つい最近、「人の話をちゃんと聞けない人」を「聞ける人」に変えるのは可能なのか、という話でディスカッションになった。

 

というのも、ある経営者が「お客さんの話を全く聞けないメンバーがいる」と愚痴をこぼしたからだ。

すると、周りの人々も、呼応するように、「いるいる」という。

 

その経営者の話を聞くと、おおむね次のような状況だった。

 

その人は、良く言われるテクニック的な「傾聴する姿勢を見せる」のは得意だという。

「聞き上手」のように、メモを取ったり、頷いたり、相槌を打ったりする。

人の話を遮ったりもしない。

 

しかし、同僚やクライアントからしばしば、次のようにクレームがあるという。

「あの人、全然話を聞いてないんだよね。」と。

 

具体的にはどのような事象でしょう?と聞くと、

「例えば、同僚から意見を求められても、「それでいいと思います」としか言えない。あるいは、クライアントが「この構成に対して指摘はありますか」と言ったところ、彼は「誤字がありますね」と言ったらしいのです。みんな苦笑ですよ。」

 

まわりの人たちも、「確かに、話を聞けてないひと、いますよね」とため息を漏らした。

 

 

たしかに、私にも同じような体験がある。

 

コンサルタント時代に、部下たちに会社の方針について説明したときのことだ。

「中小企業は、財務体質が強くないので、いきなり高額なコンサルティングを使うことができない。よって中小の新規客に「コンサル」を最初に売り込むのは難しい。その時は「入口商材」として研修が有効だとわかってきた。だから今後、研修事業に力を入れる」と、丁寧に説明をした。

 

すると、こんな質問が来た。

「研修に力を入れるということは、コンサルティングは今後、やらないのでしょうか?」

 

私は戸惑った。なにせ、「コンサルはやらない」と一言も言っていない。

いや、むしろ「研修は入口商材」と明言しているではないか。

 

私は不思議だったので、彼に尋ねた。

「どう解釈をすると、今の話が「コンサルティングはやらない」となるのですか。」

彼は言った。

「今後、研修事業に力を入れる、と言ったので。」

 

私は、「言ってもいないことを勝手に想像するな」とツッコみたくなったが、こう答えた。

「もちろん、我々の最終的な目的は研修を「入口」として、「コンサルティング」を買っていただくことです。コンサルティングをやめるはずがありません。」

 

周りのコンサルタントも、彼に対して

「そんなこと一言も言ってないじゃん」

と突っ込む。

 

しかし私は、「本当にわかってんのかなあ」と不安だった。

というのも、彼はクライアントとの折衝でも、たびたびトンチンカンなことを言っていたからだ。

 

 

振り返って、彼らが「なぜ話をちゃんと聞けないのか」を考えてみると、一つの仮説が設定できる。

おそらく、彼らは「自分の認識できたこと」だけ切り取って、話を聞いている、と。

 

例えば、前者の例では「構成にアドバイスがほしい」という要望に対して、「アドバイスがほしい」というところだけを選択して聞いてしまった可能性がある。

だから素直に「誤字がありますね」と言ってしまった。

 

あるいは後者の例では、「今後、研修事業に力を入れる」だけを彼は認識し、「入口商材」という言葉を認識から消した。

だから、「コンサルは力を入れない(かもしれない)」と、彼は勝手に思ってしまったのだ。

 

これは、少し前にベストセラーとなった「AI vs 教科書が読めない子どもたち」で指摘された、「読解能力の低い子どもたちは、意味のわからない単語を読み飛ばす」という指摘とよく似ている。

 

例えば、次の問題だ。

Alexは男性にも女性にも使われる名前で、女性の名Alexandraの愛称であるが、男性の名Alexanderの愛称でもある。

この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを選択肢のうちから1つ選びなさい。

 

Alexandraの愛称は()である。

 

①Alex

②Alexander

③男性

④女性

それなりの大人であれば、正解は一目瞭然だ。

が、中学生の正答率は、たったの38%。中学1年生に至っては、たったの23%で、ランダムに選択するよりも正答率が低い。

 

著者の新井紀子氏は、この原因について、次のように考察している。

なぜ、こんなことになったのかは、図3‐3の項目特性図を見ればわかります。読解能力が3、つまりほぼ真ん中辺りまで、選択肢④のほうが正解の①より多く選ばれていることがわかります。つまり、「Alexandraの愛称は女性である」が正解だと考える子が案外いるのです。

どうしてでしょう。おそらく「愛称」という言葉を知らないからです。そして、知らない単語が出てくると、それを飛ばして読むという読みの習性があるためです。「Alexandraは女性である」ならば、文として意味が通ります。
(太字は筆者)

つまり、読解能力が低い子供は、「知らない単語を消したとき、文として意味が通る」という理由で、不正解を選択してしまう。

 

上の「話を聞けない人」たちも、おそらく同じなのだろう。

「自分の認識できたこと」だけを聞き、それ以外の情報は、捨ててしまう。

そして、自分に都合よく、情報を組み替える。

 

だから、「聞けない」し「トンチンカンなことを言う」のだ。

 

 

そう考えていくと、「人の話をちゃんと聞けない人」の問題は、意識とかテクニックだけでは解決できないかもしれない。

これは、根本的な「言語能力」の問題だからだ。

 

しかも、これは解決が非常に難しい。

「テスト問題」よりも、「正確に人の話を聞く」のは、はるかに難しいからだ。

 

テスト問題であれば、改めて文章を見返して、じっくりと検証すれば、論理的な回答を選択することもできよう。

時間をかければ、皆が「正解」にたどり着けるかもしれない。

 

だが「人の話」は、どんどん流れていく上に、非論理的な部分も多い。

「聞けない人」には、非常に厳しい環境なのだ。

彼らに対して、

「メモを見返し、正確に解釈をしてから発言せよ」

「不明な部分は、ちゃんと聞き返せ」

といったアドバイスもあろうが、彼らはおそらく正確にメモが取れず、メモがあっても、読解できない。

 

だから、もしかしたら、彼らには「聞く」こと自体が、難しいかもしれない。

新井紀子氏は、「いくつになっても、読解能力は伸びる」と言っているが、会社が読解能力の訓練を導入するとは考えにくい。

 

その場合は、「人の話を正確に聞かなくてはならない仕事」から外してあげることが、唯一の解決策となるだろう。

 

 

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(2024/3/26更新)

 

 

【著者プロフィール】

安達裕哉

元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

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