私がブログを書き始めた2015年は、空前のブログブームだった。ブログブームというよりは「ブログで稼ぐ」ブームと言った方が正しいだろうか。
まだ10年も前の話ではないのに、もうずいぶん昔の出来事のように感じる。
そのブームの火付け役だったプロブロガーのイケダハヤトは、当時「ブログは資産」だと言っていた。
ブログを書けばお金になるし、コツコツ書き溜めていれば、やがては何もしなくても過去記事がPVとお金を勝手に稼いでくれるようになると。
結論を言えば、彼の言ったことは嘘だった。
ブログは資産にならない。
家賃収入の入る不動産や、配当金が入る金融資産みたいに、過去に書いた記事がお金を産んでくれるのかと私も期待したが、ブログは不労所得をもたらしてはくれなかった。
「ブログは資産になる」と声高に主張していた本人でさえブログを閉鎖したのだから、ブログに資産性など無かったのだ。
私はブログに広告を貼っているので、書いた記事が人様に読んでもらえれば、多少の小銭は入るようになっている。けれど、そんなわずかな広告料ですら、新たに記事を書き続けなければ入ってこない。
要するに、ブログで収入を得ようと思ったら、休まずたゆまずせっせと記事の量産に励み、Googleの検索順位や広告配信のルール変更にも対応し続けなければならないのだった。凡人にとって、それはなかなかの苦行である。
手っ取り早くお金を稼ぎたいのであれば、ブログはかかる時間と労力に全く見合わない労働であり、とても人様にはお勧めできない。その辺で適当なバイトでもした方がよほど実入りもいいし、ストレスも少ないはずだ。
まあ、そういうのは全て、今だから言える話である。
まだ結果が出ていないころは、プロブロガーたちの言うことが本当か嘘か分からなかった。ただあの頃は、ブログに夢を見た多くの人たちが「ブログは仕事になるし、資産にもなる」と信じていたし、そう信じることで自分の可能性や未来を信じたかったのだ。
素直な若者たちは本気でそう信じてしまったからこそ、人生をブログに賭けて大学を辞めたり、決まっていた就職を蹴ったり、安定した仕事を捨てて限界集落で暮らし始めたりしたのだろう。
不安定な表現活動は、安定した仕事をちゃんと続けながら取り組んで、結果が出てからフリーランスになれば良かったのに。あのヒカキンだってYouTuberとしてブレイクするまでは、スーパーの社員として働いていたのだから。
つい最近、ある若者の手記を読んだ。
彼はかつてイケダハヤトに憧れて、慶應大学卒の新卒カードを投げ捨て「新卒フリーランス」になったそうだ。
新卒フリーランス。懐かしい言葉だ。
就職氷河期世代の私が20代だった頃には、世の中には就職できなかった「新卒フリーター」が山ほど居たが、「新卒フリーランス」はそれとは違う。
「新卒フリーランス」とは、就活に失敗し、正規の仕事にあぶれた若者が仕方なく不安定な身分で働き始めるのではない。自己実現と自由を求める意識高い大卒者が、組織に属することを拒み、自らビジネスを立ち上げる新しい働き方であり、新しい生き方なのだった。
一見すると本人によるポジティブで自主的な選択に見えるが、自分の頭でよく考えて選んだ道とは言えない。
どちらかと言えば、深く考えずに有名人の言葉を鵜呑みにしやすい者ほど、「新卒フリーランス」などというバカげた選択をしがちだった。
「優秀な若者は就職なんてせず、自分でビジネスをやった方がいいですよ」
当時はブロガー界隈で絶大な影響力を持っていたインフルエンサーたちが、そう言って無責任に若者たちを焚き付けていた。
当たり前のことだが、まだ何者でもない若者が、スキルを磨いたりキャリアを積む前にフリーランスになったところで、大した仕事などできっこない。
大学卒業後に「新卒フリーランス」になった若者たちは、自称ブロガーだったり、自称アーティストだったり、自称起業家だったりしたけれど、実質的には無職だった人がほとんどだ。
「俺の(私の)人生はこんなはずじゃなかった」と、後からやるせなさに苛まれる点では、新卒フリーランスも新卒フリーターと変わりがなかったのではないだろうか。
むしろ、完全に自己責任だとされる分、「新卒フリーランス」の方が泣くに泣けないだろう。
どんなに「まだ東京で消耗してるの?」や、「脱社畜しよう!」などと煽られても、頭がまともな学生たちは、ちゃんと就職していったのだから。
私自身もかつてはブログに夢を見たし、手記を綴った若者と同じくイケダハヤトに影響を受けた1人である。
ただ私の場合は、イケハヤやはあちゅうに心酔するには、その時点ですでに年をとり過ぎていた。それに、年頃の子供の親でもあったから、インフルエンサーたちが無責任に若者たちを煽り、大学や就職を辞めさせるのが許せなかった。
例え本人たちは渋々通っている大学だったにせよ、退屈な仕事であったにせよ、子供を大学まで行かせて就職を喜んだ親の気持ちを思うと、胸がキリキリ痛んだものだ。
親の苦労を踏みにじるインフルエンサーたちには「地獄に堕ちろ!」と中指を突き立てたかったし、親が工面した大学授業料の重みを分かっていない若者たちには、「この親不孝者が!」と一喝して、張り倒してやりたかった。
そうした思いをブログに綴ったところ、ブロガー界隈の信者たちが大勢どこからともなくわいてきて、
「若者を心配するフリをしながら、実は本人のためにならないクソバイスをする老害」
だと罵られ、
「新しい時代についていけない、レベルの低い大衆」
扱いされて、「新卒フリーランス」の若者たちからは軒並みブロックされた。
確かに、私は新時代についていけない老害なのかもしれなかった。けれど、私をブロックした若者たちも、結局は誰ひとり成功しなかったのだから、彼らも新しい時代の波には乗れなかったのだ。
「新卒フリーランス」の若者たちは、狙った企画ではスベったり、意図しないことで大炎上したりしながら、少しずつすり減って、やがて1人ずつ消えていった。
「当時の振り返り」として手記を発表した若者のことを、私は全く知らなかった。
彼はブロガー界隈ではそこそこ目立っていた人物らしいのだが、完全にノーマークだったので、こんな人が居たのかと驚いた。
比較的ブロガー界隈の動向には詳しいと自負していた私が知らなかったくらいだから、そもそもブロガー界隈というものが、いかにマイナーな存在であったのか思い知らされる。
その若者は、「ブロガーとして食べていく」ことを目標に、新卒フリーランスという無職になったこと。
そして、中身が空っぽの仲間たちと実のない夢を語り合いながら、食うや食わずの生活を送ったことなどを、ユーモアを交えつつも辛辣な筆致で振り返っていた。
「自分はおもんなかったのでブログは伸びず、成功できなかった」と振り返っているけれど、彼の文章はちゃんと面白く、読ませる力があった。
どうやら文章だけで食べている訳では無さそうだけど、現在は著述家として生計を立てているらしい。彼曰く、当時ブロガー界隈に出入りしていた若者で、文筆の世界で生き残ったのは彼だけなのだそうだ。
彼は数年前にブログを卒業し、現在はnoteに自らの体験を綴って、有料で販売している。
私が読んだ手記も有料だ。彼はブログブーム時代に親交のあった人たちを、顔写真を載せて名指しでバカにしたり、手ひどく批判したりしているため、拡散されないようあえて有料にしているそうだ。
なので、拡散しないよう私もここに彼の名前とnoteを出さない。
彼がnoteに晒している元新卒フリーランスの若者たちの方でも、今さら不特定多数の人間に過去の失態を蒸し返されたくないだろう。
ブロガー界隈なんて、もはや忘れられた存在なのだ。そして、このまま忘れ去られた方が幸せだ。
当時は学生だった彼らも、今ではみんないい歳をした大人になっている。
今さら他人に言われなくても、自分のバカさ加減はそれぞれが痛感しているだろうし、若気の至りでしでかしてしまったことの結果も、それぞれが受け止めているはずなのだから。
手記を発表した彼は、これまでにも度々ブロガー界隈での出来事を振り返る記事を書いており、有料で販売している。ネタにしてお金に換える事で、今さら取り返しのつかない過去の精算をしているのだろう。
見ようによってはみっともないが、みっともなくていいじゃないか。
そのみっともなさに向き合ったからこそ、彼は文章で食べていけるようになったのだろう。
一連の記事の最後に、
「承認欲求に溺れて、浅慮のために爆発した人たちも、それに巻き込まれて失職した人たちも、最後にはそれなりに生きていくことが多い。音信不通になっちゃう人も結構いるけれど、死んでいる人はほとんどいない。みんな死なないで、なんとか生きてほしい。僕もそうしようと思っている」
と綴られていた。
頑張れよ。
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第6回目のお知らせ。

<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>
第6回 地方創生×事業再生
再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは【ご視聴方法】
ティネクト本音オンラインラジオ会員登録ページよりご登録ください。ご登録後に視聴リンクをお送りいたします。
当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。
【今回のトーク概要】
- 0. オープニング(5分)
自己紹介とテーマ提示:「地方創生 × 事業再生」=「実行できる経営企画」 - 1. 事業再生の現場から(20分)
保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例 - 2. 地方創生と事業再生(10分)
再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む - 3. 一般論としての「経営企画」とは(5分)
経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説 - 4. 中小企業における経営企画の翻訳(10分)
「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論 - 5. 経営企画の三原則(5分)
数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する - 6. まとめ(5分)
経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”
【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。
【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
ご視聴登録は こちらのリンク からお願いします。
(2025/7/14更新)
【著者プロフィール】
マダムユキ
最高月間PV40万のブログ「Flat 9 〜マダムユキの部屋」管理人。
Twitter:@flat9_yuki
Photo by :NordWood Themes