この記事で書きたいことは、大筋下記のような内容です。

 

・他の誰かの悩みを聞いた時、「自分はその状況でそれ程辛くないから」「相手も大丈夫」という論法を「慰め」として使う人がいる

・痛みは決して相対化出来るものではなく、誰かの痛みの度合はその人だけにしか分からない

・「あなたの痛みはそんなに深くない筈」という論法は、しばしば相手の傷口をより深くえぐる

・だから、「誰かの痛みを他の誰かの痛みで相対化する」論法は慎重に扱った方がいい

・ちなみにこれは、自分に対してでも当てはまりますよね

・「もっと辛い人もいるから」と自分に言い聞かせ始めたら休み時

 

よろしくお願いします。

さて、書きたいことは最初に全部書いてしまったので、あとはざっくばらんに行きましょう。

 

***

 

「他人の痛みを自分の痛みで相対化しようとする人」の言動を聞いて、「うーん」と思うことがあります。

昔の話なんですが、以前所属していた会社で、新人が辞める率が滅茶苦茶高い部署がありました。

ちゃんとした数字は覚えてないんですが、新人が配属されて3年以内に辞める率が8割以上とか、大体そんな感じだったと思います。

 

まあタスク量自体も多いし品質も求められる部署なので、単純に仕事がキツくて辞めてる人が多いのかなーと思ったんですが、二、三回面談に同席させていただいて、「あ、もしかしてこれが原因かも」と思ったことがありました。

そこの先輩たち、ほぼ全員が全員「相手の痛みを自分の痛みで相対化する人たち」だったんです。

 

つまり、「これこれこういう状況です」「仕事が回りません」「しんどいです」という新人の悩みに対して、「大丈夫!俺の時はこうで、こう乗り切れたから!そんな辛くなかったよ!だから頑張れ!」と答える人たち。

極端な話、誰かの「痛い」に対して、「私は痛くなかったから大丈夫だよ!」と言ってるわけですよね。

 

これ、一見すると「相手と同じ状況に立った時の自分」の話をしている訳で、「経験談に則った有益な情報」のように見えなくもないんですよね。

実際、話している側はそう思っていたのでしょうし、聞いている側もそのつもりで聞いていたかも知れません。

 

ただ、そもそもの前提として、「しんどい」「辛い」という感情は決して相対化出来ないんですよね。

誰かの痛みはその人だけの痛みであって、「どれくらい痛いか」というのは他人には分からない。

 

例えば「仕事が回らない」という状況にしたって、バックボーンは一人ひとり違うわけです。

処理能力も違えば、スキルも、仕事をする時に求められる足場の状況だって違う。更に言えば、性格だって気質だって、今まで育ってきた環境だってまるで違う。

となると、「仕事が回らない」ということの辛さを、他人が推し量れるわけがないんです。

 

であれば、「しんどいです」という感情については、まずは「そうなのか」と尊重してあげなくてはならない。

「俺にはその痛みは具体的には分からないけれど、君が辛いのは分かった」というところがスタート地点にならないといけないわけです。

 

その上で、「じゃあその辛さに対処する方法は何かあるだろうか」という段階に進む。

そこで「こういうやり方で上手くいったことがあるよ、試してみない?」となるならまだ話は分かります。

そこを全部放っておいて、「俺の時はしんどくなかったけど」って言われたら、そりゃ「お前に何がわかるんだよ」ってなるでしょう。

 

その部署元々忙しかったので、新人の悩みに接する先輩の側にもその余裕がない、という事情はあったでしょう。

そもそもその部署で生き残っている時点で能力が高い人ばかりだった、ということもありそうです。

結果、相手に寄り添うだけの知見がたまらなかった。分かりやすい生存バイアスです。

 

ちなみにこの時、私が後から「ああいう言い方は避けた方がいいんじゃ?」と指摘してみたところ、「あれ、俺そんな言い方してた?」「そっか、気をつけないとな」って言葉が返ってくるんですよ。その時は。

ただ、2回目以降も大抵そういう言い方が直っているかというと全然直ってなかったので、意識して修正するのはよほど難しいのか、とも思います。

 

まあ、その前にまず、やるべきことはタスク量の調整だと思いますけど。

これ、「相手の痛みを自分の感覚で否定するな」というのって、言葉にすると一般的な感覚だと思うんですが、実際そう出来ているかっていうと難しいと思うんですよね。

ついつい「いやそんなに痛い筈ないだろ」と言いたくなってしまうし、実際そう言ってしまう。私だってそうかも知れないです。

 

上記の職場のような例を書くと「そりゃいかんだろ」と思われるかも知れないですが、案外私たちは、他人の痛みに対して「いやそんなに痛くないだろ?」と言い続けているのではないか、と思うのです。

webを見ていれば、そういう言説山ほど見つかりますよね。

 

身近でも、例えば子どもが体調不良を訴えている時に、まずは「いやそんな辛いの?」という言葉を呑み込んで、「うん、辛いよね」というところから話を始める、という手順が必要なわけです。気を付けてます。

 

恐らくこれは一般論として、人間は「他人の痛みを自分の感覚で測り勝ち」なのだろうと思います。

だからよっぽど気をつけなくてはいけない。

「自戒として」という防御線は本来あまり好きではないのですが、他人事として書ける内容ではありません。

 

***

 

ところで、上記とは多少話が異なるのですが、「痛みを相対化するべきではない」というのは自分にとっても当てはまると思います。

つまり、「他にもっと辛い人がいるんだから自分は大丈夫だ」と自分に言い聞かせるというのも、これもあまり健康的ではないと思うのですね。

 

私自身経験しているんですが、自分が辛い状況になると、ついつい「もっと下」を求めてしまうんですよ。

「いやあいつよりマシだから」とか、「こんな状況よりよっぽど辛いヤツがいるから」と自分に言い聞かせて、自分の辛さを無視する、抑制してしまう。

 

これ、「すぐには逃げられない」という状況でなんとか自分のメンタルを保つ為のテクニックでもあるので、一概に言うのは難しいんですが、とはいえ「自分の痛みは自分にしか分からない」という原則自体は動かないと思います。

あなたが辛いと思えば、他人の辛さには一切関係なく、あなたは辛いんだ。

 

なので、私自身については、「もっと辛い人もいるから自分は大丈夫」と自分に言い聞かせ始めたら、それは休み時、ないし逃げ時だという、自分へのシグナルとして扱うことにしています。

まあ逃げられる状況じゃない時もあるんですが、一つの指標にはなります。

 

自分にせよ、他人にせよ、「痛み」「辛さ」は可能な限り尊重していかないといけないなあ、と。そんな風に考える次第です。

 

今日書きたいことはそれくらいです。

 

 

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安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
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(2025/6/2更新)

 

 

 

【著者プロフィール】

著者名:しんざき

SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。

レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。

ブログ:不倒城

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