「あんな質問をするなんてひどいよね。マスコミはああいう質問をすれば面白い絵が撮れると思ったのかな。」
ある日の飲み会で、友達がそんなことを言った。
*
大津市で、お散歩中の保育園児たちの列に車が突っ込み、園児が亡くなるという痛ましい事故が起きた。
ご存知の通り、この事件では、園側の事故後の記者会見でのマスコミの対応が議論を呼んだ。
マスコミからの質問が、園側を批判するような、追い詰めるようなものばかりだったことに批判が集まったのだ。
そこで冒頭の友達の話である。
私も「ひどいなあ」と思った。その上で、私は全く別のことも思った。
「ああ、これが『仕事が人の価値観を作る』ってことなのかな」と。
人はそこで期待される行動をとってしまう
例えば、「とにかく売上をあげることが正義」が極まっている職場があるとする。
売り上げをあげることばかりを上司から言われ、それができなかったら叱責される、残業をしなくてはいけない雰囲気になる。
売上が評価に大きく響く。
そんな職場だと、「売上をとれさえすればなんでも良い、とにかく売上を」という価値観になっていくのではないだろうか。
結果、追い詰められた営業マンが老人をだまして契約を取る事件が起こったりする。たまにニュースで聞く話である。
同じように、例えば「謝罪会見では相手を追い詰める絵を撮るのが良い」というような業界の価値観の中で仕事をしてきたら、あの会見のようになるのではないだろうか。
もちろん、人を批判する意図や追い詰める意図を持った質問が良かったとは思わない。
でも、どうしてあの質問をしたのだろうか、と考えると、やはりそれが、質問をした彼らにとっての「正しいこと」だったからなのだろう。
私はテレビ業界で働いたことがあるわけでもなければ、詳しいわけでもないので本当の所はわからない。
そのことを先にお断りしておくが、とにかくあの場面だけを見ていると「良くも悪くもセンセーショナルな映像を撮ってくる」ということが質問者およびその局にとっての正義とされているのかな、と感じる。
様々な場合分けを捨象したやや雑な言い方になるが、質問者たるマスコミ人の多くはおそらく仕事をしている時間、つまり少なくとも起きている時間の半分はその価値観の中で過ごしてきているわけだ。
また、それが基準で自分の仕事に対する評価も行われるわけだ。
評価・地位・報酬を捨ててまで正義を貫くのは難しい
自分の信念や正義を貫くのは理想だ。でも自分の信念や正義、あるいは一般常識に照らして「これはちょっとどうなんだろう?」と思うようなことでも、
・それをしなかったら仕事で評価されず昇進できない
・給料に響く
となったら自分の職場内での立ち位置、はたまた自分の生活にまでかかわってくる。
そのようなものを捨ててまで、正義を貫くのは、難しいことなのではないだろうか。
だから疑問を持ちつつでもやってしまい、だんだん麻痺していくんだろうなと思う。
*
「だからあの質問は仕方ないよね」とは思わないし、個別具体的な原因や背景の話をしたいわけではない。
ただ、私は園側に対して辛い気持ちを持つと同時に、「人を攻撃して視聴率を取ろうとするマスコミ(の一部)の人」のことも不幸だと思ってしまう。
そしてただただ、良い価値観で良い心で人に貢献することを志向しながら働ける世の中になったら良いな、とも。
同時に、もう少し自分に引き寄せて考えると、
・自分の価値観をおかしくしないためにも職場選びは大事だな
・自分は人の価値観をおかしくするような影響を職場で与えていないだろうか
とも考えてしまう。
この考え方、つまり
「仕事が人の価値観に及ぼす影響は大きい。働く人もサービスを受ける人も貢献実感を持てて幸せな状態になるためには、会社を改善することの重要性が高い」
という話は、新卒で入った会社で言われていたことだった。
その時もこの論理には納得してたが、このように実生活に根付いた例に照らして考えると、改めて深く納得ができるし理解もできる。
自分はどんな価値観に染まっているのだろう
同時に、この考え方で自分のことも振り返ってみたい。
「職場での価値観が自分の価値観に大きな影響を与える」
「職場選びは大事」
ということであれば、自分はここまでの社会人生活を通してどうなったのだろうか。
自分の場合、新卒で入った会社の影響がやはり大きく、そこで得た
・仕事相手に対して真摯に価値を出そうとする
・エンドユーザのことを常に考え続ける
・常にゴールから考える
あたりの価値観・行動指針がまずぱっと思いつくし、今もベースにあるように思う。
ただ、例えば
「価値を出そうとする」については「そのためには徹夜も厭わない、というか厭わなさすぎる」
というような長期的に見たら自分にとって良くないと考えられる部分もある。多少見直した方が良いかもしれない。
また、転職した後は「エンドユーザのことを常に考え続ける」が弱くなり、「とにかく案件取ってくるぞ」という意識がとても強くなった時期もあったように思う。
転職直後だったこともあり、手っとり早くわかりやすい成果を上げようとしたのだが、今振り返ると、「エンドユーザのことをあまり考えられていない」という、自分のありたい姿からは離れた状態だった。
最近は何か変化はあるだろうかと考えてみると、最近は、何度か転職をしたことや、フリーで仕事をするようになったことの影響で、
・自分の提供価値のすり合わせをしっかりする、そのために相手に迎合せず伝えるべきことをしっかり言う
というような「協創のために大事にしていること」が新たに加わっている気がする。
(これは価値観というよりも「あり方」に近い気もするが、自分把握が目的なので、定義や粒感はあまりこだわらなくて良いかな、と個人的には思っている。)
*
いま知らず知らずのうちに持っている価値観の良し悪しは、絶対的な基準で判断できるわけではない。
その時々の自分の状況によっても違うだろう。
ただ
・自分はどんな価値観に染まってどんな行動をとっているんだろう?
・これは良いことなのかな?自分がありたい姿なのかな?
とたまに立ち止まって考えてみることは、社会のためにも、自分の幸せのためにも大事なんじゃないかな、と感じたのでした。
今日は以上です!
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
【プロフィール】
滝沢頼子
1991年生まれ。大学卒業後、UXコンサルとベンチャー2社を経て、現在はフリーランスとして幅広く活動中。
上海に2回住んだことがあり、中国に関する情報発信、視察アテンドや講演なども行っている。
神楽坂とワインとももクロが好き。
ウーパールーパー、カピバラなどの目が離れている生き物に似ていると言われがち。
ブログ:たきさんのちゃいなブログ
twitter:takiyori0608
note:たきさん
(Photo:Carol VanHook)