「質問がヘタな人」が、世の中には数多くいる。
例えば、こんな感じだ。
*
後輩 「先輩、昨日のお客さんの件で、いまお時間いただいていいですか?」
先輩 「うん。」
後輩 「今後、どういう作戦がいいかと思いまして。」
先輩 「……?何の話?営業の話?それとも提案資料について?」
後輩 「えー、追いかけるべきかどうかです。」
先輩 「……ああ、今はまだ、ちゃんと営業したほうがいいんじゃないかな。」
後輩 「あ、じゃ、ご案内したほうがいいですよね?」
先輩 「……?何を?カタログ?会社案内?」
後輩 「次回の営業セミナーです。」
先輩 「ああ、営業セミナーか、そうだね、ん-、ま、ご案内したほうがいいかな。」
後輩 「わかりました。あ、どっちがいいですかね?」
先輩 「どっちって……?何の話?セミナー何種類もあったっけ?」
後輩 「いえ、セミナーをメールでご案内するか、直接会ってご案内するかです。」
先輩 「……単なる連絡の話?……連絡は早いほうが良さそうなのでメールで……ねえ。」
後輩 「はい?」
先輩 「もうちょっと、考えてから質問してくれないかな……。」
*
こういう類の質問のしかたは、回答者を無用に迷わせるので
「ヘタな質問」に属する。
先輩がいい人だったり、「そういうものだ」と割り切って、辛抱強く付き合ってくれる人もいると思うが、先輩が忙しかったり、短気な人だとイラっとされて、
「もうすこし考えてから、質問してくれないかな。」
と冷たく言われてしまうこともあるかもしれない。
では、これはどのように質問すればよかったのかというと、次のようになる。
*
「先輩、昨日のお客さんの件で、お時間いいですか?」
「うん。」
「質問が3つあるのですが、一つ目は、昨日のお客さんは、営業案件としてきちっと追いかけたほうがいいでしょうか?私は追いかけるべきだと思っていますが……。」
「追いかけるべきだろうね。」
「わかりました。二つ目は、そういうことなら、次回の営業セミナーをご案内したほうがよいでしょうか?」
「ん-、まあ、そうだね。」
「わかりました。三つめは、来週またお客さんに訪問するので、セミナーはその時に案内しようかと思いますがどうでしょう?」
「セミナーなら、早めに連絡したほうがいいと思うんで、事前にメールでもご案内してもらえるかな。」
「わかりました。」
前提条件が不明だと、なにを回答してよいかわからない
この差はいったいどこにあるのか?
それは、質問者が「前提条件を提示しているかどうか」にある。
例えば、パートナーから「何食べたい?」と質問されたとする。
こちらが「ん-、(今は)アイスが食べたいかな」と返したら、
「いや、(今じゃなくて)夕飯の話。」
と、後づけの条件を加えられたことがある人、いるのではないだろうか。
このように、回答にあたって「それを先に言ってくれよ」と思うような条件。
「それを踏まえて」答えなければならない条件。
それが、質問の「前提条件」だ。
仕事でも「条件によって回答が変わるので答えづらい」という質問をもらうことは多いだろう。
「今後の見通しはどうですか?」とか。
「やったほうがいいことはありますか?」とか。
「何か対策はありますか?」とか。
特に上のような「予測」に関する質問は、前提によって大きく回答が変わってくるので、答えるのがとても難しい。
にもかかわらず、「質問がヘタな人」は、こうした前提条件をすっ飛ばして、「自分が聞きたいことだけ聞いてくる」。
だから、「それは場合によるけど……」と、回答に苦慮することもしばしばある。
もちろん、できる先輩は、「前提条件」を推測し、後輩の言語化して先回りして答えてくれる。
「こういう場合は、こう。別の場合なら、こう。あるいは、このケースなら、こう。」と。
実際、冒頭の先輩は
「今後、どういう作戦がいいか?」
という質問に対して、次のように言った。
「……?何の話?営業の話?それとも提案資料について?」
これは先輩が、前提条件を文脈から推定してくれたのだ。
だが、このやり取りは、「質問される側に、時として多大な負荷がかかる」。
だから、親切な先輩であっても、何度もこのような質問をされ、改善の気配がないと、徐々に
「あいつの質問、答えるのが面倒なんだよなあ」
という評価を下すようになる。
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だから、質問がヘタで、相手をイライラさせてしまったことのある人は、質問の前に
「どのような情報を与えれば、相手が質問に答えやすいか?」
を、少し考えてみると、状況が改善する。
たいていの場合は
・質問をしようと思った経緯を説明する
・聞くだけではなく、自分の意見を言ってから質問する
・主語(~が)や目的語(~を)を省略しない
だけで、「質問上手くなったね」と言われるくらい、かなり良くなる。
「面倒だな」と思わず、回答者の負担を少しでも減らしてあげよう。
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4月19日に”頭のいい人が話す前に考えていること” という本を出しました。
ここには、「働く上で知っておくと得すること」を盛り込みました。
マネジメントやコミュニケーションの摩擦が、「本来注力すべき仕事」の邪魔をするという事はよくあります。
こうした「人間関係の摩擦」を最小限にする、という事を一つの目的として書いた本です。
ぜひ、お手に取ってみてください。
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第6回目のお知らせ。

<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>
第6回 地方創生×事業再生
再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは【ご視聴方法】
ティネクト本音オンラインラジオ会員登録ページよりご登録ください。ご登録後に視聴リンクをお送りいたします。
当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。
【今回のトーク概要】
- 0. オープニング(5分)
自己紹介とテーマ提示:「地方創生 × 事業再生」=「実行できる経営企画」 - 1. 事業再生の現場から(20分)
保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例 - 2. 地方創生と事業再生(10分)
再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む - 3. 一般論としての「経営企画」とは(5分)
経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説 - 4. 中小企業における経営企画の翻訳(10分)
「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論 - 5. 経営企画の三原則(5分)
数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する - 6. まとめ(5分)
経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”
【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。
【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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(2025/7/14更新)
【著者プロフィール】
安達裕哉
元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。
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