数あるSNSの中で、Twitterは(今のところ)最も面白い。
なんでかなー、と思って考えると、文字数の制約が、一種の「大喜利文化」を生み出すからではないかと思う。
例えば以下のようなコンテンツだ。
俺、霊感が強いので割と怪奇現象に遭遇するんだけど、その中でも最高峰のものとして、婚約者が東京にいるため「東京勤務でなければ会社やめる」と宣言していた新入社員に対し、社長が逆境を乗り越える経験をさせるために大阪配属を言い渡し、その翌日その新入社員が退職届を提出したというのがある。
— Mr. ベイエリア (@csstudyabroad) 2018年5月25日
Twitterの中には特に、「わかりやすい悪役」が登場し、共感、義憤を感じるようなネタがとてもたくさん転がっている。
しかし、こういった「ネタ」はあくまでもエンタテインメントの範囲にとどめておかなくてはならない。
これを現実の世界と混同する人が増えてくると、それは多少困ったことになる。
ではなぜ、わかりやすい「原因」や「悪役」が登場する話を、軽々しく信じてはいけないのか。
*
私の前職はコンサルタントだった。そして、その仕事の一つは「業務改善」だ。
マーケティング、販売、購買、在庫、生産……テーマは多岐にわたるが、いずれの業務改善も、最初の一歩は「ヒアリング」である。
たかがヒアリング、と思う方もいるだろうが、ヒアリングは次の目的を達成するために、とても重要な仕事だった。
1.事実確認
得られたデータ、数字に間違いないかどうか、そしてどのように計測しているかを確認する。
質問:
残業時間が◯時間ですけれども、どうやって残業時間を入力してますか?
回答例:
実際には記録をつけていない残業があり、今月の残業時間は◯時間が正確である。
残業時間をつけていい、と言われた人だけつけている
など
2.主観の確認
上のデータを「どのように捉えているか」を聞く。
質問:
いただいた資料には残業時間◯時間と書いてありますが、これについてどう思っていますか?
回答例:
とにかく忙しすぎます
人が足りません
もう少し効率化したいです
特に忙しいとは思っていません
など
この「事実」と「主観」を比較し「その人達がどう世界を見ているか」を把握できることがヒアリングの価値なのである。
だから、インタビューをしていると、徐々にその人の「思考のクセ」のようなものが見え、インタビューを何回か行った後には
「こんな提案をしたら、あの人はどんな反応をするかな?」
ということが、ほぼ見えるようになり、その後のプロジェクト推進が素晴らしく楽になる。
さて、本題に入ろう。
20年近くもこうした仕事をしていると、「思考のクセ」にはある程度のパターンがあることがわかってくる。
そして、特に注意を要するのが「わかりやすい「原因」や「悪役」が登場する」話だ。
例えば、以下のような発言である。
「◯◯さんが、悪いんですよ。」
「◯◯の業務があるから他のことができないんですよ。」
「モチベーションが下がっているからです。」
「給料が安いからです。」
「◯◯部が協力的でないからです。」
インタビューの素人は、こういった発言に対して「いい話が聞けた」と喜んでしまうのだが、実はその逆である。
むしろ自信を持って「わかりやすい「原因」や「悪役」が登場する」話をする人は、あまり有益な情報を持っていないとみなしたほうが良い。
心理学者のエイモス・トベルスキーはこれを実験によって確かめた。
トベルスキーは、ある訴訟についての情報を、3グループに分けた学生に提供した。
第一グループは原告の弁護士から、第二グループは被告の弁護士から、そして第三グループは両者から話を聞いた。
その結果、おもしろいこと「どちらか一方」だけからしか話を聞いていない学生の方が、自分の判断により自信を持っていたのである。
その理由は「情報が少ないほうが、自分の話の辻褄を合わせやすいから」だ。
参加者は全員、状況を完全に理解しており、原告か被告どちらか一方の弁護士からのみ説明を聞いたグループも、相手側の主張をたやすく推測することができた。
にもかかわらず、一方的な説明は彼らの判断に顕著な影響を与えた。しかも一方の側からだけ説明を受けたグループは、両方から説明を聞いたグループより、自分の判断に自信を持っていた。
そう、まさに読者もお気づきのとおり、手持ちの情報だけでこしらえ上げたストーリーのつじつまが合っているものだから、この人たちは自信を持ったのである。
ストーリーの出来で重要なのは情報の整合性であって、完全性ではない。むしろ手元に少ししか情報がないときのほうが、うまいことすべての情報を筋書き通りにはめ込むことができる。
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心理学者のダニエル・カーネマンはこれを「自分が見たものが全てだ(What you see is all there is))」と呼んでいる。
*
ネタに突っ込むのも野暮な話であろうが、冒頭の「婚約者がいるため、東京勤務でなければならない」と言った新入社員の話を検証してみると、
・そもそもこの新入社員は入社前に「転勤の有無」「勤務地」の話を人事としていなかったのだろうか?
・支社があり、社長が人事を一存で決めることができるくらいの規模の中小企業で、コストを掛けて採用した社員が辞めてしまうようなリスクを取る会社があるのだろうか?
という疑問が浮かぶ。
さらに「勤務地 希望」でググってみると、
【勤務地希望と理由の書き方|彼女、地元を離れたくない時の対処例あり】
というページがトップに出てくる。そのなかに、模範解答として、
○模範解答:婚約者がいるため、東京勤務を希望します。
という一文があり、これを元ネタにしたのではないかと思われる。
そういうことで、こういう話を鵜呑みにするのは、いただけない。
現実はもっと複雑なのだ。
(こちらの関連記事もオススメ ⇒ データにきちんと向き合わず、「分かりやすい悪役探し」をしても、誰も幸せになりません。)
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