アラサーにもなると、会社勤めの友人たちは、ぼちぼち後輩を指導する立場に就きはじめる。
他人に教えることのむずかしさは承知しているつもりだから、苦労もあるだろう。
そこでよく聞くのが、「どうやって後輩をやる気にさせればいいのかわからない」という悩みだ。
「もっとちゃんとやれよ」と言えばいいものでもないし、「すごいねぇ」と褒めちぎるのもどうなんだろう。
でもなんだか、やる気とか熱意が伝わってこないんだよなぁ。
とまぁ、こんな感じである。
同じ悩みを抱えている人は、古今東西山のようにいるだろう。
だから、「いかに部下やチームメイトのやる気を引き出すか」という本や記事がたくさんあるのだ。
わたしも気になってそういうものにはよく目を通すのだが、たいていの場合、わたしが一番大事だと思う要素が抜けている。
それは、「その人の役割を用意し、任せ、認めること」だ。
「お前はなにもしなくていいよ」と言われてクリアしても、うれしくない
オンラインゲームで他プレイヤーと協力して敵を倒すとき、プレイヤーがそれぞれ役割分担することがある。
たとえば、タンク、アタッカー、ヒーラー。
タンクというのは、敵の注意を引く盾役。タンクが敵を引きつけているあいだにアタッカーが攻撃して、味方がダメージを食らったらヒーラーが回復する。
そうやって、うまく支え合って敵を倒していくのだ。
わたしがとあるオンラインゲームをはじめたばかりのころ、うまい人たちが「強いモンスターを倒しに行こう」と言ってくれたことがあった。
「こっちで全部やるから、死なないようにしてくれればそれでいい。こいつを倒すといいアイテムが手に入るから」と。
正直それはどうなんだろうなぁとは思ったけど、相手は好意で言ってくれていること。
無下にするのも悪いと思い、わたしは当時の自分の実力に対し、不相応に強いモンスターと戦いに行った。
タンクもヒーラーもできないので消去法でアタッカーになったはいいものの、ぶっちゃけ攻撃なんてほとんどできなかった。
ジャマにならないように逃げ回っているあいだに、さくっと討伐完了。
ゲームのシナリオは進んだし、お金もたくさんゲットしたし、いいアイテムも手に入れた。
のだが……
正直、あんまり楽しくはなかった。
だって、わたしがいなくてもよかったんだもん。
わたしはその場では無価値で、いてもいなくてもいい存在で、自分が「強いモンスターを倒してクリアした」だなんてまったく思えなかった。
久しぶりに燃えた瞬間、目標タイムの達成
一方で、ものすごく達成感を味わったことがある。
それは、よく遊ぶメンバーで、タイムアタック(どれだけ早く敵を倒せるか)をしたときだ。
みんなわたしと似たり寄ったりの実力で、正直そんなにうまくはない。
でもお互いのできることを確認して役割を分担し、戦術を練って、敵の行動を把握して、何度も何度もやり直して、試行錯誤を重ねた。
自分がもっとうまくなって、1秒でも早く倒せるようになりたい。わたしの役割は、わたしがしっかりやらないと。
ふだん闘争心とは無縁のわたしだけど、使命感と責任感で、めずらしく燃えていた。
いろんな動画を見たし、ソロ(ひとりプレイ)で練習してチームに貢献できるように努力もした。
その結果、見事目標タイムを達成したのだ(超ギリギリだったけど)。
タイム自体は決して早くはない。うまい人からすれば、鼻で笑っちゃうレベルだ。
でもわたしの心は、達成感でいっぱいだった。
そしてそれは、みんなも同じこと。全員が自分の役割を果たすために努力し、味方を信頼したからこそ達成できたタイムだ。
タイムを確認した直後、お互いを気持ち悪いくらい褒めあった。
「あのときのサポート最高だった!」
「いやいや、お前の回避もナイスだったよ!」
「アタッカーの実力あってこそだね」
「いやぁこれはみんなの勝利だ!」
あのときの達成感というのは、人生でもなかなか味わえないものだと思う。
オーバーに聞こえるかもしれないけれど、本当に、それくらいうれしかったのだ。
他人のモチベーションを上げたいなら、役割を用意し、任せ、認めればいい
この経験を通じて思うのは、「モチベーションに火を付けるのは、役割を与え、任せ、認めること」だということ。
人間は、「自分には価値がない」と思った瞬間、なにもしなくなる。
でも「自分にしかできないことがある」と思えば、めちゃくちゃ燃えるものなのだ。
「いかに部下やチームメイトをうまく使うか」という問いには、さまざまな答えがあるだろう。
たとえば、
・具体的な目標を共有してゴールを明確に
・みんなの前で褒め、注意するときは人がいないときに
・失敗をフォローできる体制にし、挑戦しやすいように
などなど。
でもやっぱり、人間が一番燃えるのって、「お前が頼りなんだ! 任せたぞ!」って状況じゃないだろうか?
「その人の役割」というのは、「代わりがいない専門性の高い作業」に限らない。別に、ほかの人ができる内容でもいい。
ただ、「これはあなたの役目なので任せましたよ」と言うことが最重要。
ほかの人に押し付けられない「自分の仕事」だと自覚した瞬間に、人はやる気を出すし、責任を感じるのだ。
だからこそ、成し遂げたときは達成感を得て、自分の実績を誇り、成長を実感し、次につなげられる。
単純なことだけど、自分の仕事を与えられ、任され、認められれば、たいていの人間はやる気を出してがんばるものだ。
逆にいえば、「自分の役割がなく、なんの仕事も任されず、だれからも認められない」状況であれば、「やる気を出せ」というほうがムリだろう。
実際、仕事を自分の手から離さず過剰に干渉してくる人や、自分の気に入らない方法でやっている部下にダメ出しをする人、労いの一言もかけない人は、他人のやる気をそいでいるはずだ。
役割分担が機能すれば、モチベーションは上げられる
「役割分担なんて当たり前すぎてなにをいまさら」と思うかもしれない。
でも実際、集団において「自分の役割はこれで、ここを任されている」と自覚して自らの作業を行っている人って、どれくらいいるんだろう?
とくに、日本のように決定権や裁量権があいまいになりやすい環境では、案外少ないんじゃないか?
「自分の仕事なのに自分の判断を信じてもらえない」
「あいつはサボっていたのに、優秀なやつと同じチームだからって評価を上げるなんてずるい」
「ほかの人がやってくれているんだから自分ががんばらなくても」
「だれかやるだろうから放置でいいや」
「これはだれの決定かわからないけど、先輩あたりが責任を取るだろう」
と考えている人だって、めずらしくはない。
もちろん、なかには「仕事を任せられない理由がある」と思うような人もいるかもしれない。
でもそういう人が役に立てる仕事を与える采配も、リーダーの仕事だ。
役割を与えてもやらない人間もなかにはいるが、それなら「任せたのに」としっかり責任を追求することもできる。
というわけで、やる気を出してもらいたいなら、「その人の役割を用意し、任せ、認める」ようにすればいい。
他人のモチベーションを上げることに関してわたしが行き着いたのは、こんな簡単な結論だった。
もちろんそこには、「相手の適正と能力を鑑みた役割分担」が必要不可欠で、理不尽な押し付けがあってはならないのだけど。
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第6回目のお知らせ。

<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>
第6回 地方創生×事業再生
再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは【ご視聴方法】
ティネクト本音オンラインラジオ会員登録ページよりご登録ください。ご登録後に視聴リンクをお送りいたします。
当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。
【今回のトーク概要】
- 0. オープニング(5分)
自己紹介とテーマ提示:「地方創生 × 事業再生」=「実行できる経営企画」 - 1. 事業再生の現場から(20分)
保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例 - 2. 地方創生と事業再生(10分)
再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む - 3. 一般論としての「経営企画」とは(5分)
経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説 - 4. 中小企業における経営企画の翻訳(10分)
「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論 - 5. 経営企画の三原則(5分)
数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する - 6. まとめ(5分)
経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”
【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。
【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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(2025/7/14更新)
【著者プロフィール】
名前:雨宮紫苑
91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&
ハロプロとアニメが好きだけど、
著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)
ブログ:『雨宮の迷走ニュース』
Twitter:amamiya9901
(Photo:John Jewell)