モノゴトを進めるには、タスク管理と時間管理、大きくわけて2つの方法がある。
タスク管理は、順番に作業を進めていく方法。To Doリストをイメージするとわかりやすい。
一方の時間管理は、設定時間内に作業をする方法で、学校の授業と同じだ。
たとえば晩ご飯を作るにしても、「今日はハンバーグにしよう!」と決め、まず玉ねぎとニンニクをみじん切り、そのあとひき肉をコネて、焼いているあいだにソースを……と順番に作業をこなしていくのが、タスク管理。
時間管理だと、「19時に食事だから、18時から料理を作り始めよう」と時間基準で献立を考え、1時間のあいだで作れるものを作っていく。こんな感じ。
最近なにかにつけ、「時間管理よりタスク管理がいい」と言われがちだ。
時間管理にするとダラダラとサボるけど、タスク管理なら効率よく働くし、結果を出した人が報われる、というように。
でも、本当にそうだろうか。
タスク管理って、実は結構なデメリットがあるんだけど……。
「1日1レッスン」があまりにもしんどかった独学初日
わたしは少し前から、Illustrator(以下イラレ)の勉強をはじめた。
photoshopに並ぶ有名なAdobeソフトで、ロゴを作ったり、印刷物を作ったりするのによく使われている。
イチからイラレを勉強するにあたって、わたしはまず1冊の本を買った。
その本はロゴや地図などの描き方を5つのレッスンに分けて紹介しており、それらを順番にこなすことで、さまざまな機能に触れられる構成になっている。よくある教本だ。
というわけで、わたしはとりあえず、「1日1レッスン」という目標を立てた。
さっそく第1講、かんたんなロゴづくり。
よーし、やったるぞー!!
まずイラレを開き、本を見ながらこれをこうして、あれをああして、そしてその色をスウォッチパネルに……スウォッチパネル?
そんなのないぞ!?
スウォッチパネルなるものを探すも見つからず、ググった結果、スウォッチパネルを表示することに成功した。
ここまで所要時間はすでに20分。20分!?
1番最初のレッスンって、10分とか15分とか、すぐに終わるんじゃないの? まだ10工程のうちの3番目なんだけど? 終わるまでにいったいどれだけ時間がかかるの?
その後、曲線を描けはしたが不格好でガタガタ。
それでも曲線にこだわりすぎると次に進めないので、「まぁいいか~」と次の作業へ。
無事ロゴは完成したが、せいぜい15分あれば終わるだろうと見積もっていた第1レッスンは、結果的に1時間半かかった。
初日からもうグッタリ。
翌日、「第2レッスンではこうならないようにしよう!」と、イラレをどうやって学ぶかを改めて考えた。
まず初期設定画面を、本と同じような表示になるようにカスタムしたほうがいい気がする。
本を見ながらやるなら、ノートパソコンよりデスクトップパソコンのほうがいいな。じゃあ、そっちにもイラレをダウンロードするか。
昨日は想像以上に時間かかっちゃったから、次からは事前に工程を把握してどれくらい時間をかかるか確かめよう。
うーん、でも各作業にかかる時間なんてわからないぞ。そもそもまったくやったことがないからな。
イラレを勉強するなら、まとまった時間があるときにしたほうがいいかもしれない。
今日はそこまで時間がないから、明日にしようか。
……と、ここまで考えたところで、「これじゃイラレの勉強をやめてしまう!」という危機感に襲われた。
学生時代にドイツ語学習を投げ出しかけたときと、まったく同じだったから。
手を抜いて早く終わらせようとしたドイツ語学習
語学学習では、よく「毎日単語を10個覚えろ」と言われる。
わたしもそれに倣って、大学在学中、毎日単語帳に10個の単語を追加することを決めた。
が、長くは続かず、結局すぐにやめてしまったのだ。
そもそも、「単語」とはいっても、作業時間はそれぞれ大きくちがう。
ひとつの意味しかない名詞なら30秒で単語カード1枚完成だが、5つの意味がある動詞となると、情報量はその数十倍になる。
意味がつかみづらいものは、独→日だけでなく、日→独でも辞書をひきなおし、独→独でも調べていたから、単語1つ書き出すのも一苦労。
丁寧に1つ1つの単語に向き合うと、「1日10個」という一見ラクそうな作業が、思っていた以上に時間がかかることに気が付いた。
その結果、どうなったか。
より早く終わらせるために、かんたんな単語を優先して複雑な単語は後回し。
いままでいくつか書いていた例文を1つだけにして、一部の単語に書き込んでいた類語や反対語を書くこともやめた。
だってそうしないと、「1日10個」が終わらないから。
いろんな意味をもつ複雑な重要単語は、時間がたっぷりあるときにのんびりやろう……と、放置。
手元に残ったのは、簡単な単語ばかりが書かれたカードだけ。
最終的に、「1日10個」というタスクではなく、「1日15分」という時間管理にして、15分で書き込めるぶんの単語だけ書いて、覚えるようにした。そうしないと続かないと思ったから。
それを思い出したわたしは、結局イラレも、「1日1レッスン」から「1日30分」という勉強法に切り替えた。
初心者はタスク管理より圧倒的に時間管理のメリットが大きい
「1日1レッスン」から「毎日30分」にしてみたら……
なんということだ、めちゃくちゃ快適じゃないか!!
まず最初に、クラウド保存したはずのファイルが開けず、四苦八苦。
作業1に入る前にすでに10分費やしたが、まぁしょうがない。
わからないことがあれば調べればいいし、うまくいかなければやり直してもいい。
タスク管理ではそれらは「ムダ」「非効率」になるが、時間管理なら、マイペースに試行錯誤しても罪悪感や徒労感がない。
思ったより進まなくても、それはむずかしい作業だったということなので、気にしない。
むしろ「時間かかったけどちょっと進んだぞー!」という達成感すらある。
タスク管理だと、「時間かけたのに全然進んでない……」ってなってたのにね。
時間管理に切り替えたおかげで、いまはストレスなくイラレを学べている。
そもそもタスク管理とは、「目標達成」のために選ぶ方法だ。
やるべきこと(To Do)を、順番に全部ちゃんとやることで目標が達成できる。
でもそれは、やるべきことを理解し、どんどん作業をこなせることが前提だ。
たとえばイラレで、「10工程でロゴをつくる」という目標があったとする。
でも工程3のシンボル化がうまくいかなければ、当然工程4にはいけないわけで、どんどん遅れていく作業にイライラする。
曲線がきれいに描けなくとも、そこにこだわると「ロゴ完成」というゴールに近づけないので、「まぁこれでいいや」と作業が雑になっていく。
想定していた時間を大幅に過ぎると、あとはもうやっつけ仕事だ。だって、どんなかたちでも前に進めないと、終わらないんだから。
そういう状況になると、もうモチベなんて皆無。「なんでもいいから終わらせたい」と、投げやりになってくる。
……とまぁ、タスク管理には、実は結構なデメリットがある。
「結果を出した人が報われる」というと聞こえがいいが、逆にいえば、「結果を出さないかぎりいつまでも終わらない」ということでもあるしね。
わたしはイラレ初心者で「作業を順番に最後までこなしていく」のがむずかしかったので、時間管理に変更したというわけだ。
自分のレベルに合わせてタスク管理・時間管理の切り替えが大切
時間管理にすると、「ダラダラとサボるんじゃないか」「効率的にやっても同じ時間作業するならがんばるだけ損じゃないか」と思う人もいるだろう。
30分間をどう使うか、つまり「質」を問わないのが、時間管理だから。
実際、働き方革命では「ダラダラ働く日本人は悪! 成果主義の海外こそ正義!」なんて言葉で、タスク管理が推奨されているし。
でも、「時間管理だから」とダラダラしてサボる人間は、タスク管理にしてもどうせ手を抜くんじゃないかなぁ。
タスク管理だと進捗具合を把握しやすいだけで、能力が上がるわけではないし。
逆に時間管理では、効率的にやれば、他の人と同じ作業時間でより多くの成果があげられる、ともいえる。
同じ時間で他人の1.5倍学べるのなら、損するどころか超お得だ。
とはいえ、時間管理は締め切りがキツい作業には向いてないし、その時間内にどう作業を進めるか自分で考えられる人にかぎられる。
だから、「タスク管理より時間管理のほうが優れている」といいたいわけではない。
ただ、イラレを学び始めたわたしのように、「なーんにもわからない初心者がタスク管理するのはしんどいから、最初は時間管
理のほうがいいんじゃない?」というだけ。
まずは、各作業に必要な基礎的な知識・スキルを身に着け、各作業がどの程度時間がかかるか予測できる程度の経験を積むこと。
それができるまでの初心者期間中は時間管理にして、中級者になったら、より成果を求めるためにタスク管理に切り替えるのがいいんじゃないかと思う。
最近はやりの「成果主義」から逆行する考えかもしれないが、「自分に与えられたタスクがなにか」をわかっていない人間が、タスク管理なんてできるわけがないのだから。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
【著者プロフィール】
名前:雨宮紫苑
91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&
ハロプロとアニメが好きだけど、
著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)
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