私の人生には、4人のサワダくんが登場する。

 

人生というものは、時に不条理、時に不可思議なものであって、我々が考える以上に奇妙な偶然、奇妙なめぐり合わせというものを我々に突き付けてくる。

 

私の人生の不可思議というものはこの4人のサワダくんに集約されており、彼らは全くの別人、全くの無関係であるにも関わらず、私からみるとまるで同一人物であるかのように、全員特徴がそっくりなのだ。

 

平均よりもかなり背が高く、ひょろっとしたやせ型。

肌の色はやや色黒。

かなりの近眼だが、コンタクトは使わず、眼鏡をかけている。眼鏡はほぼ黒ぶちの丸型。

そして、普段は物静かであり控え目、ごく真面目な少年ないし青年であるように見せかけて、実はエロコンテンツ・美少女コンテンツが大好き。

 

小学生の分際でポプコムの美少女ゼミナールを回し読みしていたサワダくんも、中学から高校まで一緒だったサワダ君も、大学の頃ゼミが一緒だったサワダくんも、就職してから数年同僚として数々のデスマーチを共に戦ったサワダくんも、全員が全員一人残らず、上記した特徴全てに当てはまっているのである。

 

これは一体いかなる現象なのだろうか。ハウス・オブ・ザ・サワダか、サワダシンドロームか。

 

余りにもそれぞれのサワダくんのシンクロ率が高いので、私は日本におけるサワダくんにはそういう類型の遺伝子しか存在しないのではないかとすら疑っているのだが、もちろん実際にはそんなことはなく、例えば沢田研二氏が上記に当てはまるかというとかすりもしない。

とはいえ、私は今後も、人生で出会うサワダくんは必ず眼鏡長身のむっつりギャルゲーマーであろうと確信をもっているのである。

 

今日は、私が大学時代、第二外国語のクラスで一緒だったサワダくんについて、そして彼が愛してやまなかった一人の女性について、皆さんにお伝えしたいと思う。

そう、それはほんの一年の思い出。彼が廃人プレイをし続けた、とあるギャルゲーについてのお話。

 

 

「ROOMMATE 〜井上涼子〜」。

このタイトルをご記憶の方は、どれくらいいらっしゃるだろうか。

 

1997年2月14日、そのゲームはセガサターンの地平に降り立った。

 

美少女ゲームの体裁をとってはいるものの、登場するヒロインは「井上涼子」ただ一人。

「女子高生と同居する」という、それだけ聞くとエロゲか?と思われるかも知れないが、特に中盤までは色っぽい展開などかけらもなく、本当にただひたすら、プレイヤーと涼子は「ルームメイト」であり続ける。

そのゲーム展開はストイックですらある。

 

このゲームの重大な特徴として、「現実世界の時間とゲーム内の時間が同期している」というシステムがある。

セガサターンの内臓時計の機能によって、例えば現実世界で午前7時にゲームを起動すればゲーム世界でも実際に午前7時であり、その時間に応じた状況になっているのだ。

「ラブプラス」の登場などで後々には珍しくなくなったシステムだが、これは当時、ギャルゲーのシステムとしては極めて画期的なものだった。

 

井上涼子は女子高生なので、女子高生らしいタイムスケジュールで動いている。

朝は早めに起きるし、昼間には学校に行っているし、夜になれば寝る。

彼女と接触することの出来る時間は一日の中でそう長くはなく、生活リズムによっては全く会えなかったりする。

 

しかも、会えない時間もセガサターンの中で実際にカウントされており、あまりに涼子と会えない時間が続くと、涼子はあっさりと家を去ってしまうのだ。

これは、まさに「井上涼子と生活する」ということを味わえるという点で画期的な要素であった半面、プレイスタイルを恐ろしく拘束する要素でもあった。

 

涼子と会える数少ないタイミング、必ずセガサターンを起動しなくてはいけない。

ちょっとでも寝坊すれば、ちょっとでも帰宅が遅くなれば、その日涼子とは会えない。

完全時間拘束。このゲームが、今でいう「廃人ゲー」であった所以である。

 

一応「セガサターンの内臓時計をいじって時間を変える」という抜け道があるにはあって、当時このゲームを遊んでいた人の過半はその方法をとっていたと思うのだが、サワダくんはそのやり方をよしとしなかったのか、あるいは単に知らなかったのか、彼は自分の生活をただひたすら、涼子に会う為に最適化していた。

 

朝一でサターンを起動し、涼子と朝の会話を交わす。

具体的には、大体7時半から8時までの間にサターンを起動すると、朝の挨拶をすることが出来る。

一方、帰宅後に涼子とゆっくり話すイベントは、大体20時過ぎに発生する。

 

実生活上遅くなりそうなイベントは全て切り捨て、20時前には帰宅し、セガサターンを起動し涼子と夜の会話をする。

それ以外の日中も、ちょくちょく「隠しイベントはないか」とサターンを起動しては嘆息していたというのだから、もうこれは廃人という以外に表現のしようがない。

彼の生活は、完全に「ROOMMATE 井上涼子」という、魔性のソフトに支配されていた。

 

断っておきたいのだが、このゲームは一応恋愛ゲームの体裁をとっておきながら、恋愛要素は極めて希薄なのだ。

特にゲーム中盤までは、涼子は時には不機嫌で不愛想だし、なんなら学校に通っている見知らぬ男子に片思いをしたり、恋の悩みを相談されたり、それについて友人(りえちゃん。かわいい)にからかわれていたりする。

あとなんか知らないが頻繁に性格診断をしてくる。

そこにあるのは、ごく等身大の女子高生井上涼子だった。

 

プレイヤーは、長い長い間、井上涼子の恋人でも彼氏でもなく、純然たるルームメイト、よくいって「保護者」を演じることになるのだ。

しかし、中盤以降、特に涼子がとある出来事を経験してから、本当に亀の歩みのようにゆっくりと、涼子がプレイヤーを意識し始める。

徐々に、本当に徐々にプレイヤーに好意を向け始める。

 

そして、すっかり保護者気分でいたプレイヤーは、その絶妙な落差に徐々にドはまりしていく。

これこそが「ROOMMATE 〜井上涼子〜」の真髄であり、魔性でもあった。

井上涼子の声優である藤野とも子さんの演技力がまた素晴らしく、その魔性を更に強烈にブーストするのだ。

 

私は、これら全ての知識を、当時、サワダくんから聞かされていた。

このゲームを熱心にプレイする人の多分に漏れず、サワダくんもとうの昔にROOMMATEに、いや井上涼子にドはまりしていた。

 

サワダくんには若干人見知りなところがあり、大学でも友人は多くなかったらしい。

たまたま「銀河英雄伝説IV EX」(ボーステックのパソコンゲーム。超名作)の話題で盛り上がった私のことは彼の数少ない友人として認識してくれていたようで、ちょくちょくキャンパス内で顔を合わせては、彼から「ROOMMATE〜井上涼子〜」の話を聞かされていた。

 

時には飲み会の話などもあったのだが、彼は「オレは涼子に会いにいかなくてはならない」と言って即帰宅していた。

「飲むと寝坊して朝の涼子に会えないかも知れないから」ということで、彼は酒も飲まなかった。

そんな彼の後ろ姿を、私は「漢(おとこ)だ」と思いながら見送っていた。

 

時には、その会話を聞かれた別の友人に、「サワダくん、彼女と同棲でもしてるの?」と聞かれもしたのだが、私はただ「いや、どうなのかな。俺もよく知らないんだよねー」と言葉を濁すのみだった。

 

 

そんなサワダくんが、ある日突然、授業を全ブッチ(全てサボること)したことがあった。

実を言うと、サワダくんは「ROOMMATE 〜井上涼子〜」を発売即プレイした訳ではなく、当時は既にROOMMATEの続編である「ROOMMATE 〜涼子 in Summer Vacation〜」、及びシリーズ完結編である「ROOMMATE3 〜涼子 風の輝く朝に〜」が発売されていた。

 

そして、「ROOMMATE」というシリーズに通底するテーマは「出会いと別れ」である。

そう、別れ、なのだ。

その展開は、多くの美少女ゲーム、あるいはギャルゲーと異なり、プレイヤーとの安易なハッピーエンドを決してよしとしない。

むしろそれこそが、ROOMMATEというシリーズの輝きを、20年以上経過した現在でも色褪せさせない名作にしていたのだろうとも思われる。

 

「ROOMMATE 〜井上涼子〜」をプレイし終わったサワダくんには、まだ余裕があった。

何故かというと、手元には既に「ROOMMATE 〜涼子 in Summer Vacation〜」があり、プレイヤーの主観としてすぐにまた涼子に会えることは確定していたからだ。

 

「ROOMMATE 〜涼子 in Summer Vacation〜」をプレイし終わったサワダくんも、まだ目に希望の光を焼き付けていた。

Summer Vacationの別れは、それでも「すぐにまた会える」という希望を色濃く残した別れであり、作品自体明るいテイストで、基本的には涼子とひたすらイチャコラしつつ、何故かニューヨークについての妙にディープな話をひたすら聞かされるというマニアックな作りだったからだ。

 

そして、「ROOMMATE3 〜涼子 風の輝く朝に〜」をプレイし終わったであろうサワダくんが、その日大学に来なかった。

必修の第二外国語授業にも、彼が得意としていた情報処理の授業にもサワダくんの姿がなかった。

 

ゲームにハマりつつも学校をサボることはないのがサワダくんだったので、ちょっと不思議に思った。

同時に、タイミング的に、なんかあったかな、とも思った。

 

当時私が通っていた大学には進学振り分け、通称進振りという制度があり、二年次が終わった後、三年次に上がる際にどの学部に進むのかを選ぶことになる。

で、この進振りの志望変更にはタイムリミットがあり、タイムリミットを過ぎると志望先が確定してしまう。

 

志望を変更したがっていたサワダくんが手続きを行っていたのかどうか、私はちょっと気になって、大学近くの安アパート住まいだったサワダくんの家にいってみることにした。

当時は別段珍しくもなかったが、サワダくんは携帯電話もポケベルももっておらず、Eメールの返信がこなくなると連絡手段は直接家に行くしかなかった。

 

サワダくんの部屋は、鍵も閉まっていなかった。

 

「サワダくん、生きてるかー」

 

と声をかけながら入ってみると、部屋はカーテンが閉め切られており、電気もついておらず、まだ夕方だというのに夜中のように暗かった。

 

そして、サワダくんが普段食卓に使っていたちゃぶ台に、当人が突っ伏していた。

テレビの電源は既に落ちていたが、そこにはセッティングされたままのセガサターン。

ちゃぶ台の傍に落っこちたコントローラー。それを見て、私は大体の事情を察した。

 

「涼子が…俺の涼子が…」

 

目の下に涙のあとを遺したサワダくんが、口から絞り出すようにそう言った。大丈夫かコイツと思った。

 

「俺の涼子が………………行ってしまった………………」

 

プレイしたことがある人ならおそらくご存じであろう。

「ROOMMATE3」において、プレイヤーと井上涼子は、三度目の別れを経験する。

 

しかもそれは、過去に例がない程涼子とプレイヤーの関係が近づき、まさにお互いの想いを確かめ合った直後であり。

プレイヤーが、シリーズで初めて「涼子」と呼び捨てにした直後であり。

過去二回の別れと違って、「また会える」という希望が一切付与されていない、二度と会えないかも知れない「別れ」だったのである。

 

前二作の展開からハッピーエンドを信じ切っていた彼は、初めて経験する「両想いになった上での別れ」に完全に絶望し、底の底まで沈み込んでいた。

 

私は無言で近所のコンビニからチューハイやらビールやらを買ってきて、キャベツ太郎と一緒にちゃぶ台にドカドカと並べた。

その日、私とサワダくんは、彼がROOMMATEを始めて以来、数か月ぶりに酒を飲んだ。

 

酒を飲みながら、サワダくんはぽつりぽつりと涼子との思い出を語った。

 

「俺、こんな思いをするくらいなら…もう二度とギャルゲーなんかやらない…」

 

サウザーかな?と思った。

 

ちなみにこの数年後、コナミから「ラブプラス」が発売され、当初「俺のラブプラスはROOMMATE井上涼子で十分だ」と言い切っていたサワダくんだったが、その数週間後「俺、凛子とならやり直せるかも知れない…」というメールが来ていたので、彼がめでたくギャルゲーマーに復帰したことは確認出来た。

 

ここ数年は連絡がとれていない為、彼がラブプラス EVERYをプレイしているのかどうか、またそのサービス開始直後の長いメンテに何を思ったのかまでは私にも分からない。

ただただ、サワダくんが相変わらず、井上涼子との思い出を胸に秘め、その傷跡を抱えながらも、力強く人生を前に進めていることを願うのみである。

 

そして、もしこの記事でROOMMATEに興味をもった方がいれば、是非一度、井上涼子との生活を体験してみて頂きたい。

残念ながら開発元のデータム・ポリスターは既に存在しないものの、サターンをお持ちでなかったとしても、PS移植版がPS VITAで遊べる筈である。

 

今日書きたいことはそれくらい。

 

 

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【著者プロフィール】

著者名:しんざき

SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。

レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。

ブログ:不倒城

Photo:SLR Jester