「9マイルは遠すぎる」という短編推理小説がある。著者はハリイ・ケメルマン。アメリカ人だ。
”現代アメリカの本格推理小説家。マサチューセッツ州のボストンに生まれ、ボストン大学を卒業後は高校教諭や大学の助教授など、主に教師として働いていましたが、その傍ら執筆活動にも勤しみ、1947年に短編「九マイルは遠すぎる」を〈エラリー・クイーンズ・ミステリマガジン(EQMM)〉の短編コンテストに応募して見事に入選を果たします。”(Aga-search)
この本が面白いのは、探偵は一切動かず、聞き込みもせず、現場検証もせず、
「9マイルもの道を歩くのは容易じゃない。まして雨の中となるとなおさらだ」
という一言のみから、純粋な論理のみによって犯罪を推定するストーリーにある。
探偵というと、シャーロック・ホームズのように現場の僅かな証拠を探し、犯人を追跡する探偵を想像する方が多いと思うが、彼の描く探偵は文字通り、「椅子に座って、動かない」のである。
探偵のニッキィ・ウェルトは友人にこう言う。
「例えば、10語ないし12語からなる1つの文章を作ってみたまえ。そうしたら、きみがその文章を考えた時にはまったく思いもかけなかった一連の論理的な推論を引き出してお目にかけよう」
友人はそこで、偶然心に浮かんだ、「9マイルもの道を歩くのは容易じゃない。まして雨の中となるとなおさらだ」という一言を述べる。
ニッキィ・ウェルトはこれに対して、ひとつひとつ丁寧に推論していく。
1.「話し手はうんざりしている」
⇒ 文章に現れているので当然。
2.「彼は雨がふることを想定していなかった」
⇒ 「ましてや」と言う言葉を付け足している
3.「話し手はスポーツマンや戸外活動家ではない」
⇒ それらの人にとっては9マイルはそれほど長い距離ではない。
4.「話し手が歩いたのは夜中か早朝、12時から朝の5時から6時までの間」
⇒ 列車やバスがない時間である。
5.「話し手は町から外に出たのではなく、外から町へ歩いた」
⇒ 町から外にでるのであれば、夜中とはいえ、何かしらの交通手段を調達できたはずである
6.「9マイルというのは、正確な数字である」
⇒ 9マイル歩いた、とは普通言わない。大体10マイルとか、15マイルくらい、とか切りの良い数字で言うはずだ。わざわざ9マイル、と言っているのは正確な数字だろう。
7.「彼はあるはっきりとした目的地に向かっていた。かつ、一定時間までにそこに到着しなければならなかった」
⇒ 雨の中を9マイルも歩くのは4時間くらいかかる。朝まで待てなかった事情がある。5時30分までにどうしても町に行かなければいけなかったのだ。
8.「約束の時間は、朝4時30分から5時30分の間だった」
⇒ それより早くても遅くても、最終バスや始発バスで行くことが出来た
この一連の推論から、ニッキィ・ウェルトは地図を確認し、「この周辺で、9マイル離れたところから歩く時に途中に何もない町は、ハドリーという町しかない。」と結論付ける。
「9マイルもの道を歩くのは容易じゃない。まして雨の中となるとなおさらだ」
というたったの一言から、ここまで情報を引き出せるというのは大変面白い。
そして、最後にニッキィ・ウェルトは友人に、「その言葉をどこから思いついたのか?」と聞く。偶然思いついたにしては、文章としては特定の状況を示しすぎている、と。
そして、その友人が「その言葉を聞いたのは…」と思い出すことで、ある事件が解決する、というストーリーだ。
他にも同様の短編が収められており、論理的推論の遊びが好きな方は、おすすめの一冊である。
(2025/1/8更新)
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コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年は生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
【ゲスト】
野村圭司氏
一般社団法人インディペンデントプロデューサーズ・ギルド 理事
企業向けの人材開発コンサルティングに従事する傍ら、「可視化の参謀~ファシリテーション・コンサルタント~」として中小企業経営者やキャリア転機にあるミドル世代の想い・悩み・思考・アイデアの整理・言語化・可視化・構造化を通して前進にむけて支援を行っている。
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