この記事で書きたいことは、大体以下のようなことです。
・転職未経験のマネジメント層の人が、「転職というものは非常にハイリスクであり、転職を決断するからにはよほどの理由がある筈」と考えているのを観測した
・個別のケースについては色々とあるだろうけど、現在「転職」というものは昔よりずっとやりやすくなっており、ちょっとした待遇向上や「環境を変えたい」程度の理由で気軽に転職をする人も増えている
・マネジメント層が、転職について「非常にリスクが高く、滅多なことではしない」ものだと考えていると、離職対策を誤る可能性がある
・そういった認識齟齬を防止する為に、転職をする気がなくても転職活動をしてみるのは悪くないかも知れない
以上です。よろしくお願いします。
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ということで、最初に書きたいことは全部書いてしまったので、後はざっくばらんにいきましょう。
先日観測した、ちょっとした認識ギャップについての話です。
まだまだ油断出来る状況ではないとはいえ、本邦では新型コロナの流行も小康状態と言って良さそうな状況になっており、私の周辺でもぼちぼち対面での会議や飲み会の話が持ち上がりつつあります。
そんな中、以前からたびたび開催されていた、金融関係のとある業者間交流会も復活させようか、という話になりました。
まあ、交流会というと大仰ですが、同業種のマネージャー級の愚痴吐き会みたいなもんです。
で、その主催の人から私にも連絡が来たんですが、
「オミクロン株の話もあるとはいえ、若干感染状況も落ち着いているので、年内に一度やってみようかと」
「いいですね」
「とはいえ、大人数で飲み屋の飲み会、となるとまだいささかはばかられるので」
「はあ」
「サ〇ゼで飲みましょう」
「はい?」
という謎な会話の後、何故か某イタリア風レストランで静かめな飲み会をすることになりました。
平日夜に、スーツ姿のおっさん数人がワイン飲みながら駄弁ってる光景はだいぶ周囲から浮いていたのではないかと推察します。
とはいえファミレス飲みは案外侮れません。美味しいですよね、ムール貝のガーリック焼き。あと辛味チキンも好き。ワインとビールが進む進む。
で、その時参加者の一人から、こんな相談というか、愚痴を聞きました。
記事にすることについてはご本人に許可をとっています。
「最近何人か立て続けに若手が辞めちゃって」
「ありゃ、大変ですね」
「辞める子って本当、辞める理由って教えてくれないよね」
「まあそりゃそうですよね」
「口では、ちょっと給料がいい仕事が他に見つかって、とか言うんだけどさ」
「うん??」
「でも転職ってよほどのことじゃん?例えば職場環境の問題とか、パワハラしてるヤツとか、職場にいるんじゃないかと思って聞いてみても「別にそういうことじゃない」って言われちゃってさ。なんとか突き止めたいと思ってるんだけど」
「うーーん?「ちょっと給料がいい」ってどれくらい違うんですか」
「そこまで細かく聞いてないけど、年収で2,30万とかじゃないかな」
「ははあ。ちなみに、〇〇さん(相手の名前)って転職経験ありましたっけ」
「いやないけど。ずっと今の会社」
「なるほど」
こんな感じの会話でした。
つまり彼は、
「ちょっと給料がいい仕事が他にある、程度の理由で人は転職しない」
「自分の部署には何か大きな問題があって、そこに不満を持った部下が辞めているのだが、それに自分は気付いていない」
「若手が辞める「本当の理由」をなんとか探り出したい」
と考えているわけです。
ちなみに彼の会社は、業界の中では最大手に近い安定した会社だと考えてください。
聞いている限りだと業態もホワイトなようで、労働条件的な不満はぱっと見少なそうです。
この事象には、二つの解釈が可能です。
一つは、「「転職する本当の理由」があったとして、それを上役に開示するメリットは何もないので、実際の転職理由を黙っている」という可能性。
要は彼の危惧通り、自分に言えない「よほどの理由」が隠されているというケース。
もう一つは、「「転職する本当の理由」というものは別に存在せず、本当に「ちょっとした給料の違い(年収2,30万が「ちょっとした」違いなのか、という話は一旦おいておきます)」「ちょっと違う仕事がしたい」という程度の理由だけで若手が転職している、という可能性。
もちろん、私は彼の職場について、彼から聞いた口伝でしか知らないので、若手が辞めるという「本当の理由」は分かりません。
彼の職場には、実際に彼が気付いていない、ないし自覚していない大きな問題があって、若手はそれを開示せずに辞めていったのかも知れません。その可能性は否定出来ません。
ただ私、この愚痴を聞いた時は、彼が考える「本当の理由」なんてない可能性の方が高いんじゃないかな、と思ったんです。
まず、「大抵の場合、辞める人にとって、上司に本当の転職理由を伝える義理などない」ということは大前提だと言って良いでしょう。
元より辞める人にとっては自分がいなくなった後の職場環境のことなどそれ程興味もないわけで、それよりも「スムーズにストレスなく辞める」ことの方が余程重要です。
だから、転職を決意した人は、大抵の場合黙って辞めますし、説得など試みても無駄なことが多いです。
そんな中、彼の職場を辞めていった若手は、「待遇の違い」というシンプルで率直な理由を挙げていったわけで、むしろ「随分気を許されているなあ」「わりと風通しがいい職場なのかな」というのが私の最初の所感だったんです。
基本、辞める人にとっては「引き止められる」ことが一番面倒くさいわけで、引き止められるトリガーになるようなことはあんまり言いたくない筈なんですよ。
「給料安いんで」というのが理由だったとして、今更「じゃあ給料上げるから残って」とか言われても困るじゃないですか。
「本当の理由」が他にあって、その理由を隠しているとすれば、彼には「どうしてもやりたいことが他に見つかって」とか、あるいは「家庭の都合で」とか、もっと「反論しにくい理由」を伝えていたんじゃないかなあ、と思ったんです。
となると、転職理由は彼の言う「ちょっとした」理由なんじゃないかと。
正直、私の肌感としては、「ちょっと給料がいい転職先が見つかった」って、転職を決断する十分過ぎる理由になり得るんじゃないのかなーと。
それに加えて、「今と違う仕事が経験出来る」ということは物凄いメリットなんじゃないかなーと。
なんなら年収現状維持でも職場を変える意味はあるのに、20万も年収上がるなら全然気兼ねなく転職しちゃうんじゃないかなーと。
ただ、彼にはそれがあまりピンとこなかったようでして。
彼の転職に関する考え方って割と保守的なんですね。
彼、転職について、「職歴に傷がつく」って考え方らしいんです。
・使う側からすると、しょっちゅう転職している人は怖くて採用出来ない
・転職して職場が合わなくってほんの数か月でまた転職、なんてことになったら職歴のダメージが大きくなる。少なくとも自分はそういう職歴の人を採用しない
・良い待遇を探してキャリアアップ、という向きがあるのは理解するが、そんなのIT業界くらい
というような認識らしいんですね。
これについては正直ちょっと旧態依然に思えるというか、私の肌感とあまり合致しませんで、その場でも議論になったりしたんですが、どうなんでしょうね。
今でも、「転職歴が多い人を忌避する」って会社、一般的なんでしょうか?
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ところでここに、総務省が調査した、転職者についての統計があります。軽く引用します。
統計トピックス No.123 増加傾向が続く転職者の状況 ~ 2019 年の転職者数は過去最多 ~
【ポイント】
○ 2019年の転職者数は351万人と過去最多
○ 「より良い条件の仕事を探すため」に前職を離職した転職者が増加
○ 従業者規模の大きい企業などで転職者が増加
○ 正規雇用間の転職者が増加
これ2019年の統計で、コロナ禍があった2020年以降の統計はここには含まれていないようなので、直近の2年でどうなっているのかまではちょっと分からないです。
とはいえ、転職者がリーマンショック後の2010年を底に増加し続けていること、また他の転職事由が横這いな中、「より良い条件を探す為」の転職だけが増え続けているという、全体のトレンドは見て取れるでしょう。
これは私の肌感なんですが、「転職が昔より遥かに気軽に出来るものになりつつある」とは、多分一般に言ってしまっていいと思うんです。
私も別にそこまで転職回数が多い方ではないんですが、それでも何度かは所属先が変わることを経験していますし、情報収集の為もあって結構あちこちの転職サイトに登録したりもしています。
で、思うのは、「転職サイトってここ10年くらいで滅茶苦茶使いやすくなったよね」ってことなんです。
これはもう、特定のどこのサイトや業者がって話ではなくて、転職サイトの数自体も増えて、どのサイトも平均してレベルが上がってます。
もう単純にUIが凄く洗練されたし、マッチングも早いし適切だし、チャットボットによる自動応答の内容も適切になっている。
営業さんからの連絡が早いのは昔からかも知れませんが、営業さんと話していても「求職者はどういうことを気にするか」「求職者はどういう情報を必要としているか」というのがもう完全にノウハウとしてマニュアル化されている感があって、レベルが上がっているなあという所感があります。
良い条件の転職先や案件がどれだけの数あるか、という点についてはもちろん景況に左右されるのでその時々次第ですが、「転職の為のインフラが昔より遥かに整っている」ということは一面の事実だと思うんですよね。
で、それにつれて、なのかも知れないですが、企業側の転職に対するイメージも変わりつつあると思うんですよ。
昔なら短いスパンで何度も転職する人が「ジョブホッパー」と呼ばれて忌避されたりしましたが、最近は別段IT業界でなくても、「隔年で所属先が変わっている」という人がそれ程珍しくなくなっているし、採用でも普通に採用対象になったりしている。
むしろ、企業によっては、「ある程度転職経験を積んでいた方がキャリアアップの志向があるとみなされて評価が上がる」という話もしばしば聞きます。
となると、そういった文化に馴染んでいる若手が「ちょっと待遇がいいから」というだけの理由で転職するのも、別段珍しいことじゃないんじゃないかなあ、なんて私は思うんですよね。
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もちろん「転職」という行為がリスクを孕んだものであることは昔と変わりませんし、「転職歴が多い」ということをマイナス材料として考える企業さんだってまだまだ多いんだろうとは思います。
特に社会状況が不透明な昨今では、なるべくリスクをとりたくない、と考えるのはむしろ自然でしょう。
そう考えると、「自分の部署に何か自分が知らない問題があるのではないか」と考えた、冒頭の彼の意見はむしろマネージャーとして誠実なものだとも思えます。
とはいえ、特にマネージャー職にあるものとしては、「現在の転職事情」というものについては認識をアップデートし続けておいた方がいいんじゃないか、とも考えるところでして、「何かやむにやまれぬ理由でもなければ転職は選択肢にならない」という考えでは、職場の離職対策を考える上でもやり方を見誤る可能性があると思うんですよ。
「部下が転職を考える確率はどの程度あるのか」というのは、上役にとっては非常に重要な情報です。
今の待遇、今の仕事で部下を引き留めておけるのか、ということも、常に考え続けなくてはいけない課題です。
となると、少なくとも今、どういった理由が転職のトリガーになって、どのくらいの労力で転職を実現出来るのか、そういう情報は頭に入れておいていいと思うんです。
私自身は、「キャリアを考える上では「転職」というものは外せない選択肢だし、部下は常に「転職」というものを検討し続けているのだろう、という認識ではあります。
その上で、問題なく仕事を回し続けられるように、可能な限り働き安い環境を形づくっていきたいなーと考える次第なのです。
今日書きたいことはそれくらいです。
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【著者プロフィール】
著者名:しんざき
SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。
レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。
ブログ:不倒城
Photo by Priscilla Du Preez