ネクスト・ソサエティ ― 歴史が見たことのない未来がはじまる何かと批判される「先送り」であるが、一概に先送りが悪いとも言えない場合がある。

特に「雇用」や「地域コミュニティ」など、大勢の人に関わる政策であれば、「先送り」が効果を発揮することもある。

 

ピーター・ドラッカーは「先送り」の効用を認めており、「もし今この決断をしなかったらどうなるか、と問を発した時、なにもおこらない、が解答だったときは手を付けてはならない」と言う。

また彼はその著書、「ネクスト・ソサエティ」において、「官僚の先送り」を一定程度評価している。

 

”日本のエリート指導層は、アメリカの指導層まがいのものとは行動様式が異なる。(中略)

最初の成功は、農村部の非生産的な人口という戦後日本の最大の問題を、なにもしないことによって解決したことだった。今日の日本の農業人口は、アメリカとほぼ同じ2、3%である。ところが1950年には、アメリカでは20%、日本では60%を占めていた。特に日本の農業の生産せは恐るべき低さであった。

日本の官僚は問題解決への圧力に最後まで抵抗した。彼らと言えども、非生産的な膨大な農業人口が経済成長にとって足かせであり、生産しないことにまで補助金を払うことは、ぎりぎりの生活をしている都市生活者に犠牲を強いることになるまでは認めていた。

しかし、離農を促したり米作からの転換を強いるならば、深刻な社会的混乱を招きかねなかった。そこで何もしないことだけが賢明な道であるとし、事実、何もしなかった。

経済的には、日本の農業政策は失敗だった。今日、日本の農業は先進国の中で最低水準にある。残った農民に膨大な補助金を注ぎこみながら、かつて無い割合で食料を輸入している。その輸入は先進国の中で最大である。しかし、社会的にはなにもしないことが成功だった。日本はいかなる社会的混乱をもたらすことなく、いずれの先進国よりも多くの農業人口を吸収した。”

 

 

「経済的合理性」のみを追求する人々からすれば、「補助金もらっている奴らは許せん、晒し上げろ」という主張をしたくなるのだろうが、社会的安定のためには経済合理性のみで動いてはいけない時もあるという事例だろう。

 

 

”もう一つの成功は、これまた検討の末何もしなかったことによるものだった。彼ら(官僚)は小売業の問題に取り組まなかった。60年代のはじめに至ってなお、先進国の中で最も非効率でコストの高い時代遅れの流通システムを抱えていた。(中略)

経済界やエコノミストは、流通業の効率化なくして日本経済の近代化はないと主張した。しかし官僚は近代化を助けることを拒否した。それどころか、スーパーやディスカウントストアのような近代流通業の発展を妨げる規則を次々に設けた。流通システムは経済的にはお荷物であっても、社会的にはセーフティーネットの役を果たしている。定年になったり辞めさせられても、親戚の店で働くことができるとした。

40年後の今日、流通業の問題は社会的にも経済的にもほぼ解消している。家族経営の商店は今も残っているが、特に都市部では、そのほとんどが小売チェーンのフランチャイズ店になっている。昔のような暗い店は姿を消した。一元管理の明るく、きれいな店になっている。世界で最も効率的な流通システムと言ってもよい。しかもかなりの利益をあげている。”

 

 

繰り返しになるが、コミュニティの安定のためには、「経済合理性」を犠牲にしてでも、とるべき、あるいはとってはいけない政策がある。

これは会社でも同じであり、「合理性」によって、ビジネスの変化についていけない人々を簡単に切り捨ててはいけない。「何もしない」ということが結果的に成功を生むことだってあるのだ。

 

ネクスト・ソサエティ ― 歴史が見たことのない未来がはじまる

ネクスト・ソサエティ ― 歴史が見たことのない未来がはじまる

  • P・F・ドラッカー,上田 惇生
  • ダイヤモンド社
  • 価格¥2,200(2025/07/07 03:37時点)
  • 発売日2002/05/24
  • 商品ランキング49,036位

 

【安達が東京都主催のイベントに登壇します】

ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。


ウェビナーバナー

▶ お申し込みはこちら(東京都サイト)


ティネクト代表の安達裕哉が東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。
ティネクトでは現在、生成AIやマーケティング事業に力を入れていますが、今回はその事業への「投資」という観点でお話しします。
経営に関わる全ての方にお役に立つ内容となっておりますでの、ぜひご参加ください。東京都主催ですが、ウェビナー形式ですので全国どこからでもご参加できます。

<2025年7月14日実施予定>

投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは

借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。

【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである

2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる

3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう

【登壇者紹介】

安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00

参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。


お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください

(2025/6/2更新)