採用の仕事をしていると、一般公募、という手法の他に2つの手法がある事がわかる。

一つは人材紹介会社からの「紹介」であり、もう一つは「コネ」、いわゆる「縁故採用」というやつである。

 

私は学生の頃、縁故採用というものがどれほど存在しているかを殆ど知らず、多くの会社が一般公募による採用を行っていると思っていた。

だが、現実的には大手企業も中小企業も「コネ」、いわゆる「縁故採用」の割合が非常に多いことが社会に出てわかった。

 

いま、転職者の4人に1人はコネ入社! 「コネ」を使って転職する方法

2012年2月、岩波書店が新卒・中途採用の応募条件として「社員・あるいは著者の紹介状」と明記したことが話題になりました。賛否両論ありましたが、厚生労働省はこれを「違法ではない」と判断し、「コネも実力のうち」と、コネに対する世の中の見方が少し変わったような気がします。

 

上の記事では転職のケースを扱っているが、実際には新卒も「コネ」が非常に多い。

例えば取引先の社長の息子を入社させる、銀行を通じて口をきいてもらう、部活の先輩から引っ張られる、政治家から頼んでもらう…、パターンとしてはいくらでもある。実際のところ、人事も「身元がわかっている人が確実に入社してくれる」ということで、重宝しているという。

また「コネ入社」にはその他にもメリットがある。取引先との関係強化につながったり、採用コストを削減できたり、あるいは新規の顧客を開拓できたり、有力者とのつながりが出来たりと、企業にとって「コネ入社」を無くすことはあまり合理的な選択ではない。

 

 

だが、こういった「コネ」入社に対して批判的な意見も多い。

記憶に新しいのは芸能人の「みのもんた」の次男がテレビ局にコネ入社した、という話だ。

 

みのもんた次男逮捕で注目されるマスコミ「コネ入社」の実態

入社試験を受けたのですが、恥ずかしいことに、筆記試験が難しくて住所と名前しか書けなかった、と。それで、当時、日テレの会長で、一昨年亡くなった氏家齊一郎さんに相談したところ、『将来、社屋を移転する可能性もあるので、引っ越し要員が必要だ』といって、体力だけはある次男を引っ張ってくれたのです(笑

 

どこまで本当の話なのかは全く分からないが、「嫉妬」「叩きやすさ」も相まって、コネ入社が批判されたのだろう。

それ故、「コネ入社」は能力的に問題がある、と言われたりすることもあるが、それを示すデータはない。

 

 

だが実際には、公務員への就職以外には「コネ」は法的には問題がない。そればかりか、企業にとって多くのメリットがある。

それなのになぜ、「コネ」は批判されるのだろうか。

 

 

一つは「コネ」が正当化されると、権力者や富裕層ばかりが「良い就職」を得られ、それが階層化を助長するとの見方がある。

「良い企業」に就職できるということは、それだけで大きな金銭的、社会的メリットが有り、それを供与するということは、格差を固定化することにつながるという批判だ。

二つ目は、メリトクラシー(能力主義)が平等を生み出すという考え方だ。「血縁や、地縁の差」ではなく、「個人の能力」を評価する社会が正しい、という考え方である。受験はその最たるもので、上位校に入るためには、全員(ほとんど)平等の試験を受けなければならない。

 

 

ということで、どちらの側にも言い分はある。が、現場で一番「なるほど」と思ったのは、次の話だ。

ある経営者から「コネ採用」の話を聞かされた。

 

経営者 「安達さん、コネ採用について、どう思います?」

私 「どうと言われても…好きにすればいいんじゃないかと思いますが、多分「公平ではない」と言われますよね。」

経営者 「そうです。そういう人は必ずいます。」

私 「社長はどう思っているんですか?」

経営者 「コネは必要です。多様性を確保するために。」

私 「多様性…ですか?」

経営者 「そうです。会社にはいろいろな人がいたほうが良いんです。コネも必要、一般応募も必要、紹介も必要です。」

私 「なるほど」

経営者 「でも、一つだけやらないほうが良いコネ入社があります。自分の親族を入社させることです。これはマズい。」

私 「なぜですか?」

経営者 「息子や娘を平等に扱えますか?自分はそう思っていても、周りはそう思わないかもしれない。だから入れるなら次期社長として、最初から異なるルートで扱うことしか無理です。そして、もし後継者たる能力がなければ放り出さなくてはいけない。それは経営者としての判断を狂わせます。」

私 「なるほど」

経営者 「私どもくらいの中堅企業でもそれは守らないといけません。部長クラスの人間から、「息子を入れたい」と言われても、それは断っています。逆に取引先などだったら歓迎です。大企業でも、それは同じだと思います。」

 

縁故採用も、これはこれで難しい人事なのだ。