世の中には「締め切りを守れない人」が、そこそこいる。
コンサルタントをやっていた時はそれを特に強く感じた。
例えば、昔の職場では、プロジェクトのキックオフの時、現状の調査をするため、「調査票」を書いてもらう宿題を出していた。
記入に難しいことはそれほどない。
現状仕事で使っている書類の一覧を出してもらったり、業務フローを書いてもらったり、どのような記録があるのかを調べてもらったりするだけの、シートだ。
標準の納期は2週間なのだが、依頼をするときに、必ず書いてもらう本人に確認をする。
「2週間で大丈夫ですか?」と。
ボリュームとしては2日程度で終わる分量なので、ほぼすべての人が「2週間もあれば大丈夫です」と答える。
私は「では、お願いします」という。
3タイプの人々
調査票の提出は、事務局が取りまとめてくれる時もあったが、たいていのケースでは「できた人から、五月雨式でよいので送ってください」と伝えていた。
そして彼らの提出を待つのだが、大別して3タイプある。
1.3~4日以内に送ってくる人
完璧なものを送ってくる人もいるが、抜け漏れがある状態で送ってくる方もいる。
ただ、だいたい、「この部分の書き方がちょっと不明だったので、注釈を入れています」と、質問付きで送られてくる。
私は、メールまたは電話で修正の指示を出して、再提出をしてもらうが、指示を出せば翌日に修正されたものがすぐに送られてくる。
締め切りにはかなりの割合で、完ぺきなものができている。
彼らは基本的に、前倒して仕事を進める人々だ。
感覚として、全体の3割程度。
2.期限当日~前日に送ってくる人
期限ギリギリに送ってくる人々。
期限いっぱいまで使っているのだから、完成度は高いのか……というと、そうでもない。
実は、彼らの成果品も実は、完ぺきとは程遠い。
なぜなら、彼らは途中で質問をしないからだ。
基本的に彼らは受け身で、締め切りの2日前くらいから取り掛かる。
だから「やっつけ仕事」であるケースも散見される。
仕事の完成度を追及するタイプではなく、
「とりあえず空欄は埋めておいて、なんか言われたら直そう」
という思想の持主で、全体の6割の人がこれにあたる。
3.締め切りを守れない人
そして、締め切りを守れず、期限に遅れる人だ。
彼らはこちらから催促しないと、宿題を提出しない。
私が在籍していた会社は締め切りに非常に厳しく、「締め切りを守れない人」はすぐに干されたし、期限を過ぎた経費の申請も認められなかった。
だから、締め切りを守れない人がいるということを最初、信じられなかったのだが、とにかく、そういう人が世間にはいた。
大体、全体の1割くらいだろうか。
催促をすると、「あー、どうやって書くんでしたっけ?」と、今さら質問される。
どうやら最初の説明を聞いていなかったらしい。
もちろん、彼らはお客さんなので、またやり方を個別に、丁寧に説明する。
説明を分かってくれる人もいるが、その時に「そんなデータありませんよ!」とか話を蒸し返す人もいる。
実際にはそういうデータがあることは、依頼の時に確認をしているので、その時点で「ない」と言うのはおかしいのだが、何とかして責任を回避したいのだろう。
勘弁してくれ、と思いながら、他の人が記入したものを見せると、やっと取り掛かる。
「では、あと3日でお願いします」と言って、待っているのだが、残念ながら、3日過ぎても送ってこない。
また催促をする。
すると、「ここの書き方が分からなかったので」と、また質問が来る。
結局、宿題を仕上げるまでに期限を1週間以上過ぎており、ようやく提出されたものの品質も低い。
がっかりである。
「締め切りを守れない」は、基本的に治らない
実は、調査票の提出を「五月雨式でよい」と言ったのは、メンバーが1.の人なのか、2.なのか。それとも3.なのかを知るためのテストでもある。
1.の人は文句なしに一緒に仕事したい人々だ。
2.の人は、こちらががっちり管理すれば、なんとか戦力になる。
特に、怪しいと思ったら、こまめに様子を聞いて積極的に介入すれば、特に問題はない。
問題は3.だ。
残念ながら、彼らははあてにならない。
「あてにならない」と言うことは、仕事を任せることができず、管理の手間ばかり増えるので、むしろいないほうがマシなのだ。
そして、このような「納期遅れ」が繰り返された場合、プロジェクトリーダーと、その上の社長・役員に話をした。
「その人の参加は必須なのか」と。
そして、場合によってはチームから外してもらうように依頼をしていた。
私は最初、こうした仕打ちを「冷たいかも」と思うこともあった。
一度プロジェクトに入れた人が外されてしまえば、社内に「あいつは外された」という噂が立つだろうからだ。
だから、一生懸命彼らに介入して、「締め切りを守れない」を治そうとしたことがあった。
しかし、ほぼすべての試みが無駄だった。
「社長・役員に伝える」が無駄だったのはもちろん、
「タスク管理をする」 ⇒ 「タスク管理は嫌い」だと言って、タスクが更新されなくなる
「2日おきにこちらから確認する」 ⇒ 「あ、忘れてました」が連発される
「横で一緒にやりましょうか?」 ⇒ 「時間がないんで」と言われる
要するに、「締め切りを守れない」は、基本的に治らない。
そして、彼らもまた、それを治すことをあまり望まない。
治らない以上、プロジェクトから外す、あるいは仕事を与えない、という話だったのだ。
「締め切りを守れない人」をうまく使うには
そして、私は理解した。
こういう人たちは
「作業見積り」
「アイデア出し」
「各所への依頼・交渉」
といった、非定型業務を苦手とする人々であり、そもそも「締め切り」のある仕事を任せるべきではない。
では、どんな仕事を任せるべきか。
うまくいかないケースもあるが、多くの場合、「定型業務」、つまりルーチンワークかつ「都度の指示」で進める仕事を与えたほうが良い。
時間単位で仕事をやり、マニュアル化でき、とにかく作業を「こなす」ことが重要である仕事は、彼らの適性が発揮される領域である。
「どんな記録があるのか調べて」ではなく、「今日はこのキャビネットの中に、何種類の記録があるかを調べて、このシートに記入して」と言えば、彼らはそれをやることができる。
「書類をチェックして」ではなく、「この条件にあてはまる書類を、このフォルダの中から探して」と指示しなければならない。
もちろん、誤解の無いように言っておくが、これは能力が高いか低いか、と言う話ではなく、作業の適性の話である。
逆にプロジェクトのリーダーを張れるような人であっても、定型業務は満足にできない、と言う人もたくさんいる。
こうした適性を無視して仕事を与えるから、職場で干されるなどの不幸な人が出てしまうのだ。
*
このように、「締め切りを守るかどうか」は、仕事の適性について、思っているよりも多くの情報を与えてくれる。
それは、オフィスワークだけではなく、現代のリモートワークの状況でも、まったく同じである。
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第6回目のお知らせ。

<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>
第6回 地方創生×事業再生
再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは【ご視聴方法】
ティネクト本音オンラインラジオ会員登録ページよりご登録ください。ご登録後に視聴リンクをお送りいたします。
当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。
【今回のトーク概要】
- 0. オープニング(5分)
自己紹介とテーマ提示:「地方創生 × 事業再生」=「実行できる経営企画」 - 1. 事業再生の現場から(20分)
保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例 - 2. 地方創生と事業再生(10分)
再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む - 3. 一般論としての「経営企画」とは(5分)
経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説 - 4. 中小企業における経営企画の翻訳(10分)
「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論 - 5. 経営企画の三原則(5分)
数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する - 6. まとめ(5分)
経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”
【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。
【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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(2025/7/14更新)
【著者プロフィール】
安達裕哉
元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。
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