かつてコンサルタントだったころ、私は会社の命を受けて、何回か「新規事業」の立ち上げを試みたことがある。
ほとんどは失敗したので、新規事業の立ち上げについて、偉そうなことは何も言えない。
ただ、その経験は、決して無駄ではなく、大変役に立った。
特に、私の中に残ったのは、「「買いたい」という言葉が、まったくあてにならなかった」ことだ。
*
私が初めて新規事業を立ち上げようとした時のこと。
私は一般的な教科書に載っている通り、事業計画を作り、そして、市場調査を次に行った。
具体的に言えば、新しい商材に関して、「アンケート」と「ヒアリング」をマメにやった。
「こんな商品があったら、これくらいの価格で買いますか?」
「こんなサービスについて、どう思いますか?」
「このような商材は、貴社のニーズを満たしますか?」
といった具合だ。
この段階で、反応は極めて良かった。
「ほしい」
「買いたい」
「ニーズにマッチしている」
といった回答が得られ、私は「これは、うまくいく未来しか見えない」とほくそ笑んだものだ。
ところが実際に、「買いたい」と言ってくれた人のところへ、その商品を「できました」と言って持っていくと、なぜか反応が悪い。
「いま予算がないからね」とか。
「時期じゃない」とか。
「忙しい」とか。
要するに、「買いたい」と言ってくれたはずの人が、買ってくれなかったのだ。
予算は冷酷だし、期限も厳しい。
当時の私は、パッと手の平を返す人たちを見て、人間不信に陥りそうになった。
無関心だと思っていたクライアントから連絡
ところが、意外なところから助け船が入った。
「買いたい」と言ってくれるどころか、ほとんど反応がなかったクライアントの一社から、
「その商品はいらないけど、こういうことはできる?」
という連絡がきたのだ。
私はそれに対応した。
今まで「買いたい」と言ってもらっていた商材は捨てた。
そして、「これならカネを出す」という要望に合わせたのだった。
私はそのクライアントに尋ねた。
「調査の時に、なぜ要望を言ってくれなかったのですか?」
すると、先方の責任者の方はこう言った。
「実際に商品を見ないと、わかんないからね。」
「なぜ私に声をかけてくれたのですか?」
「お世話になったし、熱心だったから。」
私はそれを聞いて、「人が言うことと、人が実際にやることって、大きく違うのだな」と思った。
実際、「いいね」とか「応援するよ」と言っていた人たちからの反応はなく、無関心だと思っていた人から、注文が来たのだ。
しかも「熱心だったから」という理由で。
*
つまり私がやっていた「市場調査」とか「ヒアリング」とかは、多くの人にとって、「真剣に考えるに値しない」ことだった。
「買いたい」という言葉を、多くの人は軽い気持ちで回答したか、若しくは、おそらく私を適当にあしらっただけ。
いざ「これでお金をください」と言った時には、人間の本音に直面した。
もちろん、すべて私が悪い。
要は、商売をナメていたのだ。
その慢心を、クライアントは見透かしていたに違いない。
おカネを払うときの言葉こそ、人の本心。
私はそれを、新規事業の立ち上げで、深く学んだのだった。
*
そして、後日。
私が、ある起業家に、上の新規事業の立ち上げの苦い思い出を話したところ、
彼に言われたのが、
「いいね」は社交辞令。
「お金を払ってくれる人」こそ、大事にせよ
という話だった。
彼はこういった。
「独立前、「がんばってね」とか「応援しているよ」と言ってくれてた人の多くは、言葉だけ。」
「わかります。」
「でもまあ、それが普通なんだよね。「助けてくれる」なんて、甘い考え方だ。みんな、自分にしか興味がないし。」
「そうですね。」
「でも、そこで目が覚めた。実際、大事なのはお金を払ってくれるかどうかだけで、「応援してる」という言葉は、「こんにちは」というあいさつ程度のものなんだよ。」
「……そうですね。」
*
かつて、「ザッポス」という、巨大な靴のECサイトがあった。
ザッポスは大成功し、2009年、脅威を感じたアマゾンが推定12億ドルをかけて買収したことでも知られている。
ザッポスは、私の他愛もない新規事業のような間違いはしなかった。
創業者のニック・スインマーンは非常に賢い人物で、スインマーンはいきなり大規模な投資を行うのではなく、「実験」からスタートした。
靴をオンラインで買う顧客がいると仮説を立てたら、「ヒアリング」でその仮説を検証するのではなかった。
彼は「お金」を払ってくれるかどうかを、実際に検証したのだ。
近所の靴店に頼んで、在庫の写真を撮らせてもらい、その写真はwebに掲載し、それを誰かが買ってくれたら、お店の売値で買うと靴店に交渉した。
こうしてスインマーンは小さな形で
「顧客は誰か?」
「顧客が感じる価値は何か?」
「顧客はいくらなら買うか?」
などについて、代金の回収から返品の処理、顧客へのサポートまでを、「立証」したのだった。
この話を聞くたびに、私は自分の無能を思い知る。
人は、「言ってること」ではなく、身銭を切って「何をしているか」こそ、本当の姿。
逆に、身銭を切らせれば、本音が出る。
そういう、当たり前の話を、仕事を通じて学んだのだ。
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【著者プロフィール】
安達裕哉
元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。
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Photo by jun rong loo