昔、塾講師のアルバイトをしていた時期があります。学生時代でしたので、もう20年近く前でしょうか。

 

一口で塾といっても色々ありまして、具体的に言うと大きく三種類あります。進学塾、補習塾、総合塾の三つです。

進学塾は、その名の通り受験対策の為の指導をする塾。補習塾は、主に学校の勉強についていけない子どものフォローをする塾で、総合塾はどっちもやる塾です。

 

当然のことながら、総合塾はある程度規模が大きい塾が殆どである一方、補習塾は個別指導中心のちっちゃい塾が多いです。

進学塾は、大手さんもちっちゃい塾も両方ある印象です。N能研さんとかT進さんとか、大手進学塾の代表格ですよね。

私が働いていたのは、講師数も一桁の小さな補習塾でして、もっぱら小学校高学年〜中学校くらいで、学校の勉強についていけなくなった子たちのフォローをしていました。

 

近所の学校の数が限られていて、どの学校から生徒が来るかというのも大体決まっているので、学校とクラスと担任の先生を聞いただけで、「ああ、あの先生かー。あの辺のフォローが足りてないことが多いから、こういうパターンで分からなくなったのかなー」みたいなことがある程度推定出来てしまう、というのが強みでした。

地域密着型のメリットと言えばメリットなんですが、学校内の情報筒抜けというのは大丈夫なのか、と今から考えると心配になります。

テストの傾向も大体わかるので、学校別の定期試験対策までやっていました。どっから問題傾向流出してんだよって感じです。

 

前も一度書いたんですが、「学校の授業についていけなくなった」という子の場合、その段階の遥か以前に地雷が埋まっていることがしばしばあります。

「方程式が全然分からない」という子に、ちょっとヒアリングしてみるとそもそも分数と少数の計算がよく分かっていない、とか。

現代文の読解がよく分からないという子に聞いてみると、そもそも数行以上の文章を読み解くことができていなかった、とか。

 

こういう掘り起こしにはある程度慣れが必要です。きちんと掘り起こさないで勉強を進めようとしても、1段目が積まれていないジェンガみたいなもんで、学力向上は全く見込めません。

この辺の話については、以前も一度寄稿させて頂いたことがあります。気が向かれたら下記記事でも読んでみてください。

塾講師時代、子どもの「勉強わからない」に対処するうちに学んだこと

 

褒め方の話をします。

補習塾に来る子って、大体の場合

「塾に通わせる程度に親の意識が高い」

「けれど、早い学習段階でつまずいてしまって、そのフォローをされないまま学年が進んでしまった」

という子なんですね。だから、親の意識と子どもの成績にギャップがある場合が多くって、そのギャップが親子関係にも影響してしまっているケースがかなりありました。

 

親としては、頑張って励ましたり教えたりしているつもりなんだけど、(教えるべきポイントがずれているので)全然成績が上がらない。だから、ついつい「分からない」「出来ない」ことを責めてしまう。

すると子どもは勉強することが嫌になってしまうので、今度は勉強しないことで叱ってしまう。場合によっては他の子と比べてしまう。ますます勉強が嫌いになる。

典型的な悪循環です。

 

要は、家庭でも学校でも散々叱られて自己肯定感ボロボロ、勉強に対する苦手意識はスカイツリーより高い、という子が殆どだったんです。

勉強を教える時は、教えられる側のチャンネルがある程度開かれていないとどうにもなりません。

「どうせぼくなんて」モードだとどんなに分かりやすく教えても頭に入らないので、まずある程度「出来そう」「出来るかも」という気持ちになってもらう為に、「褒め方」というのは非常に重要なテーマでした。

あの手この手で褒め方、褒めるルートを考えました。

 

働き始めた最初の頃、「普通に褒めても届かない、効果がない」ということはすぐに分かりました。

例えば何かの問題を解いてもらうとして、色々説明したりアドバイスをしながら答えにたどり着いて。

「お、良く出来たね」とか、「分かってるじゃん、偉い」とか、そういう通り一遍の言葉を投げかけても全然反応がないし、全くモチベーションが上がらないのです。神社の狛犬に話しかけている気分でした。

 

その塾の先輩に相談した時の回答が偉く印象的でして、今でも結構細かく覚えています。

先輩曰く、「あの子たちは、褒め言葉を受け入れる為の筋肉が育ってないんだよ」というのです。

 

つまり、褒められて、その褒め言葉を受け入れてモチベーションを上げるにも、ある程度素地というか受け入れ態勢が必要なんだ、と。言ってみれば褒め言葉の受容筋だ、と。

「あの子たちは勉強すれば叱られるもんだと思ってるから、褒め言葉をストレートに受け取れないし、何を褒められているのかも具体的に言われないと分からないんだよ」

というのが先輩の言葉でした。

 

なるほどなあ、と思いました。つまり、散々勉強のことで叱られて自己肯定感がメタメタになっているから、そもそも勉強関連の褒め言葉が自分と紐づかないんだ、というんですね。

「褒め言葉を受け入れる」ためには、

・何を褒められているのか、ということに対する理解

・褒められている内容に対する納得

・自己評価とのある程度の一致

が必要です。つまり、褒め言葉が嘘くさいと褒められても嬉しくないし、自分が「全然ダメ」と思っている点について褒められても嬉しくない。当然、褒め言葉が具体的に理解出来なくても全然嬉しくない。

 

そこで、「褒める作戦」「褒められ筋肉のトレーニング方法」をあれこれ考えました。

色々試しつつ、一応の最適解かなーと思ったのは下記のようなやり方です。

・親御さんに、家庭では極力勉強の話をしないようにお願いする

・最初の内は可能な限り簡単な問題をたくさんこなしてもらい、「出来る」というイメージを持ってもらう

・「すごい」「偉い」といった抽象的な言葉ではなく、「〇〇がこういう風に解けたね」「今まで出来なかったのに、××が出来るようになったね」といった、具体的で客観的な「出来たポイント」の指摘だけをひたすら行う

・出来た数、工夫して解けた数についてはシールやスタンプなどで可視化する

・ある程度褒め言葉を受け入れられるようになってから徐々に問題のレベルを上げていく

 

当たり前の人には当たり前なのかも知れません。

こういったルートで進めていくと、徐々に勉強に関する自己肯定感が回復して、「出来る気」になってくれる子の数は増えていきました。

必然的に勉強に前向きになっていって、少しずつ学校の成績が上向いていった子も多くなっていきました。

 

まず最初に、親御さんに「家庭では勉強の話をしないで、基本塾に任せてください」というお願いをするのも結構大きなポイントで。

自己肯定感からだらだらと出血をしているなら、まずその出血を止めなくてはいけません。

難色を示される親御さんもいましたが、叱って言い返されてまた叱って、という悪循環がなくなって、親子間にも余裕が出来るご家庭の方が多かったと思います。

 

勿論、残念ながら救い上げられなかった子も、成果が出る前にやめてしまった子もいましたが、総合してみればそこそこの率でフォローが出来たと思います。

中には、「諦めていたけど受験をすることにした」とか、「受ける高校のレベルを上げた」といってくれたご家庭もあって、大変嬉しかったのを覚えています。

 

このことで私が学習したことは大きく二点でして、

・褒める時は、相手に褒め言葉を許容・受容する態勢が出来ているかどうかを考える

・褒め言葉は可能な限り具体的な内容にした方が受け入れやすい

ということで、今でもこの認識はそのまま保持しています。自分の子どもに対しても、何なら仕事での部下に対しても、これはほぼ共通して当てはまると思います。

 

褒め言葉一つとっても、真剣に考えることは大事なんだなーと。

そんな話でした。

 

今日書きたいことはそれくらいです。

 

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【プロフィール】

著者名:しんざき

SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。

レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。

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(Photo:Tim Pierce