今回は、私の学生時代にあった少し恥ずかしい失敗談について書いてみたいと思います。
テーマは「全く報告できない病」です。
学生さんに限らず、若い社会人の方と話したりしていると、意外と同じような体験で詰まっていたり、苦労し悩んだりしている人が多いなぁと感じます。
あるいは、自分自身がその状況に置かれてしまっているということを認識できていない方もいらっしゃいました。これは危険だぁと。
またマネジメントする側の方であれば、少なからず部下にそういう人が1、2人はいると思うので、何がしかの参考になれば幸いです。
研究室に行けなくなった日
私は地方出身者ですが、勉強の甲斐もあり、都内の有名国立大学に入学しました。
大学入学後もそれほど苦労することなく、どの大学でも最初は基礎的な数学や物理、プログラミング等の授業をおこなうものだと思いますが、その辺りの時期は私も無難にこなしていました。
ところが、研室室に配属された大学4年生の時でした。私は「報告できない病」にかかってしまったのです。
配属された当初、指導教官の取り組まれていたテーマが非常に面白そうで、自分もこういう世界の実現に少しでも役に立ちたいという気持ちでいっぱいで燃えていました。
テーマ設定のために、過去の類似研究の論文を印刷しては読み、印刷しては読み、また同じ研究室の先輩がやられていたものを読んでは、今度はこういうことをやればいいのではないか等、色々と考えるのが非常に楽しい時間でした。
最初の頃は、まさに文献輪講状況だったので、そうやって過去のケース等をさらっていれば何となくこなしている感があり、その時の自分には、自分がまさか報告できない、研究室に行けなくなる日が来るなんて全く思っていませんでした。
で、ある日の研究会だったでしょうか。自分が思っていたよりも研究が進んでいなかった私は、体調不良を理由に研究会を欠席します。
ま、確かに夜遅くまでデータが出るまで何度もプログラムを回したり、修正したりと、直前まで追い込んでいたせいもあり、体調が少し悪かったのは事実です。
でも、今から思えば、「結果が出ない」≒「報告することが無い」と思ってしまったんですね。
言ってしまえば、私は目の前の研究会から逃げた、ということでした。
大学の研究会というのは、いわゆる研究の途中経過を報告して、先生方や同僚からフィードバックをもらった上で、研究を前に進めるためのものです。
方向性の修正だったり、別の観点から見てもらうことでアイデアをいただいたり、そういう学びのある場です。当時面倒を見てくれていたポスドクの方からは、「大丈夫か?何かあれば相談してくれよ。」と常に優しい声をかけていただいていました。
それでも、私はその後、だんだんと相談が出来なくなります。
朝からファミレスに行き、一応論文を読んだり、プログラムを書いたりはします。で、午後になってからなんとなく研究室へ向かう。
もちろん研究会には出るのですが、相談しないから独りよがりになる、それほど経験のない自分だけでは何十年と研究を進めてきた教授とかに勝てるわけないんですよね。
まぁ実際は勝ち負けではなく、私の研究が進むこと自体が、教授/先輩の研究が進むということに等しく、皆で進めていくという気持ちがあってもいいんだということなのですが、その当時の自分にはそういう事は何も見えていませんでした。
上述のポスドクの方からも、とうとう三行半を突きつけられます。最初のうちは「報告しろ、出来ていなくても報告することで次に何に取り組めばいいかをかんがえられるから。」
と言ってくれていましたが、しまいには「これ以上報告しないのであれば、自分はそんな論文に名前を載せることもしたくない。勝手にしろ。」と言われてしまうまでになってしまいました。
結局、自分にとっての卒論は何とかまとめたものの、当初思い描いていた成果を出すこともなく、今でも自分にとっての心残りとなっています。
「できない」と言えない心理状態
おそらく、報告に求めるものが圧倒的に違う当時の自分を振り返ると、出来ないということが言えなかったわけです。今から思えば軽い鬱だったのかもしれません。
では、どうしてこういうことが起こってしまったのか?今から考えれば、報告に求めるものが、当時の私と教授やポスドクの方との間で根本的に違ったということかなと考えています。
私は、やったことを報告し、他の人が気づかないようなことを見出すことで、それを褒めて欲しかったんだと思います。
だから、自分が考えられる限りの方法を試したり、プログラムで実行したりして、いろんな手法を検討したりはしました。成果がなければ報告はしなくていい、とさえ思っていました。
しかし、教授やポスドクの方が報告に求めていたのは、まさに今困っていることを皆の前、つまりまな板の上にあげて、皆の頭を使って前に進めるための実践の場でした。
むしろ、出来ていないことこそ皆の前に出して、その場にいる参加者の知見を借りようと。
その時点で進んでいるか、進んでいないかもそうだけども、出来なかった、今の手法でやっても期待するような結果が出来なかったということを皆で共有すれば、別の手法を検討してみようという話ができるというわけです。
その違いが当時の私には全く分かっていなかったんです。出来ていないことほど、助けを求めるために外に公開するべきなんですよね。
そういう人には「相談しろ」と言わずに、プライドに配慮しないとダメだなと
今、社会人になって、またいろんな事業をマネジメントする側に立って、上記の反省点を痛感する場面が非常に増えました。
これは過去の自分に言ってあげたかったなぁというのと同時に、同じような経験を周りの人にさせないように経験をしっかりと活かしていきたいということです。
例えば私が行う不動産の事業においても、うまくいっていることは別に私にとっては価値はなく、レントロールと月次の収支を確認すれば状況把握という観点からすれば全く問題ありません。
むしろ、入ろうとしていたお客さんが断りを入れてきたとか、一度のタイミングで急に退去する人が集中したとか、何がしかのテコ入れが必要な場面にこそ、考えるためのきっかけとしてのインプットが欲しいわけです。
もちろん個人の性格による違いや環境の違い等もあり、報告できない理由が上記のようなケースで全て説明できるわけではないと思います。
しかし、自分自身が報告できないタイプであったり、部下が報告できないタイプであったりする場合は、意外に何のために報告するのか?という根本的な部分が共有されないままにすれ違いが生じている場合もあるのではないかと思うのです。
かく言う私も、自分自身が相談出来ないと言うことはなくなったものの、報告できない部下を抱えて、マネジメントが思い通りに行かないことで悩み苦しむこともあります。
私の場合ですが、本人のプライドを傷つけない程度に、まずは私はこう見ているよ、という事実をきちんと伝えるところからいつも取り組んでいます。
出来ないことも包み隠さず相談できる、そんなメンバーで仕事やプライベートが過ごせれば、もっと色んなことが楽しくなるのではないでしょうか。
報告できない病で苦しむ皆さんにとって、少しでも役立てば幸いです。
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(文責-ティネクト株式会社 取締役 倉増京平)
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【著者プロフィール】
著者:ひろすぎ
30代、都内勤務の兼業投資家。
どうやったら普通の人がお金に困らない暮らしをできるかを模索し、自ら実験する日々。株、不動産をはじめ、いくつかの事業を展開。趣味はお散歩とお酒、旅行です。
(Photo:Koji Haruna)