これまで2回にわたって”問題上司―「困った上司」の解決法”という本を題材に、なぜクソみたいな上司がこの世に存在するのかを書かせていただいた。
問題上司: 困った上司の解決法
- ハーヴィー ホーンスタイン,Hornstein,Harvey,勇, 斎藤
- プレジデント社
- 価格¥1(2025/06/08 02:45時点)
- 発売日2000/11/01
- 商品ランキング963,756位
僕はこの本を読んで、今まで出会ってきた自分には理解し難い人間の行動原理のようなものが理解できて随分とスッキリとした。
本当に素晴らしい本なので、未読の人は絶対に入手して読むべきである。ここまで問題の本質に切り込めている本はそうない。
こうして僕はクソ上司が爆誕する背景原理を理解したのだが、この原理を理解した事である一つの非常に重要な問題がまだ一つ残ってる事に気がついた。
それは仕事が人の性格を捻じ曲げるという事だ。
適度な負荷なら仕事は人を成長させるが…
人間性は変化する。
例えばである。どこにでもいるような普通の男女が、子を作り親となり、育て上げる行為を通じて立派な両親へとなったとしよう。
このように時に”仕事”は人を育てる。
皆さんの周りにもそれまでは全然頼りなかった人間が、親になってから随分とドッシリとした存在になっていただなんて事があるだろう。
古来より立場が人を作ると言うが、このように適度な負荷を通じて人は成長する。
与えられた責任から逃れずにキチンと真正面から向き合う事でもって、人間というのは一角の人物にもなれる。
しかしこれは”いい”例だ。世の中には当然というか、悪い例もある。今度は悪い例をあげてみよう。
虐待親を笑えますか?僕は笑えなくなりました
最近話題のタコピーの原罪という漫画がある。
この漫画はタコピーという地球外生命体が、様々な虐待を受けている子供と共に交流する漫画である。
可愛らしい絵柄に反し、妙に子供心をエグるような描写が乱発する本作は、発表当初から随分と話題になった。
今では毎週みんな次週どんな酷いDVが繰り出されるのかハラハラ・ドキドキと更新が待ち遠しくなっているような有様である。
本作品に出てくる親から子供への虐待行為は、一般人からみれば理解不能なものだ。
「こんなに可愛い子供を持てたのに、なんでこんなに酷い事をするのだろう?」
こう思っている無垢な読者も多いに違いない。
しかし”問題上司―「困った上司」の解決法”を読んだ今の僕は、この作品に登場する虐待親の事を全然笑えなくなってしまった。
なぜならこの虐待親もまた”仕事”によって作られた存在だからだ。
仕事は人を邪悪にもする
僕が思うに虐待親とは仕事に邪悪にされてしまった存在だ。
家庭環境と子育てという仕事が悪い方向へと親御さん達を加速させた結果、DV親が爆誕したのである。
仕事は人を変える。これは良い意味で捉えられる事が多いように思うが、実際には仕事は同等かそれ以上に人を”悪く”もする。
ここまで見てきたパワハラクソ上司や虐待親のように、この世には全く尊敬できないような存在が数多いる。
彼・彼女らはある意味では仕事の犠牲者だとも言える。
処理できる限界量を超えた負荷をかけられ続けた結果、人格が崩壊してしまった悲しい存在なのだから。
悪くなった性格は基本的には一生なおらない
悪くなった性格は一生治らない。
虐待親がある日を堺に突然改心して子供想いの親にはなるだなんて事がないように、問題上司もある日を堺に突然改心して部下想いの上司になるだなんて事はまず無い。
慣れというのは恐ろしいものだ。最初の頃は
「なんでこんな事しているんだろう?」
と反省する余地があった人も、徐々に己の行動に何の疑問も抱けなくなる。
パワハラもDVも一度”慣れ”てしまったら、それは悪ではなく”必然”になる。
後はどんな極悪な事であれど”正当な理由”でもって淡々と処理されるだけだ。
「仕事ができないアイツが悪い」
「何度言っても治らないんだからしつけが必要なんだ」
もう何度となく、似たような言葉を貴方は聞いてきただろう。これはそういう事なのだ。
貴方が今の環境が色々と限界で、性格が捻じ曲がってきていると自覚できる段階にいるのならば、まだ自覚できているうちに引き返した方がいい。
そこから先に進むと、あなたはもう二度と帰ってはこれない。
どんなに残虐な行いでも、言い訳でもって何でも正当化できる
繰り返すが性格というのは一度悪くしてしまったら絶対に良くなる事はない。
真っ白な存在が立派な存在になる事はあっても、邪悪な人間が善人へとなるような事例を僕は一つたりとも思いつかない。
人間はどのような残虐非道な行いでも、そこに”理由”を付与する事ができる生き物だ。
真っ白になって「これは客観的にみて、酷い事をしているな…」と己の行いを振り返られる”当事者”はいない。
パワハラやイジメを行っていた人に「酷いことをしていたという自覚はあるか?」と聞いても、当人にはその自覚は皆無だ。
せいぜい「それは必要な事だったんだ」というのが関の山だろう。
灯台下暗しや岡目八目なんてことわざがあるけれど、それぐらいに”当事者”というのは視点が歪む生き物だ。
渦中にいながらにして”当事者”をやめる事はできない。
そして仕事や家庭といった人格形成の根本部分に関与する領域では”当事者”である以外にやりようなどない。
そういう領域で性格が悪くなってしまった個人の予後は最悪だ。
永遠に最悪な性格が継続し、死ぬまでそのままなのである。
たかが仕事という言葉の本当の意味
「たかが仕事」
僕はかつてこの言葉の意味が全然わからなかった。
世間は様々なプロフェッショナルの事を称賛する。
命を削ってまで漫画を書ききった手塚治虫なんて漫画の神様と呼ばれている有様だ。
「みんなたかが仕事とかいって仕事の事をバカにするけどさ」
「そのくせ仕事に不真面目な人が褒められてるケースなんて全然無いじゃないか」
「ぜんぜん、たかが仕事じゃなくないか?」
そうとしか思えなかったのである。
しかし…これまで数多のパワハラ上司や虐待親をみた結果、この「たかが仕事」という言葉は”当事者”から離れてみる為の魔法の言葉なのではないかと思うようになった。
たかが仕事と思えれば…そこにどんな合理性があろうがパワハラはパワハラだ。
たかが仕事と思えれば…そこにどのような理由があれど虐待は虐待だ。
そうせざるをえなかった理由は山ほどあるだろう。正当性だって何万も付与できよう。
しかしそういう”言い訳”を全て取り去ってみればである。
やった事はやっぱり単なる悪事だ。”たかが仕事”に夢中になって、当事者として頭を沸騰させた結果、”正義”を執行したにすぎないのだ。
金は命よりも重い?性格は仕事よりも大切?
賭博黙示録カイジという漫画に金は命よりも重いという有名なシーンがある。
<6巻より>
この言葉を聞いて「そうだ!そうだ!」という人もいるだろうし「バッカじゃないの?」という人もいるだろう。
どちらが正しいかはここでは置いておく。
その観点を外した上で…本心から言うのだとしたら、貴方は自分の命とお金、どっちが”重い”と言いたいだろうか?
まあ、多くの読者は全力で「自分の命のほうが重たいに決まってるじゃねーか」と言いたいだろう。
これと同じ事をさっきの例でもやってみて欲しい。
性格と仕事
あなたにとって”重い”のは、どちらだろうか?
悪魔に魂を売るって、仕事に人格を奪われるという事なんじゃないか?
もちろんだ。世の中には様々な事情がある。
前々回の記事で僕はナチスドイツのアイヒマンという人を紹介した。
彼は彼はヒトラーの命令に従った結果、何人ものユダヤ人を虐殺する事になった。
第三者の立場から彼を”悪”と断罪するのは簡単だ。
だが、仮にアイヒマンがここで良心を発揮して命令に背いたとしたら…たぶん彼は不敬罪でもって処刑されていただけだろう。
どこかで第2第3のアイヒマンが登場するまで、この現象はどっちにしろ止まらなかったに違いない。
このような極限状態を例に考えればわかる通り、人間には様々な事情がある。
仕事が性格よりも”重く”なってしまうケースがありえるのは仕方がない。
程度の差こそあれ、我々はみな1人のアイヒマンなのである。
結局、このような世の中において最後の最後に問われるのは「己の悪に言い訳をしない」という胆力なのだと僕は思う。
たかが仕事だ。しかし…されど仕事でもある。
仕事は時に人から人格を奪い去り、システムの奴隷にする。
僕は思うのだ。このシステムの奴隷になってしまった存在こそが、現代における悪魔の正体なのだと。
無自覚に”悪”をやってしまうような存在になった時、その人はきっと悪魔に魂を売り渡してしまったのだろう。
あなたは己の”悪”を正面から見据えられるだろうか?問われているのは、そういう事なのだと僕は思う。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
【著者プロフィール】
都内で勤務医としてまったり生活中。
趣味はおいしいレストラン開拓とワインと読書です。
twitter:takasuka_toki ブログ→ 珈琲をゴクゴク呑むように
noteで食事に関するコラム執筆と人生相談もやってます
Photo by Hello I’m Nik