仕事においては、「人を助ける」という行為は、美徳に見えますが、意外にもそれなりの思慮を必要とします。

場合によっては、せっかくの行為が、単なる自己満足になることも。

 

というのも、「助けないこと」と「助けること」を天秤にかけると、あえて助けないほうが良かった、という結果もかなりの頻度で起こるからです。

 

 

実は昔、私はお世話になった方から「勝手に人を助けるな、「助けてくれ」とはっきり言う人しか、助けないほうがいい」と言われたことがあります。

「どういうことですか?」と聞くと、彼は次のようなことを言いました。

 

まず、「勝手に人を助ける」とは、はっきりと助けを求められていないのに、何となくその人を助けてしまうこと

いわゆる「善意」に近い。

しかし「善意」は問題を引き起こしやすい。

 

なぜか。

一つ目、当人が失敗して反省するという貴重な経験を奪う

命に関わる失敗はまずいですが、オフィスワークでそのようなことはまず、起きません。

むしろ、失敗から学ぶことは非常に多いので、失敗する前に助けてしまうと、いつまでたっても一人前になれません。

 

二つ目、自分からヘルプを出せない人に未来はない

ヘルプを自分から出すことは、社会人の必須の教養です。

部下には「助けてほしいときは「助けてくれ」とはっきり言うこと」と、徹底して教えましょう。

 

三つ目、勝手に助けると、感謝されるどころか、嫌な気持ちになるかもしれない

三番目については、不思議な気がしたので「なぜですか?」と私は突っ込んで聞きました。

すると彼は「求めてもいないのに、余計なことをするな」という人もいるし、助けると「助けるのが遅い」「助け方が悪い」「上から目線」とか、理不尽な人も少なくない、と言いました。

あるいは「助けてもらって当然」という態度をとる人もいます。

 

もちろん、理不尽な人はそれほど多くないでしょう。

しかし、「善意」は必ずしも、意図したとおりにならない、というのは、先輩の言うとおりだと思いました。

 

ですから私もよほどの事態ではない限り、

「「助けてくれ」とはっきり言う人しか、助けない」

という方針を採用しました。

 

困っていそうな人をどうする?

では、仕事で困っている人を見かけたらどうするのでしょう。

放っておけばいいのでしょうか?

 

そんな場合には、いくつか考慮すべきことがあります。

 

1.まずは目を離さない

一般的には「できない人ほど人に聞けない」という傾向にあります。

ですから、責任者という立場であれば、未熟な人間に対しては、ヘルプが出ていなくても、すぐに介入できるように(助けるとは違う)その人から目を離さないことは必要です。

なぜ「できない人」ほど、人に聞けないのか。

結論から言うと、「できない人」は人に聞いていないわけではない。

実は、新人同士、できない人同士で聞き合っていて、上司や「できる人」には聞かないのである。

これは、ノーベル経済学賞を受賞したことで知られる経済学者、ジョージ・アカロフの著書の中で

「ややこしい訴訟に巻き込まれた、政府の役人についての観察」で紹介されている。

 

2.本当に困っていそうなら「助けを欲しているかどうか」を聴く

強調しておきますが、困っていても、助けを求めているかどうかは別の問題です。

助けを欲しているかどうかは必ず確認します。

 

3.助けを求められたら「何を助けたらよいか」を確認する

相手の求めてもいないことをやってしまうことを防ぐために、「何が助けになるのか」は必ず確認します。

実際には、直接助けるのではなく、相手の話を聴くだけでいいときも多々あります。

 

4.当人の力量を超えた事態であれば、介入したほうが良い場合も

仕事においては、冷静に見て、当人の力量で収拾がつかない事態になっているときには、「助ける」のではなく、「介入」します。

つまり、本人から責任を移管してしまいます。

ヘタに助けるよりも、「あなたはもう関わらなくていい」と宣言し、主導権をこちらに移すのです。

 

この場合、本人の意向は全く関係なくなります。

しかし、事態が大きくなってしまった場合は、中途半端に助けるくらいなら、介入してしまったほうが良いケースの方が多いです。

 

いずれにせよ「人助け」は慎重に

困っている人を見て見ぬふりをするのは、あまり褒められたことではありませんが、「何も考えずに助ける」行為も、よくありません。

小学校では「困っているお友達は助けてあげましょう」と指導されるかもしれませんが、大人の世界ではもう少し複雑で、思慮が必要な行為なのです。

 

 

【安達が東京都主催のイベントに登壇します】

ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。


ウェビナーバナー

▶ お申し込みはこちら(東京都サイト)


こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい

<2025年7月14日実施予定>

投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは

借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。

【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである

2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる

3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう

【登壇者紹介】

安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00

参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。


お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください

(2025/6/2更新)

 

 

【著者プロフィール】

安達裕哉

元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

◯Twitter:安達裕哉

◯Facebook:安達裕哉

◯有料noteでメディア運営・ライティングノウハウ発信中(webライターとメディア運営者の実践的教科書

頭のいい人が話す前に考えていること

頭のいい人が話す前に考えていること

  • 安達 裕哉
  • ダイヤモンド社
  • 価格¥1,650(2025/06/02 09:47時点)
  • 発売日2023/04/19
  • 商品ランキング93位

Photo:J W