「子どもに『手抜き料理』って言われてめっちゃムカついた。
朝一で下ごしらえして、仕事から急いで帰ってきて、お風呂も入らず一生懸命作ったのにさ。それを説明したら『ごめん』って謝ってくれたけど、失礼な話だよね」
子どもがいないわたしは、「うんうん」とうなずきながら友人の愚痴を聞いていた。
いやー仕事しながら子育てって絶対大変だもんね。すごいことだよ。
でもそれと同時に、「そもそも手抜き料理のなにが悪いんだろう?」とも思った。
毎日菓子パンだけとなれば問題だけど、ちゃんとした食事なら別に手を抜いててもよくない?
というわけで、
「子どもに『苦労したんだよ』って言うよりも、『時間をかけなくてもおいしいものを作れるんだよ。浮いた時間で一緒に本読もう』とかって言ったほうがよかったんじゃない?」
と伝えた。
「『手抜きじゃないよ』って手抜き料理を否定したら、本当に手を抜いたとき『手抜きでごめん』って言わなきゃいけなくなるから、しんどくない?」と。
それに対する答えは、
「たしかにそうなんだけど……。でも手抜きって思われたくないじゃん。『自分のお母さんはちゃんと料理をしてくれない』って傷つくだろうし」。
それを聞いて、苦労賛美の根は深いなぁ……と思わず遠い目をしてしまった。
効率化に抵抗感をもつ人を、わたしたちはどうやって説得できるんだろう?
※ちなみに友人はめちゃくちゃ料理がうまいです。
苦労や手間は、「いいもののはず」という信頼につながる
この一件のあと、しんざきさんのこんなツイートを拝見した。
エンジニアをしていると「面倒くさいやり方は大抵間違っているか、あるいはそのやり方を必要としている前提の仕組みの方がおかしい」という思考は割と普通だと思うんだけど、どうも世間的には「面倒くさければ面倒くさい程正しい、ないし価値がある」と思っている人の方が多いような気がする
— しんざき (@shinzaki) 2020年12月18日
「面倒くさいほど価値がある」という考えは、たしかに根強い。
たとえば、「苦節30年! やっと完成した秘伝のソースカツ」と「5分でつくった簡単ソースカツ」のどっちをレストランで食べたいかと聞かれれば、やっぱり30年のソースカツを選ぶ。
時間がかかってるってことは、それだけ試行錯誤を繰り返して時間をかけたってことだから、きっとおいしいはずだもん。
……というように、苦労というのは、「そこまでしたのだからいいもののはず」という信頼につながり、そのものの価値を底上げする効果をもつのだ。
ソフトを使ってチェックをすれば一発でわかるバグも、「開発が10人が1週間かけてチェックしました!」のほうが説得力がある。
彼氏が深夜、自転車に乗って1時間かけて会いに来てくれたら、タクシーですぐ会いに来てくれるより愛を感じる。
血液検査の結果を書面で伝えるお医者さんより、図を描いたり模型で説明したりしてくれる先生のほうが大丈夫な気がする。
手間がかかってると、「それだけやってくれたなら……」という安心につながるのだ。
甲子園でもM-1グランプリでも箱根駅伝でも、紹介VTRは基本苦労話。
そっちのほうが、「きっといいパフォーマンスをしてくれるはず」って思えるから。
「苦労したこと自体に価値がある」という主張には、苦労は「信頼度や期待値、感動などの上乗せ要素」という前提があるのだ。
苦労を避ける=価値を下げることだから受け入れられない
こう考えると、効率化反対派の人の意見も、ちょっとはわかる気がする。
効率化賛成の人は、「余計な手間=マイナス」だと思ってる。
だから、「マイナスをなくそうとすることのなにが悪いの?」と首を傾げる。
でも効率化反対の人は、「手間=プラス」だと考えている。
「苦労」を上乗せすることで価値を底上げしていたのだから、「苦労」がなくなったらそのぶん価値が下がる。だからイヤ。
たとえば、一時話題となった「キャラ弁ブームで疲弊する母親」なんていうのも同じ。
「キャラ弁にしたところで味は変わらない。お弁当をつくってもらえるだけありがたい」派のわたしからすれば、消耗してまでつくるキャラ弁は「不要な苦労」。
でも「お弁当づくりに手間をかけることが愛情」派の人からすれば、手間をかけない=愛情の減少に映るから、キャラ弁は「必要な苦労」。
FAXで送っていた手書きの書類を、PDF化してクラウドサービスで共有することに反対する人も、たぶん同じ。
本来なら、仕事の目的は「相手に情報を伝える」こと。
でも「番号を入力して手書き書類をFAXで送って情報を相手に伝える」ことを「仕事」として認識していると、FAXの手間を省くことで「仕事をしている感」が減ってしまう。
だから、「それは困るよ、サボってるように見えるし、相手に失礼になるじゃないか」となるわけだ。
苦労を受け入れることが信頼や愛情、やる気の証明だと思っている人に対して「それは不要な苦労です」と言ったところで、「いいえ必要な苦労です」と反論されるだけ。
そういう人たちにとって苦労を避けることは「価値を下げる行為」だから、受け入れられるわけがないのだ。
「効率化するためにいかに苦労したかアピール作戦」が一番平和かも
では、そういう人たちに効率化を受け入れてもらうためにはどうすればいいのか?
ここで、冒頭の「手抜き料理」の話に戻りたい。
友人のお子さんは、料理は「手間をかけたことで価値が底上げされる」と認識している。
だから、「苦労せずにつくった料理は手が込んだ料理よりグレードが低い」と顔をしかめた。
それに対する友人の反論は、「手抜き料理ではあるけどつくるのは大変だったんだよ」。
わたしの反論は、「手を抜いたぶんの時間で一緒に過ごせるから手抜きでいいじゃん」。
これはきっと、どっちの方法も正解なのだ。
友人の手法は、「効率化するためにいかに苦労したかをアピールする作戦」。
相手が抱いている「苦労を省くことで失われるものに対する抵抗感」を、「いいや効率化のためにちゃんと苦労してるから安心して! 価値は下がってないよ!」と解消してあげるやり方だ。
「苦労をしないために効率化した苦労をアピールする」というのはなんとも地獄みがあるが、実際のところ、効率化の苦労話はかなりウケがいい。
「手間暇を惜しむ=怠惰」というイメージがつきまとうが、そこに苦労話を付け加えることで、「ムダを省くために苦労したんだよ! 全然怠けてないよ! がんばった末の進歩なの!」と伝えることができるからだ。
「価値は下がってないよ」と相手を安心させられる点で、効率化反対の人に一番納得してもらいやすい方法かもしれない。
まぁその……苦労賛美には変わらないんだけどね。
長期戦を視野に入れるなら、「効率化で新たな価値を提供する作戦」
で、もうひとつの方法が、わたしの「効率化することによって新たな価値を提供することができると伝える作戦」だ。
コストや時間に余裕が生まれることで、ちがう部分で得をするとアピールする。
「全体でプラスになるから効率化はいいことなんですよ」と言うのだ。
これは「苦労することは価値がある」という相手の考えを否定するわけだから、相応のメリットを提示して、相手を説得させなきゃいけない。
友人の話でいえば、「手抜き料理のがっかり感」を帳消しにするだけの付加価値を提示する必要がある。
たとえば、「浮いた時間で一緒に本を読める」「お母さんが休めてうれしい」「ゆっくりする時間が増えたからおしゃべりしよう」などなど……。
「料理で手を抜いても愛情が減ったわけではないし、むしろ手抜き料理のおかげでこんなにいいことがあるんだよ!」と相手を納得させなきゃいけないわけだ。
これはなかなか大変だけど、メリットもある。
相手を納得させることができれば、同じ方法で、今後も不要な苦労を避けることができることだ。
「手抜き料理でもおいしかったでしょ? 早くご飯の準備が終わったおかげで、夜はゆっくりおしゃべりできたね。
あの野菜炒めは10分でできるから、今度一緒につくってみよう。
時間をかけなくても、○○ちゃんがつくってくれた料理ってだけでパパもママもうれしいよ」
そう伝えることで、子どものなかの「手抜き料理」のイメージがマイナスからプラスになればしめたもの。
今後も「明日はかんたんなご飯にするけど、夜はゆっくりできるから遠足のお土産話たくさん聞かせてね」と言える。
効率化苦労のアピールをするよりこっちのほうが難易度は高いけど、長期的に考えたら、「苦労しないほうがメリットが大きい」戦法のほうがいい気がする。
うまくいくなら、だけど。
言葉を選んで角が立たない手抜きをしていきたい
手抜きを許さない人や効率化に抵抗感がある人には、それなりの理由がある。
「考え方が古い!」と言ったところで、相手の気を害して衝突するだけ。
それなら、その人にとって大事な価値観(たとえば「おいしい料理をつくることが愛情」)を真っ向から否定せず、円満に手抜きを推奨していきたい。
そのときは、「効率化するためにいかに苦労したかをアピールする作戦」か、「効率化することによって新たな価値を提供することができると伝える作戦」がいいんじゃないかなーと思う。
たしかに苦労することで付加価値を与えることはできるけど、しなくて済むなら苦労なんてしないほうがいいはずだから。
というわけで、避けられる苦労は平和に避けていきましょうって話。
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第6回目のお知らせ。

<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>
第6回 地方創生×事業再生
再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは【ご視聴方法】
ティネクト本音オンラインラジオ会員登録ページよりご登録ください。ご登録後に視聴リンクをお送りいたします。
当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。
【今回のトーク概要】
- 0. オープニング(5分)
自己紹介とテーマ提示:「地方創生 × 事業再生」=「実行できる経営企画」 - 1. 事業再生の現場から(20分)
保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例 - 2. 地方創生と事業再生(10分)
再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む - 3. 一般論としての「経営企画」とは(5分)
経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説 - 4. 中小企業における経営企画の翻訳(10分)
「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論 - 5. 経営企画の三原則(5分)
数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する - 6. まとめ(5分)
経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”
【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。
【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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(2025/7/14更新)
【著者プロフィール】
名前:雨宮紫苑
91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&
ハロプロとアニメが好きだけど、
著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)
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