではなく、「判断を任せるさじ加減」が絶妙だったのもまた、大きかったと思う。
時と場合によって、選択肢をたくさん用意して他人に判断を任せたほうがいい状況と、自分が判断して進めた方がいい状況がある。
スキンケアなんて正直よくわからないから、肌質をチェックした結果をもとにプロが選んだものの方が確実だ。だから、美容部員の方に決めてもらいたい。
一方、口紅やアイシャドウというのはさまざまな色がある。「どの色が似合うんだろう」と迷うこと自体が楽しいから、いろんな選択肢がほしい。自分で決めたい。
資生堂の美容部員の方は、わたしの「多くの選択肢から選びたい」「よくわからないからおすすめを買いたい」という気持ちをそれぞれ汲み取って、わたしが決めるタイミングと自分で決めるタイミングとを、うまくコントロールしていた。
ドイツの販売員だってそうだ。
わたしの彼は早く家に帰ってゲームをしたいと思っているようなタイプで、買い物へのモチベーションが低い。
そのため、販売員の「自分自身で決めてしまう」という判断は正解だった。
判断を任せるさじ加減をまちがえると、服屋によくいる「うざい店員」になってしまう。
うざい店員というのは、自分で判断したい客に「これが似合ってます」と自分の判断を押しつけ、判断を他人に任せたい客に「どれもお似合いですね~」と言って背中を押さないタイプだ。
逆に、できる店員というのは、自分で決めたい客には口出しせず、判断を任せたい客にはちゃんと強気で売りにいく。
そう考えると、「判断を任せるさじ加減」は、仕事において結構大事だと思う。
いたるところで求められる「判断を任せるさじ加減」
そしてこの能力は、販売以外の分野でも必要とされることが多い。
わたしはライターとして活動するなかで、選択肢を多く用意したほうがいい場合と、自分で決めてサクサク進めたほうがいい場合があることを学んだ。
前者なら記事タイトル案をいくつか送り、編集者に選んでもらう。
後者なら構成案まで考えた記事テーマを1つだけ送ってOKをもらう。時には、相談なしで完成原稿を送ることもある。
自分で判断したい編集者に対して「これでいきます!」と言うと、「もうちょっと相談してくれてもいいのにな……」となるだろうし、判断を任せたい編集者に「どうします?」と聞くと「それを考えるのもライターの仕事だろう」となるだろう。
企業でも、いくつかのプランを用意して相手に判断させたほうがいい時と、自分判断で進めた方がいい時がある。それを間違えてしまうと、「自分で判断できない指示待ち人間」「自分勝手にやる協調性のない人間」と思われてしまうかもしれない。
必要に応じて選択肢を用意して相手に選ぶ余地を与え、場合によっては自分で決断して相手を悩ませずにモノゴトを進める。
「仕事ができる人」にはさまざまな定義があるものの、状況に合わせて選択肢の幅や相手に判断を任せる余地をうまくコントロールできる人は、きっと仕事ができるんだと思う。(自分ができるとは言っていない)
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(文責-ティネクト株式会社 取締役 倉増京平)
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名前:雨宮紫苑
91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&
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(Photo:pumpkincat210)