壱岐でお世話になった知人が、クラウドファンディングで支援者を募っていた。

発起人は立山晋吾さん。

生まれ育った壱岐島の漁業の衰退を目の当たりにし、勤め先の九州郵船を辞めて、「釣り船」の会社を立ち上げた。

 

そう聞くと、読者の方々は、昨今のいわゆる「スタートアップ的な」起業を思い浮かべるかも知れない。

テクノロジー、マーケティング、モバイル、AI、最適化……

「釣りのプラットフォーム」とかそんな言葉が並ぶ起業だ。

 

しかし、この起業は、そういった話とは無縁だ。

立山さんの問題意識は別のところにある。

 

初心者に異様に厳しい「船釣り」の世界

一年半ほど前「釣りを始めた」という記事を書いたが、その中で「釣り船は客が怒られる世界だ」と述べたことがある。

30代後半からは、意図的に「教えてもらう側」に回り続けないと、学びがどんどん下手になる。

この話をすると、「釣りって、楽しいですか?」と聞かれることがある。

回答は無論、「楽しい」なのだが、実はそれと同じくらいの割合で「つらい」も配合されている。(中略)

釣り船の人とかに怒られる。「リール巻きすぎ!」とか「そこ邪魔!」とか。

40すぎのオッサンが思い切り怒鳴られる、というのは、会社でもなかなかないだろう。

 

書いたとおり、腹が立つのを通り越して、釣り船はとにかく不親切だ。

釣り方を教えてくれる船は希少で、ひどいときには持ち物すら全く教えてくれない。

 

初心者だった私は、釣りに行く地域の状況をYoutubeなどで調べ、仕掛けと釣り方を独力で学んで、なんとか当日をやりすごした。

一緒にやっている友人がいなかったら、くじけていたかも知れない。

 

立山さんの問題意識はそこにあった。

彼のnoteには、それが切々と書かれている。

親子が船釣りを楽しみたいとき、そこに立ちはだかる、例のハードルを無くしたい

先程の3人のうち2人は、これまで海での釣りの経験は、どうやら皆無。
それなのに、

■海に出たと思ったら、レンタルした釣具や、餌などの付け方もよくわからないままに、「じゃあ、釣ってみて」「底から10」とだけ、船長から指示される
(※底から10とは、海底に一度オモリを沈めて、それから10メートルほど巻き上げたところで釣ってね、という意味です)

■しばらく(20〜30分ほど)釣れないと、船長から今度は
「この時間帯でこの場所で一匹も釣れないと、今日は一匹も最後まで魚なんてつれね〜よ」とハッパをかけられる
(船長に悪気はないのですが、常連さんに向けたハッパが、結果的に初心者の方々への圧力に・・・)

■それでもなかなか釣れずに困惑していても、船長や船のスタッフからの声掛けやヘルプはなく、見かねた隣のお客さんが、アドバイスを始める・・・

こんなことをしていては「釣り船」の業界そのものが、立ち行かなくなることは目に見えている。

だから立山さんは、「それって違うよね」という問題意識を持って、業界の崩壊を止めるために起業した。

 

初心者に厳しいと、ゆくゆくは自分たちのクビを締めることになる

実はこのような構図は、釣りだけではなく、あらゆるところに見出すことができる。

 

例えばゴルフ。

ゴルフは20年で市場規模が半減、人口はピーク時の3分の2になるなど、悲劇的な状況だ。

20年で市場規模が半減!「ゴルフ」が消える日

ゴルフ人口はピーク時の3分の2以下に
──ゴルフ界は危機的な状況なのですか。

ゴルフ人口がピークの3分の2以下になり、ゴルフにかける単価にしても以前は1万円を超えていたのが、今や半分以下。ゴルフ場の数はそんなに変わっていないから、1ゴルフ場当たりの売り上げも減っている。安くしたパッケージのプレー料金がさらに安くなって、デフレスパイラルが特に地方で生じる。ゴルフ用品購入も中心が新品から中古品に移っている。ゴルフ業界全体がいわば日本経済の状態そのままを映している。

 

なんでゴルフは衰退したのか。

「若者にお金がないからやらない」という話もあるようだが、私は違う見方をしている。

ゴルフの衰退は、釣りと同じく「初心者に厳しい」からだ。

「ゴルフ 初心者 迷惑」で調べてみれば、すぐに分かる。上から目線のおっさんたちが、「練習してから来いよ」「初心者は迷惑だから来んなよ」というオーラを、無邪気に出しまくっている。

 

ゴルフの面白さは「ゴルフ場」にあるのに、「練習場で練習してから来い」とか、初心者に試させる気がまったくない。

高い金を払って、嫌味を言われて、急かされてプレーするなんて、誰だってやる気をなくす。

 

もちろん、他にもこの手の話はよくある。

例えばオンラインゲーム。雨宮さんは初心者にマウントする輩を「厄介な玄人」と書いている。

趣味の世界で嫌われる「厄介な玄人」にならないために

そうすると生じるのが、ゲームに対する情熱や腕前の差による摩擦だ。

「対策してこない雑魚は消えろ」

「やばいプレイヤーがいたから晒すわ」

というやり込み勢に対し、「ガチすぎてうざい」とドン引きするライト層。そんなのもう、いやというほど見てきた。

「うざい玄人」がたくさんいるゲームに、誰が初心者として入っていきたいと思うだろう。

少なくとも私は絶対にやりたくない。

 

「子育て」のハードルを無邪気に上げる

いや、趣味やゲームの世界なら「辞めます」で良い。

だが、最近では「子育て」もそう言えるかも知れない。

 

例えば以下の記事では、しんざきさんが「子供には絶対◯◯してはいけない」という記事に対して、「ハードル上げすぎるの辞めません?」と言っている。

極論の投げつけあいで育児のハードルを上げまくるのはそろそろやめにしませんか

端的に言ってしまえば、「絶対に怒りをぶつけてはいけない」という言葉はハードルのガン上げ過ぎます。人間は感情の生き物なのであって、感情を完全にコントロールできる人はそうそういません。たとえ普段「なるべく抑えよう」と努力していたって、時には感情が表に出てしまうことだってあるでしょう。

 

それに対して、「親が子どもに怒りをぶつけるなんてもっての他!」という言葉をぶつけていては、子育てという行為自体のハードルが上がって、「私には子育てなんて無理だ」って思う人も増えれば、「怒りをぶつけてしまった」と自分を責める人だって増えると思われませんか。

それ、結局誰も幸せになれてないと思うんですよ。育児なんてただでさえ疲弊する場面が多いのに、よりいっそう疲弊する要因を増やしてどうするのかな、と。

子育てのハードルをあげすぎた結果何が起きたのか。

少子化だ。

 

「そんな面倒なこと言われるんだったらやーめた」「そんな金かかるならやーめた」という人が増えたのは、ちっとも不思議ではない。

子育て論でマウント取れば取るほど、子供育てたい人減りますよ、という話だ。

 

子育てなんて、最初は誰もが初心者ですし、そう何度も経験することじゃない。

それに対して、温かい言葉と励ましではなく、「あーあ、初心者はこれだから……」と批判したら……誰も入ってこなくなる。

 

余談だが、会社でも「新人」は大事に扱う会社がほとんどだろう。

当たり前だが、新人が成長できない会社は、後継者が絶えていずれ滅ぶからだ。

だから、マネジメント上も、新人に教えなかったり、すぐにマウント取ろうとしたりする先輩などは、「組織を破壊している」とみなして、厳しい処置を取るべきだ。

 

「初心者に優しく」

立山さんのクラウドファンディングの立ち上げは、そういう「初心者お断り」へのアンチテーゼだろう。

彼のサービスは、「初心者や家族連れに優しい釣り」を標榜している。

 

微力ながら協力したいし、わたしにも子供がいる。娘に釣りを経験させてあげたい、とも思う。

わんぱっく壱岐(クラウドファンディング)

 

 

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(2024/1/22更新)

 

 

 

【著者プロフィール】

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元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者(http://tinect.jp)/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

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