間違いを指摘すると、大抵の人は「すみません」と訂正する。

だから「それ、知らなかったです」と言われたとき、珍しいな、と思った。

 

知らなかったとしても「知らなかった」と相手に伝える人はあまりいない。

なぜなら、まず間違いは訂正するほかないこと。

さらに、「それくらいのことは知っておいてほしい」と思われてしまったり、「教えていないほうが悪いと言いたいのか」と不快にさせてしまったりと、デメリットのほうが大きいように感じられるからだろう。

世渡り上手な人は、そのあたりをうまくやる。

 

でも思ったことをそのまま表明してしまう人も中にはいる。

たぶん、何も考えずにただ「知らなかった」と言っているだけだと思うのだが、言われる側としては珍しいと思い、つい考えてしまうのである。

正直なところ、「さすがに常識の範疇だろう」と思うようなこともあって、何でもかんでも知らないでは済まされないと思う部分もある。

 

でも「知らない」ということを、すべてその人の責任にしてしまってよいのだろうか。

 

 

 

もう随分前のことになるけれど、小学生になったばかりの頃の記憶が1つ残っている。

それは、「休め、気をつけ、前へならえ」の号令を初めて聞いたときのことだ。入学式だったと思う。

 

私以外の全員が、サッと動いた。号令通りに。でも私は動けなかった。知らなかったからだ。

たぶん、他のみんなは保育園や幼稚園で教わっていたのだろう。私の通っていた幼稚園では、そのような号令はなかったから、知らなかった。知らないと、動けない。

それでも学校では、全員が知っているという前提で号令がかけられていた。ちゃんと教えてから号令をかけてほしい、と思った。そんなの、知らないよ、って。

 

「知る」というのは、不可逆的なもので、一度知ったことについて、知らなかった状態に戻すことはできない。

だからこそ、一度知ってしまったことに対して、知らなかったときの状態を思い返すことは難しい。あたかも最初から知っていたかのような錯覚に陥る。

その傾向は知ってから時が経つほどに強くなると思う。でも、考えてみれば誰だって最初は知らなかったはずなのだ。

 

私は人事と言う立場上、毎月中途入社社員の研修をしているのだが、1つ失敗したと反省していることがある。

それは「お手洗いの場所」を伝えていなかったことだ。

研修中は休憩を挟みながら進んでいくから、休憩のときにお手洗いを案内する。しかし、職場は研修とは別のフロアにあり、当然お手洗いも別の場所にある。その場所を伝えることなく配属先へ案内してしまっていたのだ。

 

幸いにも、早い段階で「知らなかった」ことを伝えてくれた人がいたことによって気づかされ、その後は気をつけて伝えるようにしているのだが、自分が当たり前のように使っている場所なだけに、盲点になっていたのである。

 

会社では、新卒であれ中途であれ、新入社員は立場上「知らない」ということを言いづらい。

「知らない側が悪い」という雰囲気を感じ取ってしまうからだろうか。新入社員は一番知らないことが多いはずなのに、一番「知らない」と言いづらいという難しい立場にある。

だからこそ、先輩社員は相手の「知らない可能性」に敏感であるべきだと、最近強く思う。

 

「別にこちらから気を遣ってあげなくても、学びたい人は自分から積極的に学んでいくし、質問すればいいだけのことではないか」という意見もあるとは思う。

でも、最初のちょっとした気遣いで、お互いが気持ちよく働ける環境になるならば、それは積極的にやっていったほうがいいのではないだろうか。

 

知らない可能性に敏感になることは、たぶんそんなに難しいことではない。知らない人が知らないと表明することに比べたら、たいした負荷ではないだろう。

それに、知らない相手には、いつか誰かが教えてあげなければならないのだ。それなら先に教えてあげたほうが、そしてそのタイミングは早いほうがいいに決まっている。

 

もしそうする余裕がないのだとしたら、それはきっと自分に余裕がなさすぎるのだ。相手の「知らない可能性」に敏感になれるだけの余裕は、せめて確保しておきたい。

 

【お知らせ】
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第4回目のお知らせ。


<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>

第4回テーマ 地方創生×教育

2025年ティネクトでは地方創生に関する話題提供を目的として、トークイベントを定期的に開催しています。

地方創生に関心のある企業や個人を対象に、実際の成功事例を深掘りし、地方創生の可能性や具体的なプロセスを語る番組。リスナーが自身の事業や取り組みに活かせるヒントを提供します。

【日時】 2025年6月25日(水曜日)19:00–21:00
【ご視聴方法】
ティネクト本音オンラインラジオ会員登録ページよりご登録ください。ご登録後に視聴リンクをお送りいたします。
当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。

【ゲスト】
森山正明(もりやま まさあき)
東京都府中市出身、中央大学文学部国史学科卒業。大学生の娘と息子をもつ二児の父。大学卒業後バックパッカーとして世界各地を巡り、その後、北京・香港・シンガポールにて20年間にわたり教育事業に携わる。シンガポールでは約3,000人規模の教育コミュニティを運営。
帰国後は東京、京都を経て、現在は北海道の小規模自治体に在住。2024年7月より同自治体の教育委員会で地域プロジェクトマネージャーを務め、2025年4月からは主幹兼指導主事として教育行政のマネジメントを担当。小規模自治体ならではの特性を活かし、日本の未来教育を見据えた挑戦を続けている。
教育活動家として日本各地の地域コミュニティとも幅広く連携。写真家、動画クリエイター、ライター、ドローンパイロット、ラジオパーソナリティなど多彩な顔を持つ。X(旧Twitter)のフォロワーは約24,000人、Google Mapsローカルガイドレベル10(投稿写真の総ビュー数は7億回以上)。

【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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(2025/6/16更新)

 

【著者プロフィール】

名前: きゅうり(矢野 友理)

2015年に東京大学を卒業後、不動産系ベンチャー企業に勤める。バイセクシュアルで性別問わず人を好きになる。

【著書】

「[STUDY HACKER]数学嫌いの東大生が実践していた「読むだけ数学勉強法」」(マイナビ、2015)

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Twitter: 2uZlXCwI24 @Xkyuuri  ブログ:「微男微女

 

(Photo:Alex Proimos