コンサルティング会社で管理職をしていたとき、一人、悩ましい人がいた。
彼は能力的には高かったが、今ひとつ仕事では飛び抜けた成果を出せていなかった。
なぜか。
それは、彼が「難しい仕事」を嫌がっていたからだ。
「皆がいつもやっている、通常の仕事」は滞りなく終わらせる。
しかし、少しイレギュラーな仕事や、やり方がまだ生み出されていない「動きながらサービスを作り上げる仕事」を彼は嫌がったし、実際そういう仕事をふると、小さい仕事であっても、彼はほとんどいつも拒否した。
だから彼にはいつも、標準化がすでにされている「定型的な仕事」しか渡せなかった。
だから、必然的に成果は「量」の競争になる。
標準化されている仕事は、ある意味新人でも少し訓練すればできるので、彼の価値としては、「新人よりも、そこそこたくさん仕事を回してくれる」というくらいしかない。
必然的に、彼の給与の伸びもストップした。
*
彼に不足していたのは一体何だったのか。
能力ではない。
仕事のやる気でもない。
私の考えでは、それは「勇気」と呼ぶべきものだったと思う。
ただ、誤解があると良くないので、きちんと説明したいのだが、ここでいう勇気とは、悪に立ち向かうとか、弱きを助けるとか、いわゆるRPGの「勇者」のような存在がもつ特性ではない。
また、◯◯チャレンジといった企画のように、「周りの人の目を気にしない」とか、「無謀なことにチャレンジする」とか、そういうものでもない。
あえて言語化すれば、組織やビジネスにおける「勇気」とは、言ってみれば「未知を扱うマインド」と言えるだろう。
言い方を変えると、「勇気がある」とは、「できないかもしれない」「努力が無駄になってしまうかもしれない」というおそれに対して、耐性が高いということだ。
彼は「未知のもの」に対して、徹底的に弱かった。
「できないかもしれない」
「失敗するかもしれない」
「怒られるかもしれない」
そんなふうに、いつも恐れていたように思う。
例えるなら、この低金利の時代に「元本保証ではないから投資はしない。預貯金しか信じない。」と言っているようなものだ。
しかし、実際には財産は、インフレに寄って目減りしている。
そうして「未知のこと」を拒否し続けた人間の行き着く先は、「先細り」である。
「勇気」を教えるにはどうしたら良いだろう
もちろん「先細り」を受け入れるのであれば、そういう生き方もある。
むしろ、そういうひとに「未知への対処」無理強いをするのは無粋だ。
しかし、彼は給料が上がらないことに対して、不満を持っていた。
「更に上を目指すなら、新しい責任と、未知の仕事を引き受けない限り、手に入らない」と何度も説明していたにも関わらずだ。
でも、彼にしてみればおそらく「こんなに働いているのに、なぜ給料を上げてくれないんだ」と思っていたのだろう。
しかし、彼が仕事を引き受けないのは、彼のスキルによるものではなく、彼のマインドによるものであったから、こちらとしては彼に何もできることはあまりない。
こうなると、お互い不幸である。
*
そういった事態を自社だけではなく、様々な会社で見るにつけ、私は「勇気」を持つことの必要性を感じた。
また、果たして「勇気」は後天的に獲得できるものなのか、ということが気になった。
ビジネスというのは、未知への対処がうまいほど、大きな成功をしやすいからだ。
いや、ビジネスだけではない。
人を助けたり、皆が困っている問題を解決したり、子供を育てたりすることなどもすべて、未知を扱う以上、「勇気」に関わる問題だと感じる。
結局、勇気の欠如の最大の問題は「自分の見える範囲でしか考えられない」ということなのだ。
他者と関わる場合、必ず未知の問題が発生する。それを恐れて何もしないのであれば、得られるものがないのも当然の結果だ。
「システム思考」で知られるビーター・センゲと、「EQ」で知られるダニエル・ゴールドマンの共著「21世紀の教育」では、未知への対処が、非常に重要な教育の項目となっている。
そして、こうした能力は、「やるべき範囲」や「出題傾向」が決まっている、学校の「受験」では身につきにくい。
学校教育は本質的には、予期しないことを嫌い、ランダムを遠ざけ、失敗をさせまいとするからだ。
しかし、上のような「未知への対処」は世界の各地で教育として取り入れられ始めているし、後天的に獲得できるものだとピーター・センゲらは確信しているようだ。
私もそれを信じたい。
文明は日常生活からリスクを排除し、快適さを提供し続けた。
しかし、どこまでいっても「リスク」をゼロにすることはできないし、他人と関わったり、未知に挑戦するリスクを取らなければ、貧しくなる一方である。
必要なのは「リスクを取らない」ことではなく、「リスクをうまく取るにはどうしたら良いのか」という知恵であり、実践的なノウハウなのだと、つくづく思う。
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第4回目のお知らせ。

<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>
第4回テーマ 地方創生×教育
2025年ティネクトでは地方創生に関する話題提供を目的として、トークイベントを定期的に開催しています。地方創生に関心のある企業や個人を対象に、実際の成功事例を深掘りし、地方創生の可能性や具体的なプロセスを語る番組。リスナーが自身の事業や取り組みに活かせるヒントを提供します。
【ご視聴方法】
ティネクト本音オンラインラジオ会員登録ページよりご登録ください。ご登録後に視聴リンクをお送りいたします。
当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。
【ゲスト】
森山正明(もりやま まさあき)
東京都府中市出身、中央大学文学部国史学科卒業。大学生の娘と息子をもつ二児の父。大学卒業後バックパッカーとして世界各地を巡り、その後、北京・香港・シンガポールにて20年間にわたり教育事業に携わる。シンガポールでは約3,000人規模の教育コミュニティを運営。
帰国後は東京、京都を経て、現在は北海道の小規模自治体に在住。2024年7月より同自治体の教育委員会で地域プロジェクトマネージャーを務め、2025年4月からは主幹兼指導主事として教育行政のマネジメントを担当。小規模自治体ならではの特性を活かし、日本の未来教育を見据えた挑戦を続けている。
教育活動家として日本各地の地域コミュニティとも幅広く連携。写真家、動画クリエイター、ライター、ドローンパイロット、ラジオパーソナリティなど多彩な顔を持つ。X(旧Twitter)のフォロワーは約24,000人、Google Mapsローカルガイドレベル10(投稿写真の総ビュー数は7億回以上)。
【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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(2025/6/16更新)
【著者プロフィール】
安達裕哉
元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。
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◯有料noteでメディア運営・ライティングノウハウ発信中(webライターとメディア運営者の実践的教科書)
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