メールやチャットなどのテキストコミュニケーション、企画書の作成、外部への情報発信など、現代は、一般のビジネスパーソンにも文章力を求める時代であると言えます。

 

そんな中、私の文章はお客様から「分かりやすい」とご評価をいただくことがあります。

 

現在の私の役職は代表取締役です。

キャリアの多くは、デザイナーとして過ごしてきました。

近年はマーケターとしての活動も多いですが、編集やライターの経験はなく、文章についての専門的な訓練を受けたことはありません。

本職の方が見れば、基本ができていない部分も多々あるでしょう。

 

しかしながら、専門的な教育を受けたことがないからこそ、私のノウハウは、普通のビジネスパーソンでも真似できるものなのかもしれません。

そこで本稿では、文章を書く上で私が一番気をつけている「分かりやすさ」について、お話しさせていただきます。

 

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まずは以下の例文をご覧ください。

 

なぜユーザーテストをする必要があるかというと、UIはユーザーファーストでデザインする必要があるからです。

ユーザーテストをしなければ、本当の意味で良いUIにはなりません。

 

これは私にとっては「分かりにくい文章」であり、私はこういう書き方をしないよう注意しています。

さて、皆さんに問題です。なぜこの文章が分かりにくいか、説明できますか?

 

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「文章の分かりにくさ」は、以下の2種類に大別できると私は考えています。

1. 表現の分かりにくさ

2. 文脈の分かりにくさ

 

1の「表現の分かりにくさ」の原因は、主に言葉や言い回し、文書構造です。

使っている言葉が難しい。言い回しが回りくどい。一文が長くて複雑。修飾語がどれに掛かっているか分からない。主語と述語の関係が不明瞭。言葉の用法や文法がそもそも間違っている。

これらすべてが含まれます。

この表現の分かりにくさについては、目で見て判別できるので、自覚するのも指摘するのも比較的簡単です。

 

解決策も単純で、義務教育レベルの日本語が使えるなら、以下の対策でほぼ解消できるでしょう。

• 難しい言葉を使わない

• 文章を短く切る

しかし、先ほど示した例文は、難しい言葉もなく、文章も短く、これに当てはまりません。

 

つまりここで私が指摘した分かりにくさとは、2の「文脈の分かりにくさ」のことです。

文章としては破綻していない。難しい言葉も使われてない。言っていること自体は理解できる。

だけど、なんだか腑に落ちない。なぜそれを力説しているのか分からない。なぜ当たり前のことをわざわざ書いているのか分からない。書かれた意味や意義が見えない。

 

このように、日本語としては理解できるのに頭に入ってこない文章というのは、文脈が分かりにくい可能性が高いです。

この文脈の分かりにくさを解消するには、「説明を省略しない」に尽きます。

具体的にいえば、以下のようなことです。

• 議論の背景を省略しない

• 議論の前提を省略しない

• 結論に至った理由を省略しない

• 論理が展開する理由を省略しない

そしてこの説明を的確に行う上で重要になるのが、読み手の設定、つまりターゲティングです。

 

表現の問題も、専門用語の選択においてはターゲティングの考えが必要です。

しかしそれを除けば、通り一遍等に「平易に、短く」を守るだけで、ある程度は表現の問題を回避できます。

それと比べて文脈には、より強くターゲティングの考え方が求められます。

 

先ほどの例文を再掲します。

 

なぜユーザーテストをする必要があるかというと、UIはユーザーファーストでデザインする必要があるからです。

ユーザーテストをしなければ、本当の意味で良いUIにはなりません。

 

これを私は「分かりにくい文章」と断言しましたが、そうは感じない人もいるでしょう。

特に、UI、ユーザーファースト、ユーザーテストといった言葉に日常的に触れているデザイン業界の人は、分かりにくいとあまり思わないはずです。

 

なぜなら彼らは、この文章の背景にある前提が頭の中にインプットされているからです。

省略されている文脈を頭の中で補完しながら、文章を読み進めることができるからです。

 

その一方、非デザイン系であるビジネスパーソンはどうでしょうか。

UIやユーザーファースト、ユーザーテストの言葉の意味は分かるでしょう。

日常的にはあまり聞かなかったとしても、その意味を想像することはできるはずです。

 

しかし、その背景にある文脈となるとどうでしょう。

上記の例文を読み、日本語としては理解しながら、以下のような感想を持ってしまう可能性はないでしょうか。

• 言っていることは分かるが論点がよく分からない

• なぜ当たり前のことを力説しているのか分からない

• 理屈は分かるが、都合のいい論理展開にも感じる

• ここでこの話を挟む意味が分からない

• 書いていることは分かるが、自分事として咀嚼できない

• どう解釈すべきなのかよく分からない

このようなミスコミュニケーションを回避するためには、読み手のターゲティングをもう少し広げた、文脈の丁寧な説明が不可欠です。

 

先ほどの例文について、「私はこういう書き方をしない」といいましたが、「私はこんな狭いターゲティングはしない」の方がより正確です。

具体的には、私なら以下のような書き方をします。

 

「UIはユーザーファーストでデザインしなければならない」と言われると「そんなの当たり前じゃないか」と思うかもしれません。

しかし実はその当たり前が難しいのです。

 

「ユーザーファーストになろう」といえば誰しもが賛成するでしょう。

しかし実際のビジネスでは、ユーザーの利益と企業の利益が反することが多々あります。

そして企業の中にいると、より離れた存在であるユーザーより、より目の前にいる自分たちや組織の目線で物事を考えてしまいがちです。

その結果、ユーザーファーストではなく企業ファーストになり、UIも企業の都合で考えてしまうのです。

 

このような事態を回避する手段の一つとして、ユーザーテストは有効です。

ユーザーテストを行えば、ユーザーに関する客観的な情報が手に入ります。

このレポートは、企業が企業目線になって判断を誤ることを、極力防ぐものになります。

ユーザーテストをしなければ本当の意味で良いUIにはならない、と言っても過言ではないでしょう。

 

この改善例の最大のポイントは、前提となる文脈をきちんと説明していることです。

なぜ、「UIはユーザーファーストであるべし」という、当たり前のことをあえて議題に上げているのか。

なぜそのために、ユーザーテストという手段が必要なのか。

なぜ「ユーザーテストをしなければ良いUIにならない」と言い切れるのか。

ここまで文脈を説明すれば、デザイン業界の人ではない一般のビジネスパーソンにも分かりやすい文章になるでしょう。

 

そしてこのように文脈を丁寧に説明すると、記事は広がりやすくなります。

 

私はSNSでブログがバズることがあり、「どうすれば枌谷さんのようにバズるのか?」という相談をしばしば受けます。

SNSのバズは、タイトル、OGP画像、テーマ、タイミングなど、複合的な要因で起こります。

そのため、コツは一様ではありませんが、テーマは悪くないのに全然読まれない記事は、一部の人にしか文脈が分からない文章になっていることも多いです。

その場合、より多くの人が読めるよう、前提や説明を省略せず書くことが、最も有効な改善策となるでしょう。

 

ただ、このように文脈の分かりやすさに配慮することには、「文章が長くなる」というトレードオフもあります。

 

私はブログを書く時も文脈説明を小まめに追加していくため、5,000字以内に収まることは稀です。

10,000字を超えることも少なくありません。時には、20,000字や40,000字を超えることもあります。

そのため、「分かりやすい」というご評価をいただく一方、「長すぎる」「無駄な説明が多い」「中身が薄い」「3行ではよ」などといった批判的なコメントをいただくこともあります。

 

私は、多くの人に分かりやすいことと文章の長さは表裏一体であり、割り切る必要があると考えています。

つまり私の場合、「長すぎる」「余計な説明が多い」と感じる読者より、「丁寧で分かりやすい」と感じる読者を優先して文章を書いているということです。

 

しかしこのような説明をすると、「それならできるだけターゲットを広げて説明文をたくさん書こう」と発想する人がいるかもしれません。

 

先ほどの例文なら、UI、ユーザーファースト、ユーザーテストという言葉自体に人に聞き馴染みがない人でも分かるように事細かに説明を追加していくような発想です。

確かにそうすれば、より多くの人が理解できる文章にはなるでしょう。

 

しかし過剰に説明的な文章は、文章量に見合ったリターン、つまり投資対効果の観点から、私は賛成しかねます。

UI、ユーザーファースト、ユーザーテストという言葉自体が分からない人にまで理解を促すように説明すれば、より多くの説明文が必要になります。

当然その分の労力もかかりますし、理解している人からすれば、無駄な説明が多い文章にもなります。

 

そういったリスクと引き換えに文章を読む人が増えるかというと、そうではないでしょう。

なぜなら、基本的な言葉自体をよく知らない人は、そもそもそのテーマに関心がなく、いかに文章が分かりやすくてもわざわざ読もうとしない可能性が高いからです。

 

このように、ターゲティングはただ闇雲に広げればいいわけではなく、適切な広さのターゲティングが求められるわけです。

 

というわけで、ここまでの話を総括すると、以下のようになります。

 

• 文章の分かりにくさには、表現の分かりにくさと、文脈の分かりにくさがある

• 表現を分かりやすくするには、平易な言葉使いをし、文章を短くする

• 文脈を分かりやすくするには、適切な広さでターゲティングし、丁寧に説明する

 

これがこの記事でお伝えしたかった「分かりにくい文章」に対する解決法ですが、最後に、より本質的な問題について少しお話しします。

 

私は、「分かりにくい文章」の根底には、少なからず「コミュニケーションに対する油断」があるように思います。

「このくらい書いていれば大丈夫だろう」「これで分からないはずがない」という油断です。

 

それは、自分自身を客観視できてないことが一番の原因かもしれません。

書き手の目線ではなく、読み手の目線を想像して書かない/書けないことが、「分かりにくい文章」の本質的な問題であるように思います。

 

これは文章に限った話ではなく、あらゆるコミュニケーションに共通します。

「自分の話は分かりやすいはず」「これで分からないのは受け手の勉強不足」「あいつは理解力がない」といった前提に立っている限り、「分かりやすい文章」も「分かりやすいコミュニケーション」も、意図的に生み出すことはできないでしょう。

 

つまり、「自分の文章は分かりにくいかもしれない」という問題意識を常に持ち続けることこそが、「分かりにくい文章」に対するもっとも本質な解決策だと思うわけです。

 

もしあなたが、「文章が分かりにくい」とよく言われるようだったら、単に文章を書き直すだけでなく、自らのコミュニケーションの姿勢そのものを疑ってみる必要があるのかもしれません。

 

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【プロフィール】

枌谷 力

株式会社ベイジ代表。

新卒でNTTデータに入社。4年の企画営業経験の後、デザイナーに転身。制作会社を2社を経て、2007年にフリーランスのデザイナーとして独立。2010年に株式会社ベイジ設立。経営全般に関わりながら、クライアント企業のBtoBマーケティングや採用戦略の整理・立案、UXリサーチ、コンテンツ企画、情報設計、UIデザイン、ライティング、自社のマーケティングや広報、SNS運用、ブログ執筆など、デザイナー、マーケター、ライターの顔を持つ経営者として活動している。

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(Photo:greg