最近「おとなになる」ことのハードルが随分と(勝手に)上げられているように感じる。

例えば

「社会性の獲得」

「世の中への適応」

「配慮ができる」

「責任を果たす」

「自らの弱さを認める」

と言った言葉で表されている。

 

しかしそうした「素晴らしいおとな」のイメージを知れば知るほど、「大人になること」が随分と難しく感じられた。

社会に適応することが、とてつもないハードルに見えるのだ。

 

だが私は最近になって、疑問を持つようになった。

「理想像」で語られる大人は、それはそれとして素晴らしいのだが、「大人」になることがそれほど難しいことであるはずがない。

そうでなければ、人類史上、ほとんどの人間は大人になったことがないとされてしまうだろう。

 

では大人とは何か。

社会に適応するのは、そんなにハードルが高いのだろうか。

 

本当のことを言わない人たち

「本当のことを言わない「おとな」がいる」と気づいたのは、小学生の時だ。

 

「ある先生から疎まれている」という事実を知人から聞いて知った。

授業がやりにくい、とかそんな話だったと記憶している。

 

ただ、その先生は大変「大人」だったので、私は少なくとも私は不公平を感じなかった。

だから、「疎まれている」という事実に、私は露ほども気づかなかった。

 

残念ながら、当時それを聞いた直後に私がどう感じたかは、もう覚えていない。

ただ、今までずっとその事実だけは記憶しているところを見ると、それは少なからずショックだったのだろう。

 

だがショックを受けたのは「疎まれている」という事実にではなかった。

 

実は、子供だった私は「おとな」が人を嫌うとは思っていなかったのだ。

 

明確な悪意は子供が抱くものであって、大人はそう言うこととは無縁だ、と勝手に考えていた。

でも、そうではなかった。

大人も人を嫌うのだと、その時気づいた。

 

 

そして、さらなる衝撃が、じつはそれから10年以上もあとにあった。

それはインターネット上の掲示板「2ちゃんねる」(現5ちゃんねる)だ。

 

そのころ「インターネット」はそれほど一般的なものではなかったが、知人からインターネットは就職活動で役に立つ、といわれたため、見るようになった。

webサイトを頻繁に見るようなれば、2ちゃんねるにたどり着くのは必然だった。

 

今ではSNSやブログで、「人の悪意」を見ることはすっかり普通になってしまっている。

だが、当時これほど「むき出しの悪意」を見ることができるのは、2ちゃんねるを始めとした、インターネット上の掲示板だけだった。

「氏ね」

「ソルジャー乙」

「Fランはゴミ」

「中小逝った時点で人生終わる」

など、とにかく面と向かって絶対に言わないようなことが、掲示板には次々と書き込まれていた。

 

これは結構な衝撃で、私の知人は、2ちゃんねるを「バカをバカにしていい場所ができた」と言っていた。

が、当時20歳そこそこで、世間知らずだった私には、「ダークサイド」を覗き込むような行為はうしろめたくも、「人の裏側を知る」良い機会だったのは事実だ。

 

ここでも私は「表の発言と、思っていることとは全く違うのだ」と認識したのだった。

 

なお、その気付きは、社会人になってたいへん役に立った。

特に「コンサルティング」という仕事の性質上、人の言葉鵜呑みにしてはならず、「あの人は、なぜこんな事を言ったのだろうか」を知ることが重要だったからだ。

 

 

そして私は一つの結論に至った。

大人とは結局、「本当のことをわざわざ言わない人」のことである。

 

大人には、その程度で十分なれる。

かんたんだ。

しかも、そのスキルがあれば、十分社会に適応できるし、当面困らない。

 

これを「人間関係のマサツを避けているだけの腰抜け」と評する人もいるかも知れない。

でも、それは多分違う。違うだけではなく、的外れだ。

 

それは「人間関係のマサツ」を避けて立ち回ることこそ、世渡りの本質だからだ。

 

感情を表に出したら、思ったことをそのまま口にしたら、大人同士は「戦争」になる。

実際、ソクラテスは「思ったことをそのまま言った」から、殺された。

そういう意味では、彼は「大人」ではなかった。

(参考:いくら正しくても、失礼だと敵視され、殺されてしまう。

「話せばわかる」という言葉は美しいが、残念ながら、人間同士は話してもわからないどころか、話したら殺し合いになることもあるのだ。

 

 

ちょっと前に、「普通の人でいいのに!」という漫画がタイムラインに流れてきた。

面白いのでぜひ読んでみていただきたいが、単純に言うと、現実には手に入らない「キラキラした世界」に憧れている女性が、自分の彼氏のレベルの低さを愚痴る、という話だ。

 

だが、愚痴られている男性像が以下の通り「普通」なので、自分に重ねてしまい「お前のレベルが低い」と言われている気分になってしまう人も多かったのだろう。

個人的には描写が細かくて、面白かったのだが、「辛くてみていられない」というコメントも相当数見えた。

 

要は「本当のこと」を、グサグサ突きつけられると、人間は発狂しちゃうのだ。

 

哲学者の中島義道も、リアルにこれを語ってくれている。

女性に多いのですが「私の至らないところ全部おっしゃってください。はっきり言われたほうが楽ですから」と言うので、「それでは」とはっきり言うと、そのときは従順な態度で感謝しているふうですが、じつは言った人に心の奥底で深い恨みを募らせていく。

いや、俺はそんなおめでたくはないよという顔で、抽象的になら「俺なんかみんな嫌っているだろうなあ」とうそぶく豪傑野郎でも、「じつは、その通りです」と細々具体例を挙げだすと、平然としてはいられなくなる。

彼を嫌っている人をその具体的理由まで含めて挙げてゆくうちに、一〇人を超すあたりから、顔は引きつりだし、唇は歪みだし、ついには「やめろ!」と怒鳴りだすのです。

自分に対する他人の「嫌い」という感情はこれほど自然に耐えがたく、この点に関してはどんなに理性的な人でも個人のあいだの平等という基本理念を忘れてしまう。つまり、自分は他人を盛んに嫌っているのにかかわらず、他人から嫌われることは絶対に許せないという不平等な姿勢に凝り固まってしまうのです。

(出典:ひとを〈嫌う〉ということ 中島義道)

 

イソップ童話で、「すっぱい葡萄」という話がある。

お腹を空かせた狐は、たわわに実ったおいしそうな葡萄を見つけた。食べようとして懸命に跳び上がるが、実はどれも葡萄の木の高い所にあって届かない。

何度跳んでも届くことは無く、狐は、怒りと悔しさから「どうせこんな葡萄は酸っぱくてまずいだろう。誰が食べてやるものか」と負け惜しみの言葉を吐き捨てるように残して去っていった。(Wikipedia)

この狐に、「いや、甘いよこの葡萄。糖度◯%だよ」と言ったら、狐は間違いなく怒り狂うだろう。

 

これこそが、真に不都合な真実、すなわち

「都合の悪い話は聞きたくない」という、ほぼすべての人間に共通する性向なのだ。

 

逆に言えば、「本当のことをわざわざ言わない人」は、それだけで圧倒的に受け入れてもらいやすい。

 

以前、こんな記事を書いた。

人は自分の信念に反する事実を突きつけられると、過ちを認めるよりも、事実の解釈を変えてしまう。

まとめると、以下のようなことが言える。

1.人は、基本的に間違いを認めない。事実の解釈を変えるほうが得意である。

2.間違いを指摘すると「私は嫌われている」「この人は失礼だ」と解釈されてしまう可能性もある。

事実の解釈を曲げてしまうほど、人間は「都合の悪い話は聞きたくない」と願うものなのだ。

 

単なる「言い方」の問題ではない

このように言うと、「単なる言い方の問題でしょ」と軽く言う人がいるが、とんでもない勘違いである。

もっと大人になったほうがいい。

 

これは言い方の問題ではない。

「知らない権利」の問題である。

 

真実は残酷だ。

殆どの人間は大した能力を持たないし、誰もが羨む成功とも程遠い。

唯一できることは「自分の主観的な世界」を整えて、どうにか折り合いを付けていくことだけだ。

 

だから人を傷つけない「大人」は多くの人にとって望まれる。

真実かどうかよりも、「主観的な世界」を心地よくしてくる人のほうが、社会的に歓迎される。

 

「知りたくもないこと」を本人に突きつけて「現実を見せる」などというのは、単なる下品な悪趣味であり、エゴである。

(出典:幽遊白書 16巻)

 

そんなことをしないのが「大人」。

わたしは、そう認識している。

 

 

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(2020/8/28更新)

 

 

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