当事者経験の有無で一変する世界

とても興味深いツィートをみかけた。

要約すると、それまで家事分担が上手くできてなかった夫婦が、役回りをいったん交換してみたところ、家事が上手に回るようになったという話である。

 

やってみて初めて見えてくる世界というのは実際ある。

当事者を経験する事で細い所に気がつくようになり、指示の受け取り方や気の利かせ方はかなり変わる。

 

この手の事で自分にも苦い経験がある。

学生時代にゼミの飲み会の幹事をやっときの話だ。

 

最初に

「打ち上げをやりたいので、○月後半の空いてる日を記載して返信して下さい」

というメールを10名程度に送ったのだが、ビックリするぐらいメールが返ってこなくて本当に驚いた。

 

「いやいやいや、予定決まらないと店の予約できないじゃん。お前ら気を利かせて、さっさと返事せえや」

結局一週間程度待ったのだが、返信率は2割程度だったように思う。

 

仕方がないので、次のメールはこう書いた。

「○月○日の何時までに、このメールに返事を返して下さい」

締切が設定されると人は動く。これで返信率は7割ぐらいにはなった。

残りの3割は締め切り直前に催促の連絡を入れて、ようやく返信率を100%にした。

 

「10人のスケジュールを取りまとめるだけでこんなに苦労するのか…もう二度と幹事なんてやらないぞ…」

そう強く誓った事を今でもよく覚えている。

その後、僕が飲み会の出席可能日の返信を即座にするようになったのは言うまでもないが、もしこの経験が無かったら僕の返事速度はこんなに早くはならなかったはずだ。

 

当事者経験の有無で人は見える世界が一変する。

やってみると人は変わるのだ。

 

「名前のない家事」は「名前のない仕事」と同様に、本来、あってはならない。

家事の話に戻ろう。

家事分担の話はインターネットで頻繁に炎上する話題だが、その中でもとりわけ自分が面白く感じたのが「名前のない家事」という概念である。

 

この単語は非常に奇妙である。

例えば、単語を少し変えて「名前のない仕事」なんてものがこの世にあるかと言われると、少なくとも僕は聞いたことがない。

 

いわゆる雑務やどこにも振り分けにくいタイプの仕事のようなものなら確かに会社にもある。

が、それならば周りに情報を共有し、見える化を図った上で、各自の不平不満を低減してゆけばよい。

 

例えば、来客対応のお茶くみが「名前のない仕事」になっており、当人が不満に思うのならば、責任者に

①月替り等での交代制を提案する。

②缶ジュースを用意し、お茶くみのタスクを無くす。

③そもそも来客者にお茶など出さない。

等の代案を提出すべきだ。

責任者はその意見をコストと生産性で見極めた上でキッチリ検討し、不満を抱く人を納得させなくてはいけない。

 

これも昭和の時代なら頭ごなしに「黙ってやれ」で一蹴されてたかもしれない。

が、マトモな企業でいまそんな対応をしているところは一つもないだろう。

もちろん家事というのはそれなりに複雑なものなので、お茶くみのように簡単に一般化し問題解消を図るのは難しいかもしれない。

 

ただ、それならなおのこと、可視化し情報共有し、名前をどんどんつけていくべきである。

「名前のない家事」だなんて、それこそヌエやらネッシーのような実在不確かな現象だろう。

 

そんな分割不可能なものが仮に存在するのなら、いくらでも家事は無限に増殖してしまう。

そんな事があるはずがない。

 

「名前のない家事」という言葉は、単なる不満の表明ツール。

ではなぜこんな概念があるのか?

僕が思うに“名前のない家事”というものの本質は不平不満の発射口だ。

 

冒頭のツイートにもあるが、限界にきている人にとって、家事は「無限に続くタスクの連続」に見える。

そして、色々抱えたイライラを

「私はお前が思ってる以上に働いているんだ」

という合理性のラップに乗せて爆発させる起爆点として、この概念は極めて便利にワークする。

 

例えば、妻の不満溜め込み能力は本当に凄い。

なにかをキッカケにして一度堰が切れると、いったいどこにそんな恨み辛みが詰まってたんだというほどに呪いの言葉が次から次へと口から出てくる。

 

嵐のように突然やってくるこの現象を前に、僕はこう思う。

「そんなに不満を溜め込まないで、不満に思ったときにでも言ってくれればよかったのに」

 

しかしどうもこれが妻には恥ずかしい行為のようで、言えないのだという。

まあ妻はそういう生き物なのだろう。仕方がない。

 

結果、そうした不満が雪だるまのように積み重なり、そしていつしか決壊する。

その表現として「名前のない家事」というのは極めて便利な概念となっており、ちょっと手放せない便利な道具と化しているんじゃないだろうか?

だからいつまでたっても”名前”が”つかない”のである。

 

それならば、その利権が存在しなくていいようなインセンティブを設ければ解消する可能性がある。

 

マッキンゼーの採用基準はリーダーシップ

僕はその鍵は家事への意識改革とタスクの徹底した見える化・共有化にあると思う。

その意識改革の切り口として、マッキンゼーのリーダーシップという概念が非常に勉強になる。

 

思うに、家事というのは冒頭で書いた僕がやった飲み会の幹事的な扱いをされがちのように思う。

誰かがやらなければいけない。が、できればそんな面倒事は引き受けたくない。

 

なら解決策は一つしか無い。

 

全員で主体性をもって取り組めばいいのである。

どうやって?そのヒントとなる事が採用基準という本に書かれている。

 

この本は伊賀泰代さんというマッキンゼーの採用担当を長年されていた方が書かれたものだ。

伊賀さんはマッキンゼーが採用で最も重視する基準としてリーダーシップをあげている。

マッキンゼーというといかにも地頭や論理的思考力が高い人を好みそうに思うが、リーダーシップはそれ以上に肝心だという。

 

ここで登場するリーダーシップという概念は当事者意識+主体性みたいなもので、実際読んでみて今の社会が一番必要としている感性だと自分は感じた。

どういうものかを以下に書いていこう。

 

「家事」は残らず可視化して、全員がリーダーシップをとればいい

日本ではリーダーというと1人、自分の主張を押し通そうとする強引な人、という印象が強いが、これは間違った発想だと伊賀さんは語る。

 

本当のリーダーとはチームが業績を達成するために必要な事を率先してやる人で、我よりも成果を優先する人だという。

そういう集団の利益を最優先する本当のリーダーシップを持つ人達が集まった時、チームは劇的な生産性を発揮できるというのである。

 

言われてみれば、確かにリーダーと指示待ち属のような集団は極めて効率が悪い。

 

わざわざ言われないと動かないような人たちの集団を率いるのは物凄く疲れる。

が、何もいわずとも目的の為に働いてくれる集団を統率できたら最高だ。

 

例えば飲み会の幹事を例にあげれば、冒頭に書いた僕の事例はまさしくリーダーと指示待ち属のような集団だったといえよう。

 

それに対して、全員がリーダーシップを持つ集団だったったなら、幹事が集計に困ってたら参加者の1人がGoogle カレンダーのようなものを幹事にパッと渡して

「ここに入力するようにすれば、ラクに集計できますよ」

と提案したかもしれない。

こうすればタスクが視覚化されて皆に共有されるようになり、回答を書いてない人に対して幹事以外の人でもせっつけるようになって幹事の苦労は激減する。

 

それだけでなくスケジュールの決定も迅速に行われるようになり、チームとしての意思決定速度は爆発的に上がる。

全員が目標を共有し、主体的になって取り組めるようになれば生産性も上がるし、損な役回りも減っていくのである。

 

だから家事も上司と部下のような関係ではなく、チームを組むような形で取り組み、タスクを限りなく視覚化して共有すれば相当に意識改革が起きるはずだ。

家事が”見えない”なんて言ってる時点で、風通しが相当に悪い組織だと自分で言ってるようなものである。

 

そして、やった家事に対してはお互いにキチンと報告し、それを感謝する機会も設定する。

こうしてお気持ちに共感する時間をキッチリ作るよう努めれば、家事に対する不平不満の声はかなり鳴りをひそめるんじゃないだろうか?

 

妻と、家事の話を毎日しよう

僕はお互いが今日やった家事の話をする機会を一日5分でもいいから毎日設けるべきなのだと思う。

毎日毎日、家事に関しての意見交換を行い、効率化や常識のすり合わせを行いつつ、やってくれた事に対してありがとうという感謝も述べる。

 

こうすれば妻は家事関連の不平不満の溜め込みがだいぶ減るだろうし、旦那は旦那で見えてないところで意外と妻が苦労している事を知る機会を得るチャンスになり、感謝の言葉が述べやすくなる。

 

なんでもそうなのだが、可視化されればカイゼンや手助けもやりやすくなるし、感謝の言葉も述べやすい。

けど、何も言わずにお互い黙ってやってると、状況はいつまでたっても変わらないままだ。

 

名も無き家事……

昭和の時代ならまだしも、こんなバケモノを令和の今の世の中まで存在させてはならない。

万全を期し、知恵やテクノロジー、リーダーシップをもって絶滅させるべきである。

 

余裕があるときだからこそ、話し合う

そしてこれは余裕がある時こそ行うべきなのだ。

 

欠乏の行動経済学という本の中に

景気後退の原因は好景気にわいているときの人々の行動にあり、締め切り時の土壇場ラッシュはその前、数週間の余裕があった時の怠慢のせいで起きる。

欠乏は多くの重大な問題で主役を演じているが、その舞台をととのえたのは豊かさにある。

というような記述があるのだが、考えてみればこれは家事においても全くそのとおりである。

問題が発覚するのは困った時だというのは仕方がないにしても、困ってない時に対策や改善のようなものを全くやらなくていいだなんて事があるはずがない。

 

もし、いま何も困っていないのだとしても、余裕があるいまだからこそ徹底して対策を講じるべきだ。

家族の中に加害者も被害者もない。

誰だってニコニコ幸せにやっていきたいはずである。

 

その為の傾向と対策は、余裕ある今こそ練っていくべき時なのだ。

 

 

【お知らせ】
人手不足 × 業務の属人化 × 非効率──生成AIとDXでどう解決する?
今回は、バックオフィスDXのプロ「TOKIUM」と、生成AIの実務活用支援に特化した「ワークワンダース」が共催。
“現場で本当に使える”AI活用と業務改革の要点を、実例ベースで徹底解説します。
営業・マーケ・経理まで、幅広い領域に役立つ60分。ぜひご参加ください!



お申し込みはこちら


こんな方におすすめ
・人材不足や業務効率に悩んでいる経営層・事業責任者
・生成AIやDXに関心はあるが、導入の進め方が分からない方
・属人化から脱却し、再現性のある業務構造を作りたい方

<2025年5月16日実施予定>

人手不足は怖くない。AIもDXも、生産性向上のカギは「ワークフローの整理」にあり

現場のAI・DX導入がうまくいかないのは、ワークフローの“ほつれ”が原因かもしれません。成功のカギを事例とともに解説します。

【内容】
◯ 株式会社TOKIUMより(登壇者:取締役 松原亮 氏)
・AI活用が進まないバックオフィスの実態
・AIだけでは解決できない業務とは?
・AI活用の成否を分ける業務構造の見直し
・“人に任せる”から“AI×エージェントに任せる”時代へ
・生産性向上を実現した事例紹介

◯ ワークワンダース株式会社より(登壇者:代表取締役CEO 安達裕哉 氏)
・生成AI活用の実態
・「いま」AIの利用に対してどう向き合うか
・生成AIに可能な業務の種類と自動化の可能性
・導入における選択肢と、導入後のワークフロー像

登壇者紹介:

松原 亮 氏(株式会社TOKIUM 取締役)
東京大学経済学部卒業後、ドイツ証券に入社し投資銀行業務に従事。
2020年に株式会社TOKIUMに参画し、当時新規事業だった請求書受領クラウド「TOKIUMインボイス」の立ち上げを担当。
2021年にはビジネス本部長、2022年より取締役に就任し、経費精算・請求書処理といったバックオフィスDX領域を牽引。
業務効率化・ペーパーレス化の分野で多くの企業の課題解決に携わってきた実績を持つ。

安達 裕哉 氏(ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO)
Deloitteで大手企業向けの業務改善コンサルティングに従事した後、監査法人トーマツにて中小企業向け支援部門を立ち上げ、
大阪・東京両支社で支社長を歴任。2013年にティネクト株式会社を設立し、ビジネスメディア「Books&Apps」を運営。
2023年には生成AIに特化した新会社「ワークワンダース株式会社」を設立。生成AI導入支援・生成AI活用研修・AIメディア制作などを展開。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計71万部を突破し、2023年・2024年と2年連続でビジネス書年間1位(トーハン/日販調べ)を記録。


日時:
2025/5/16(金) 15:00-16:00

参加費:無料  定員:50名
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。


お申込み・詳細
こちらウェビナーお申込みページをご覧ください

(2025/5/8更新)

 

 

 

【プロフィール】

名称未設定1

高須賀

都内で勤務医としてまったり生活中。

趣味はおいしいレストラン開拓とワインと読書です。

twitter:takasuka_toki ブログ→ 珈琲をゴクゴク呑むように

noteで食事に関するコラム執筆と人生相談もやってます

Photo by CDC on Unsplash