外資系といえば、特徴的だと言われることの一つが、Up or Out(アップオアアウト:昇進するか、辞めるか )の人事制度と言われる。

 

この制度、昇進の見込みのない従業員は、クビにされてしまう、というネガティブな意味で使われることが非常に多いが、もしかしたら誤解していたかもしれない、と思うことがつい先日あった。

 

 

その外資系の大手製薬会社で部長になった、学生時代からの知人がいる。

 

学生時代の彼を思い出すと、彼には悪いが、それほど仕事ができるタイプには見えなかったので、その後、最年少で部長になったと聞いて、ちょっと驚いた。

海外に出張したり、あちこちの学会などに顔を出したりと、何かと忙しそうな日常をおくっているようで、

「人は成長するのだ」と、改めて思った。

 

さて、しばらく彼には会っていなかったのだが、つい先日、10年近く働いた会社をやめた、と連絡があった。

部長まで昇進して、なぜここで辞めなければならないのか、しかも、転職先も決まらないまま、急に「辞める」ということになった。

 

いかにも、不思議な話だったので、私は後日会ったときに、

「なんでそんなに急に会社をやめたの?」と聞いた。

 

すると彼は「ポストを空けるため」と答えた。

 

そんな話は聞いたことがない。

詳しく話を聞かせてくれ、というと、彼はこんな話をした。

 

「まず、外資系企業が日系企業と大きく違うのは、「部下を出世させられない上司はダメ上司」という文化があることだよ。」

「ほうほう、でもそれは日本企業でもあるんじゃない?」

「かもね。でも、もっというと、管理職として「最年少部長を出した」とか「若いやつ出世させた」という行為自体が、ステータスであり、高評価の対象なんだよ。」

「おーなるほど。それは日系企業にはあまりないな。」

「自分も、当時の上の人が、一生懸命自分を教育して、引き上げてくれたから最年少部長になれた。自分じゃなくて、上が優秀だったんだよ。」

 

彼が言うには、「下を育てるインセンティブ」は、まさにそこにあるという。

上司同士、誰が最も部下を昇進させることができるか勝負、というわけだ。

 

面白い話だが、彼が辞めるの話と関係があるのだろうか。

「で、ポストを空ける、というのは?」

「要するに、上に引き上げてもらった、ということは、下を引き上げる義務もある、ということだよ。」

「……?」

「俺がいたら、下の人が、昇進できないじゃん。」

 

彼が言うには、下のためにポストを空けなきゃいけない時期に来た。

そして自分は、残念ながら社内で昇進できなかったから、辞める。

そう言うことだった。

(追記:本人から連絡があり、年収4年分の退職金も魅力的だった。人を退職させる仕組みができている、とのこと。)

 

なるほど、Up or Outの本質とは、そう言うことか。

 

私はUp or Outを誤解していた。

出世できなければ、会社からクビにされてしまうのが、Up or Outだと思っていた。

 

だが、それは一つの側面に過ぎない。

実際には、

1.若くて才能がある人材を育てようとするインセンティブが働く

2.上のポジションを積極的に空けることで、「若い人が昇進する」状態を作り、組織の新陳代謝を促す

という大きなメリットもまたあるのだ。

たしかに合理的である。

 

「でも、辞めなければならない、というのは不安じゃないのか」と思う方もいるだろう。

私もそう思った。

彼は次の会社も決まらずに、会社をやめてしまったのである。

 

だが、彼によれば、それなりの地位に昇進した、外資系の人材は人気が高く、エージェントからの職の紹介も多いという。

実際、彼は転職活動を初めて2ヶ月ほどで、前の職と同等以上の条件で、大手の製薬会社にポジションを見つけた。

 

「自分のためにポジションを作ってもらったので、成果を出さないと」と彼は言う。

だが、一定の実力があれば、転職には困らない、というのが実情だろう。

 

 

一方で、日本企業はどうだろうか。

 

別の知人が、大手の損保に勤めているが、今年、大きな成果を出しながら、昇進を逃してしまったそうだ。

私は聞いた。

「なんで、成果出したのに、昇進できなかったの?」

 

彼が言うには、評価は「成果」に対する評価と、「コンピテンシー」という能力の評価があり、成果評価は5段階評価の最上位の「S」だったが、コンピテンシーが下から2つ目の「C」だったそうだ。

 

しかし、なにかおかしい。

私は聞いた。

「コンピテンシーってのは、「成果出す人ってどんな人?」っていう評価だよね。」

「そう」

「だったら、成果を出している人のコンピテンシー評価は、高くなるのが当たり前じゃない?もしかして、成果が出たのは今年だけで、運が良かっただけ、と思われてるの?」

「いや、成果は毎年Sか、Aをもらってる。」

「じゃなぜ、コンピテンシー評価だけ低いの?」

「そこが、会社の不思議なところだよ。部長から言われたのは、「今年は、ずーっと平社員だった、年配のUさんを昇進させてあげないから、待ってくれ」だってさ。」

 

彼が人格的に最低の人物だったら、「コンピテンシーがCも仕方ないな」と思えるのだが、彼はそう言う人物ではない。

また、年配の万年平社員だったUさんを昇進させてあげたいから、と部長が言っているのも何か奇妙だ。

 

私は笑ってしまった。

「なんだよそれww」

「うちはまだ年功序列がのこってるからさ。」

「へえ、じゃ来年上がれるの?」

「わかんね。それと、ちゃっかり俺の評価をした部長も昇進してやがった。部署には昇進の枠があるからね、あいつ、自分が昇進したいから、引き換えに部下の昇進を見送ったんだよ。きっと。」

 

ことの真偽は不明だが、「上に人が滞留している」というのは事実なのだろう。

それにしても、もったいない人の使い方だ。

 

 

もちろん、以上の話は一般化して語って良いものではなく、あくまで事例の一つに過ぎない。

だが、Up or Outにもかなりのメリットがあるのだ、と気づいたのは、非常に大きな発見だった。

 

特に管理職の能力は、その組織のパフォーマンスに大きく影響する。

うだつの上がらない管理職をさっさと入れ替え、若い能力ある人物に高いポジションを与えることは、若手の能力、モチベーションの両面に良い影響を及ぼすに違いない。

 

「老害」の防止には、Up or Outの文化は、とても有効な手段なのだ。

 

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