先日某所であった、交流会でのこと。

「すごい人なので、会ってみてくださいよ」と言われて、ある経営コンサルタントの方を紹介された。

 

結論から言うと、辣腕のコンサルタントだと感じた。

分析は的確、話の事例が豊富で「こんな企業は成功する」「こんなやり方は失敗する」という話題に説得力がある。

多くの顧問起業を抱えているそうで、紹介者が「すごい」と言っていたのも頷ける。

 

そこへ、何人かの起業家が話の輪に加わった。

皆、そのコンサルタントの話を熱心に聞いている。中にはメモをとる方もいた。

 

その後。

会合のあと帰路につくとき、その起業家の方々と、上述したコンサルタントの話になった。

「あのコンサルタントの方の話、面白かったですね。」

「そうですねー。」

なんか、我々とは世界観が違う、って感じですよね。」

 

……世界観?

 

「といいますと?」

「私は起業家同士で会うことが多いので思ったのですが、ああいう分析志向の人って、私の周りの起業家には少ないな。と。だから大変勉強になりました。」

「そういうもんですかね。」

 

「まあ、起業って、どこまで行っても、博打みたいなもんですから。分析も限界があって、みんなどこかで分析を諦めて……というか待てなくて、エイヤッとやっちゃう人が多いと思うんです。まあ、だから突っ走って失敗するのかもしれませんが(笑)。」

「ああ、なるほど。」

「だから、突き詰めて分析する人は、違うな、と。」

 

ああ、なるほど、そうか……

 

「世界観が違う」という感覚。

客観的で、冷製で、批判的で、すこしシニカルな、あのコンサルタントのことを、起業家ではなく分析家だなあ、と、彼は言っていたのだ。

 

 

世の中には、「批評と分析」を得意とする人と、「創造」を得意とする人、別の種類の人々がいることは、なんとなく思っていた。

 

例えば、起業の方法をいろいろな起業家に聞いて回り、「こうすればうまくいく」と法則を見つけようとする人がいる。

だが、彼らは上で紹介したコンサルタントのように「分析家」であることがほとんどで、実際に起業する人は少ない。

中には独立する方もいるが、「起業」と言うよりは、一人で専門職としてやっている方が多い。

 

それに対して「起業してしまう方」は、分析をしないわけではないが、どちらかと言うと

「とりあえず営業してみるよ」

「商品つくってみたよ。」

「人雇っちゃったよ」

「お金借りちゃったよ」

と、分析に時間をかけられず、一刻も早く「売りたい/創りたい/なにかしたい」人が多いのだ。

 

これは、作家や画家、研究者界隈などもまったく同じで、「書きたい」「描きたい」「発見したい」「発明したい」という、「創造」が得意な人は、それらに冷徹な分析を加える「批評・分析」が得意な人と、わりとはっきりと分かれる。

 

例えば「小説家志望」なのに、作品の批評と分析ばかりしている人が、ネット上にはかなりいる。

あるいは「どうすれば上手く書けますか?」と聞く人がいる。

 

でも、どんな場合でも答えは唯一つ。

「こんなところで遊んでないで、早く作品をつくりあげて、公開せよ」だ。

 

ただ、私は、そのような方は「小説を書く」よりも、「書評を書く」「編集者になる」など、分析と批評を生業にしたほうが良いと思っている。

 

別に「創造」だけが尊いわけではない。分析も批評も、極めれば立派な職業だ。

ちょうど、起業家とコンサルタントのように、分析家/批評家として一流の能力を持つ人は、創造する人々から、むしろ必要とされている。

 

 

実は、冒頭のコンサルタントの話を受けて、以前読んだこんな記事を思い出していた。(太線は筆者)

村上春樹恐怖症

「眼高手低」という。

創造よりも批評に傾く人は、クリエーターとしてはたいした仕事はできない。

これはほんとうである。私自身がそうであるからよくわかる。

私もまた腐るほどたくさんの小説を読んできて、「これくらいのものなら、俺にだって書ける」と思ったことが何度もある。

そして、実際には「これくらいのもの」どころか、一頁さえ書き終えることができなかった。

銀色夏生さんは歌謡曲番組をTVで見て、「これくらいのものなら、私にだって書ける」と思って筆を執り、そのまま一気に100篇の歌詞を書いたそうである。

「作家的才能」というのはそういうものである。努力とか勉強とかでどうこうなるものではない。

人間の種類が違うのである。

コンサルタントも、作家などと同様に、起業家とは違う種類の人間であることが多い。

努力とか、勉強とかでどうこうなるものでもない、という感覚はよく分かる。

実際、私はコンサルティング会社に在籍していたが、経営コンサルタントとしては一流でも、実際に起業してしまう人間は本当に稀であった。

 

だがもちろん、これはどっちが上かという話ではない

 

「眼高手低」は、「批評は上手だが、実際に創作すると下手であること」を意味する。

しかし、「手」もまた存在している。

作品は最高なのに、批評も分析もからきし、思いを人に上手く伝えることもできない、という人も多い。

 

また、一流の批評家が取り上げたからこそ世に出た、という芸術家の例は世の中にいくらでもある。

作家が編集を必要とするように、

経営者がコンサルタントを必要とするように、

画家が画商や批評家を必要とするように、

お互いが補完関係にあるのだ。

 

 

ただ、自分の得意な領域がどこかを見誤ってしまうと、辛いことになる。

 

例えば、上の「村上春樹恐怖症」で取り上げられていた「村上春樹の才能は私が見出した」と自称していた編集者の安原顯は作家志望であったようだ。

しかし彼は残念ながら「作家」としては恐ろしく平凡だったという。

そして彼は「作家」として平凡であったがゆえに、作家的才能を持つ村上春樹を憎んだ。

作家と編集者の間には上下の格差や階層差があるわけではない。

能力の種類に違いがあるだけである。

けれども、これを人間的資質の差や才能の差だと思う人がいる。不幸な錯覚であるけれど、思ってしまったものは仕方がない。

安原顯が村上春樹を憎むようになったきっかけは、安原の作家的才能に対する外部評価が、彼が望んでいるほどには高くなかったことと無関係ではないだろう。

安原氏のように、「自分の適性」を見誤ると非常に辛い人生を送らざるを得ない。

 

これは当然のことで、「他人はどう思うか」を主軸とする「批評/分析」は、「起業」や「創作」とは正反対のことをしているからだ。

そもそも「起業」や「創作」は、「間違い」や「思い込み」を前提としているのであって、他者がどう思うかは関係がない。

 

要するに「自分勝手に振る舞った結果、たまたま成功する」という性質をもっているのだ。

それゆえ、多くの人が知るとおり、ほとんどの起業家や作家、芸術家は世に出ぬまま、忘れ去られる。

 

一方で、「批評や分析」は、「周りがどう捉えたか」「事実としてどうか」を重視する。

本人がどう思うかは関係がない。

だから、繊細で、人の反応が気になり、失敗したくない、という性質の人は、「分析/批評」のほうが向いている。

価値の判断基準が自分の外にある人間は表現者になれない

価値の判断基準が自分の外にある人間は表現者になれない。その表現の仕方が研究だろうと、スピーチだろうと、絵画だろうと、価値の判断基準は常に自分の内部にあり、その基準に基づいて自分の考えや思いを外に問うのが表現だ。

価値の判断基準が外にある人間は、自分の内部にあるものが外に問うだけのクオリティに達しているかを常に悩んでしまい表現を外に出せない。

外に出せない限り、いかなる人間も表現者とはなりえないんだ。

失敗したくない、笑われたくない、馬鹿だと思われたくない、評判を失いたくない。

そんな人は、「クリエーター」に本質的に向かない。

 

 

でも前述したように、クリエーターと、批評家/分析家は、補完関係にある。

批評家たちは、失敗ばかりしており、嘲笑され、馬鹿だと思われ、評判の悪い「クリエーター」を助けてやればよい。

マーケティングも組織づくりも知らない、愚かな起業家を支えればよい。

 

冷静に何が悪いのか、どこを改善すればよいのか、批評家や分析家のあなただけが、クリエーターに適切な意見を述べることができる。

 

それが、世の役割分担というものだ。

 

 

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(2019/8/8更新)

 

 

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