どうせ働くのなら、効率的なほうがいい。できるだけ早く家に帰れたほうがいい。
これは、多くの働く人が思うことだろう。
だから、働き方改革には意味があるし、問題がある労働環境は改善されるべきだ。
でも働き方に注目するだけじゃなくて、休み方にもまた注目すべきじゃないかなぁ、とも思う。
オン/オフの切り替えは大変だけど必要
わたしはフリーランスとして働いているから、あまり『休み』を意識したことがない。ソファに寝転がりながら構成を考えることもあるし、遅刻した友人を待つために入ったカフェで執筆することもある。
でも先々週一時帰国で日本に戻ってきて、休みの質を上げることもまた、快適に働くために必要なんだなぁと感じるようになった。
わたしが普段暮らしているドイツと日本には、現在7時間の時差がある。
朝起きると日本はお昼過ぎだから、たいてい仕事のメールが届いている。カーテンを開けながらメールチェックをすることで、1日が始まるのだ。
そうすると、メールが気になって朝早く目が覚めてしまうことも多い。
大事なメールの返信を待っているときや大きなメディアで記事を公開されたときなど、「どうなっているんだろう」とソワソワして、起きてしまうのだ。これは、地味にストレスになる。
日本が終業時間であろう18時を迎えるとき、ドイツは午前11時。それ以降の時間は、仕事の連絡がくることはまずない。
だから日中のお出かけやランチ中、「仕事が気になってしょうがない」ということはなかった。
しかし日本に帰国すると、事情はちょっとちがってくる。
朝起きてもメールは届いていないが、当然、日中に連絡が入る。そうすると、平日にお母さんとパスタを食べたり、友だちと横浜でぶらぶらしたりするあいだも、どうにも仕事が気になってしまうのだ。
「メールがきているんじゃないか?」とチェックしてしまうし、メールが届いていたら「返信したほうがいいかも?」と思う。
返信のために作業が必要なのであれば、「アレはこうしてコレはこうして……」と頭の中で予定を立てていく。
さっきまでプライベートな時間を楽しく過ごしていたはずなのに、途端に仕事モードになってしまうことが何度かあった。
『つながらない権利』という強制スイッチオフ
ドイツのホームドクターに「血液検査の結果を送ってください」とメールしたとき、
「現在休暇中なので総合窓口にメールしてください。受信したメールは自動的に消去されます」という自動返信が返ってきたことがある。
これはどうやら、『つながらない権利』保障の一環であるようだった。
勤務時間外は仕事のメールや電話に応えなくていい――そんな「つながらない権利」を働く側に認める法律が、フランスで2017年1月から施行されました。
(中略)
勤務時間外の従業員の完全ログオフ権(メールなどのアクセスを遮断する権利)を定義する定款の策定を義務付ける内容で、雇用主と従業員らが勤務時間外のデジタルコミュニケーションを制限する方法について協議し、やり方を定めることなどを求めています。
(中略)
日本は、もともと長時間労働や持ち帰り残業が常態化している上、「顧客のためなら休日も時間外も関係ない」といった風潮も根強いため、状況はより深刻といえるかもしれません。スマートフォン一台あれば、いつでも、どこでも仕事と“つながる”ことができてしまう労働環境。便利になった一方で、プライベートな時間への侵食には歯止めがかかりません。独立行政法人労働政策研究・研修機構が行った13年の調査によると、始業と就業時間が決まっている通常の被雇用者でも、勤務時間外の連絡が「よくある」「ときどきある」と回答した人はあわせて3割を超え、就業時間を自分で決められる裁量労働制では4~5割に上りました。
「さすがにメールを消すのはやりすぎじゃないか!?」とも思ったのだが、いつでも連絡がとれてしまう現代、こういった強硬手段もアリなのかもしれない。
もちろん、仕事とプライベートの線引きがそもそもあいまいな人や、即対応したほうがスッキリする、という人もいるだろう。
職種によっては、常に連絡をチェックしなくてはいけないこともあるかもしれない。
それでいい、それがいいのなら、それもまた働き方のひとつだ。
でもそれが負担になるのであれば、休みの質を上げるために『仕事スイッチを完全にオフにする』権利や覚悟、それに対する理解は必要だと思う。
質の高い休みを求めれば質の高い仕事に
実は、「せっかく一時帰国しているのだから休みはきっちり確保したい」「家族や友人との時間を楽しむために仕事スイッチをオフにしたい」と思うようになってから、仕事がはかどるようになった。
時間を有効に使ってちゃちゃっと終わらせる。あとは一時帰国を楽しむ。そこにメリハリが生まれたのだ。
休日に仕事の連絡が入れば、そのときから仕事のスイッチが入ってしまう。
それがなにかしらネガティブなことだったら、せっかくの旅行やデートでも落ち着かなくなるだろう。
いくら定時帰宅、週休完全2日制にしても、持ち帰り残業をして休みの日に電話対応していたら意味がない。
より質の高い休みを享受するためには、より質の高い労働をして仕事を終わらせる必要がある。
最近取りざたされている『働き方改革』だが、働き方の改善と休みの質を上げることは表裏一体で、同じくらい大事だ。だからもっと、休みの質にも注目したらいいんじゃないかと思う。
そして休みの質の大切さが認知されたら、非論理的な根性論のくだらなさがわかるし、「あの人は休みだから電話しちゃダメだな」「自分たちで対応しなければ」となり、引き継ぎやすい体制になり、情報共有が進むんじゃないだろうか。
逆に、「休みでも連絡すればなんとかしてくれる」と思っていると、引き継がないし、情報共有もしない。だって、連絡すればいいのだから。そして結果的に休めなくなる。
『つながらない権利』なんて言うと大げさだけど、「休みの日は休む」という当然のことができるようになることも、働き方を考えるうえで忘れちゃいけないことだと、改めて思う。
(2025/7/14更新)
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第6回目のお知らせ。
<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>
第6回 地方創生×事業再生
再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは
【ご視聴方法】
ティネクト本音オンラインラジオ会員登録ページよりご登録ください。ご登録後に視聴リンクをお送りいたします。
当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。
【今回のトーク概要】
自己紹介とテーマ提示:「地方創生 × 事業再生」=「実行できる経営企画」
保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例
再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む
経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説
「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論
数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する
経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”
【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。
【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
ご視聴登録は こちらのリンク からお願いします。
【プロフィール】
名前:雨宮紫苑
91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&
ハロプロとアニメが好きだけど、
著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)
ブログ:『雨宮の迷走ニュース』
Twitter:amamiya9901
(Photo:Badruddeen)