この時期の風物詩、とも言える話題がある。
それは、新社会人の「会社辞めたい」だ。
Tweetのバリエーションが豊富で、とても面白い。
今日の退職届のコーナー
新卒で入った会社を辞めたい人向け印刷して自由に提出してね。 pic.twitter.com/QVgfjxpZgb
— 退職届 (@taisyoku_todoke) 2019年4月13日
【新卒で入社したけど辞めたいと思っている人へ】
「辞めたい」と思いながら、それでも毎日コツコツ働くあなたをわたしは尊敬します。
会社辞めた自慢は気にしなくていい。#WEB漫画 #新卒 #会社辞めたい pic.twitter.com/lm6ohh7LcV— 小池ぬーみん (@numinkoike) 2019年4月11日
また、それに対して(自称)大人たちが、余計なアドバイスをする、という構図が大変面白い。
私もこのビッグウェーブに乗りたく、一つ書いてみたい。
辞めたほうが良いか、我慢して続けたほうが良いか。
この問いに対しての「絶対正しい」回答は一つ。「そんなの場合によるだろ」である。
どんな場合にも妥当な回答は存在せず、状況次第、というのが、いわゆる大人の答えだろう。
だが、正直に言って「場合によるだろ」という回答が私は嫌いだ。
そんなのは、何も言っていないのと一緒で、いかにも物分りの良いふりをして、断言するリスクを避けているだけだ。
また、言われた側も
「いや、そんなことわかってる。でも、聞きたいのはお前の意見だ」と言うだろう。
だから、これから私が昔、言われたことをそのままお伝えする。
決めろ、マヌケ。
他で何度か書いたことがあるが、恥ずかしながら私自身、入社して3ヶ月も経たないうちに、「会社辞めたい」と思った人間のうちの一人だ。
理由はいろいろあったが、トップの方針が「コンサルが新卒にできるわけないだろう」というものだったので、つまらない仕事しか与えてもらえず、腐っていたのだ。
実際、今でもはっきりと覚えているが、実際入社してすぐに転職しようと、転職サイトに登録もした。
その時には、当たり前だが応募した会社から一つも回答がなく、結果として転職には至らなかったのだが、「クソだなこの会社。辞めてえ。」という気持ちはよく分かる。
転職の道を絶たれた私は、ヤケになって知り合いの一人に当たり散らした。(よく我慢して聞いてくれたものだ)
私が一通り、会社への不満を吐き出すと、彼はこう言った。
「で、どうすんの?」
「いや、どうもこうも、会社には不満ですけど、転職できないんですよ。」
「いやいや、そんなことは聞いてない。」
「どういうことですか。」
「今、ここで踏ん張るか、別のチャンスを見出すまで転職がんばるか 、決めろってことだよ。」
「えー……。」
「早く決めろ、どっちだ。それとも待遇改善のために、上司に訴えて回るか? だけど、お前が、こんな場所で他人の悪口を言っているだけなら、一生そのままだぞ。 決定を先送りすんじゃねーよ。マヌケ。 」
そう、ガツンと言われた。
「いや……。」
「いいか、会社で頑張るのも、やめるのも自由だ。信念持って会社やめるなら、それは逃げじゃない。前進だ。」
「……。」
「ただ、どこで踏ん張るかを決心せず、先送りするなら、それは逃げだ。お前は一生、くだらない愚痴を言って過ごすんだろう。哀れだなw。」
彼は超キツかった。
だが、それは真理だった。
要するに、彼は「今のまま一生懸命働く」のも、「ムカつくんで辞める」のも「会社の中で改善を要求する」のも、全て信念に基づくならば、合理的だと言った。
だが、「決定を先送りして愚痴ばかり」は、マヌケなやつのすることだ、と言ったのだ。
信念の度合いが強ければ、我慢も、退職も、交渉も、いずれの選択も 問題ない。
逆に、信念を持たず決定を先送りしたり、周りになんとなく流されて決定をするのであれば、いずれの選択をしても、あとから出るのは世の中への恨み節のみだ。
信念に従え
ノーベル経済学賞を受賞した、ダニエル・カーネマンは「デフォルト(規定)の選択肢から乖離した行動を取ると、より後悔が深まる」という研究結果を示した。
だから、後悔しないためには、自分のデフォルトにしたがうのが、最も良い。
デフォルトとは、すなわち信念である。
信念に従えば、後悔しない人生が歩めるのだ。
このとき彼に言われ、少なくとも仕事においては、私は「絶対に我慢しない。」と決めた。
理由はない。単にそう決めたので、そうしたのだ。
結局、上司に「コンサルの仕事がもらえなければ辞めます」と告げた。つまり、交渉することにしたのだ。
また、上司の気に入らない発言に対しては「その発言は腹が立ちます」と言うようにした。
これ以上我慢したくなかったからだ。
その後も、私はあまり「物分りのいい人」にはなれなかった。
理不尽なことを言われたら、必ず言い返したし、わからない要求をされたら、必ず「説明がたりない」と聞き返した。
仮に仕事で侮辱されたら、必ずそいつに復讐する、とも決めた。(いまのところ幸い、そういう経験はない)
もちろん、結果的にトラブルも起きる 。
信念に従った結果、損することも多い。
前職の私を知る人ならご存知だと思うが「はっきり言い過ぎですよ」と、たしなめられたことも多い。
私を嫌う人も多いだろう。
だが、少なくとも後悔はまったくない。
それは自分でそう決めているから、評判を失うことも、損失も、後腐れなく、引き受けることにしている。
それは信念を持って決定したことの責任を、自分以外の誰にも求めたくない、という考え方である。
「我慢」はしないが「覚悟を決めた割り切り」はある。
とはいえ、不愉快な上司や客はおり、彼らとも仕事をしなければならないときもあった。
だが、それは我慢ではなく、結果を出すための手段と割り切った。
私は「この会社で頑張る」と決めたからだ。
割り切りはときに、結果を出すためには必要なのだ。
それは功を奏し、私は一部門を統括するまでに出世し、それなりの部下を抱えるようになった。
だが、ろくに出世できなかったとしても、私は後悔はしなかっただろう。
自分の信念に従ったのであるから、それは受け入れ可能だったはずだ。
だが、仕事を初めて11年目。
ついに仕事で「我慢できないこと」が起きた。
部下の数人を、上司から「辞めさせろ」と言われたのだ。
確かに部下にも非はあった。だが、上司の言い分も理不尽だと感じた。
だが、その時私は信念に従えなかった。
私は出世を手放すことができず、部下に退職を勧めた。
だが、それはまさに最悪の選択だった。
仕事に身が入らず、それを他人のせいにして「クソな会社だ」と、愚痴を言うようになった。
本当にクソだったのは、私自身だったにもかかわらず。
そしてある日の朝、経営会議が始まる前に、気づいた。
「私は信念に従っていない」と。
私は、次のアテもないまま、その会議が終わった直後、上司に言った。
「会社を辞めます。」
*
私の好きな本の一つが、「7つの習慣」だ。
そして、その中で最も私が納得をしたのが、「原則を中心とせよ」という提案である。
公正の原則
誠実の原則
人間の尊厳
などは、人間の根源に根ざした原則であり、選択とはすべて、このような原則に基づいて行われるべきだ、というのが7つの習慣の主張だ。
私にとっては、そのように普遍的なものが重要であり、それに反するものを「我慢しない」ことが信念に従うことだった。
残業代を払わない会社は、公正ではない。私はそのような会社とは、かかわらないであろう。
あとから契約条件を勝手に変更してくるような取引先は、誠実ではない。私は、そのような取引は、願い下げである。
社員をコントロールしようとする経営者とは、話をするのも嫌であり、距離を取る。
ネットで人を侮辱する輩は、即ブロックする。
そうすれば、人生に後悔が生まれることはない。
*
断っておきたいが、上で述べてきたことは、人に強要するものではない。
完全に私の中で完結しており、他人がどう考えるかについては、一切関知しない。
決定を先送りしようが、愚痴を言おうが、信念を捨てようが。勝手にすればいいのだ。それがその人の人生なのだから。
だが若者よ、仕事が辛い、と毎日思うのであれば、一考してほしい。
今の状況は、あなたの信念に沿ったものだろうか?
信念に反すると感じるならば、そんな場所からはすぐに離れたほうがいい。信念に反する行為は、不幸を招くばかりか、周りの人間も不幸にする。
逆に、やりたいことをやれ、というのは、全くもって人に強制されるものではない。
やりたくないことを続ける美学を持つ人を、私は否定しない。むしろ尊敬する。
信念を持って、今の立場であがく人は、美しい。
だが、唯一ダメなのは、ふらふらと よく考えず、信念もなく、他人に踊らされてしまうことだ。
愚痴ばかり言って、決定を先送りすることだ。
その先には、主体性のない、世の中に恨みばかり募る、暗鬱とした人生の、無為に長い時間が残るのみである。
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