外資系といえば、特徴的だと言われることの一つが、Up or Out(アップオアアウト:昇進するか、辞めるか )の人事制度と言われる。
この制度、昇進の見込みのない従業員は、クビにされてしまう、というネガティブな意味で使われることが非常に多いが、もしかしたら誤解していたかもしれない、と思うことがつい先日あった。
*
その外資系の大手製薬会社で部長になった、学生時代からの知人がいる。
学生時代の彼を思い出すと、彼には悪いが、それほど仕事ができるタイプには見えなかったので、その後、最年少で部長になったと聞いて、ちょっと驚いた。
海外に出張したり、あちこちの学会などに顔を出したりと、何かと忙しそうな日常をおくっているようで、
「人は成長するのだ」と、改めて思った。
さて、しばらく彼には会っていなかったのだが、つい先日、10年近く働いた会社をやめた、と連絡があった。
部長まで昇進して、なぜここで辞めなければならないのか、しかも、転職先も決まらないまま、急に「辞める」ということになった。
いかにも、不思議な話だったので、私は後日会ったときに、
「なんでそんなに急に会社をやめたの?」と聞いた。
すると彼は「ポストを空けるため」と答えた。
そんな話は聞いたことがない。
詳しく話を聞かせてくれ、というと、彼はこんな話をした。
「まず、外資系企業が日系企業と大きく違うのは、「部下を出世させられない上司はダメ上司」という文化があることだよ。」
「ほうほう、でもそれは日本企業でもあるんじゃない?」
「かもね。でも、もっというと、管理職として「最年少部長を出した」とか「若いやつ出世させた」という行為自体が、ステータスであり、高評価の対象なんだよ。」
「おーなるほど。それは日系企業にはあまりないな。」
「自分も、当時の上の人が、一生懸命自分を教育して、引き上げてくれたから最年少部長になれた。自分じゃなくて、上が優秀だったんだよ。」
彼が言うには、「下を育てるインセンティブ」は、まさにそこにあるという。
上司同士、誰が最も部下を昇進させることができるか勝負、というわけだ。
面白い話だが、彼が辞めるの話と関係があるのだろうか。
「で、ポストを空ける、というのは?」
「要するに、上に引き上げてもらった、ということは、下を引き上げる義務もある、ということだよ。」
「……?」
「俺がいたら、下の人が、昇進できないじゃん。」
彼が言うには、下のためにポストを空けなきゃいけない時期に来た。
そして自分は、残念ながら社内で昇進できなかったから、辞める。
そう言うことだった。
(追記:本人から連絡があり、年収4年分の退職金も魅力的だった。人を退職させる仕組みができている、とのこと。)
なるほど、Up or Outの本質とは、そう言うことか。
私はUp or Outを誤解していた。
出世できなければ、会社からクビにされてしまうのが、Up or Outだと思っていた。
だが、それは一つの側面に過ぎない。
実際には、
1.若くて才能がある人材を育てようとするインセンティブが働く
2.上のポジションを積極的に空けることで、「若い人が昇進する」状態を作り、組織の新陳代謝を促す
という大きなメリットもまたあるのだ。
たしかに合理的である。
「でも、辞めなければならない、というのは不安じゃないのか」と思う方もいるだろう。
私もそう思った。
彼は次の会社も決まらずに、会社をやめてしまったのである。
だが、彼によれば、それなりの地位に昇進した、外資系の人材は人気が高く、エージェントからの職の紹介も多いという。
実際、彼は転職活動を初めて2ヶ月ほどで、前の職と同等以上の条件で、大手の製薬会社にポジションを見つけた。
「自分のためにポジションを作ってもらったので、成果を出さないと」と彼は言う。
だが、一定の実力があれば、転職には困らない、というのが実情だろう。
*
一方で、日本企業はどうだろうか。
別の知人が、大手の損保に勤めているが、今年、大きな成果を出しながら、昇進を逃してしまったそうだ。
私は聞いた。
「なんで、成果出したのに、昇進できなかったの?」
彼が言うには、評価は「成果」に対する評価と、「コンピテンシー」という能力の評価があり、成果評価は5段階評価の最上位の「S」だったが、コンピテンシーが下から2つ目の「C」だったそうだ。
しかし、なにかおかしい。
私は聞いた。
「コンピテンシーってのは、「成果出す人ってどんな人?」っていう評価だよね。」
「そう」
「だったら、成果を出している人のコンピテンシー評価は、高くなるのが当たり前じゃない?もしかして、成果が出たのは今年だけで、運が良かっただけ、と思われてるの?」
「いや、成果は毎年Sか、Aをもらってる。」
「じゃなぜ、コンピテンシー評価だけ低いの?」
「そこが、会社の不思議なところだよ。部長から言われたのは、「今年は、ずーっと平社員だった、年配のUさんを昇進させてあげないから、待ってくれ」だってさ。」
彼が人格的に最低の人物だったら、「コンピテンシーがCも仕方ないな」と思えるのだが、彼はそう言う人物ではない。
また、年配の万年平社員だったUさんを昇進させてあげたいから、と部長が言っているのも何か奇妙だ。
私は笑ってしまった。
「なんだよそれww」
「うちはまだ年功序列がのこってるからさ。」
「へえ、じゃ来年上がれるの?」
「わかんね。それと、ちゃっかり俺の評価をした部長も昇進してやがった。部署には昇進の枠があるからね、あいつ、自分が昇進したいから、引き換えに部下の昇進を見送ったんだよ。きっと。」
ことの真偽は不明だが、「上に人が滞留している」というのは事実なのだろう。
それにしても、もったいない人の使い方だ。
*
もちろん、以上の話は一般化して語って良いものではなく、あくまで事例の一つに過ぎない。
だが、Up or Outにもかなりのメリットがあるのだ、と気づいたのは、非常に大きな発見だった。
特に管理職の能力は、その組織のパフォーマンスに大きく影響する。
うだつの上がらない管理職をさっさと入れ替え、若い能力ある人物に高いポジションを与えることは、若手の能力、モチベーションの両面に良い影響を及ぼすに違いない。
「老害」の防止には、Up or Outの文化は、とても有効な手段なのだ。
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