ここ数年、「ある電話」が来なくなった。

個人的には喜ばしいことである。

 

家にいても出張先でも、定期的に夜鳴る電話。番号こそ非通知だが、聞き覚えのある声。

毎日ではないが、忘れた頃にまたかかってくる。

 

昔からテレビ業界は古い体質だと言われるが、わたしが受けてきたようなセクハラがまだ存在しているなら、もう業界ごと消えて欲しい。

 

枕元に立つお化けより怖かった

テレビ業界は長らく「男社会」だった。

今でこそ男女半々くらいの採用だが、私が入社した頃は女性社員ははるかに少なく、女性新入社員が配属されることは、それだけで珍しかった。

 

同期社員は26人。そのうち女性は、アナウンサーの2人を含めて5人だ。

最初の配属は報道局社会部。

仕事は自分で盗め、という気質の時代でもあった。

 

さて、配属されてそう時間が経たない頃。

休日にある上司から、食事に行かないかと電話がかかってきた。荻窪にお気に入りの店があるのだと。

わりと上の立場にある人なので、サシでいろいろ話を聞けるのはいいことかもしれないし、なにより断りにくい雰囲気があったので出かけて行った。

 

そして、その帰り道のことである。

通り道なのでタクシーで送ると言われ、そこから地獄の時間を過ごすことになった。

強制的にキスをされる。体を好き放題触られる。

 

とりあえず自分の自宅の前でタクシーを降りたわたしは小走りで部屋に入った。

なんとか逃げられた、と思った。

 

しかし甘かった。

インターホンが鳴り始める。何度も、何度も。

放置していると、今度は携帯電話とインターホンが交互に鳴り続ける。

 

ひたすら音がやむのを待つしかない。部屋の電気を点けるのも怖かった。「そこにいるんだろう?開けろ!」と声が聞こえるような気がした。生きた心地がしなかった。

見たことはないが、枕元に立つお化けより怖かった。
さて、それ自体地獄だが、大問題は翌日普通にその上司と仕事で顔を合わせなければならないことである。

今のわたしなら全てを晒し上げた、というか裁判すら起こせただろうが、右も左もわからない新入社員に降りかかった災禍である。

 

「お前にもスキがあったんじゃないか?」

と言われてしまったら何も返せないだろうし、報復も怖い。そう思っていた。

 

しばらくして、その人物の異動を心から一番喜んだのはわたしに違いない。

くたばれよ、二度と帰ってくるな、とすら思った。

 

SEXしたい社員ランキングを持つ男

別の男の話である。

仕事が終わった後にちょっと飲みに行かないかと声をかけられ、現地で合流した。

仕事のありがたい話を聞かされたような気もするが、わたしの中にはひとつの記憶しかない。

 

「お前はね、俺のヤってみたいランキング5本の指に入ってるよ」。

 

・・・は?

何を言っているんだこの男は。

 

1位は誰それで、2位はこの社員。

その後ろくらいにわたしはいたらしい。

 

というか、それをわたしに伝えてどうしようというのだ?

俺がそう思ってやってるんだ喜べ、とでも言うのか?どんだけ上から目線なんだ?

 

それを言いたくて、個別に呼び出したというのか?

痛々しくて愛想笑いするしかなかった。

別に、人が何を思おうと自由だ。どんな妄想をしようと、それも自由だ。

 

その日は問題なく帰宅した。

しかし、そんなランキングを本人の前で発表すな。他の女性社員の名前まで発表すな、お花畑野郎。

 

昭和のスケベ男のホラー

そして、数年前までわたしにかかってきていた電話である。

 

ある時から、非通知の着信が増えていた。今のわたしなら番号非通知の電話にはそもそも出ない。

しかし記者という仕事をやっている以上、それは何かスクープのタレコミかもしれないし、大事な関係者があえて非通知でかけてきているのかもしれない。

 

そして出てみると、

「ねえ、さやか。今なにしてるの?」

鼻息を荒くした声でこう尋ねられるのである。

 

昭和の「ねえ、何色のパンツはいてるの?」の世界である。

当然、即切る。

 

そして、これまた問題なのは、「聞いたことのある声」だったことだ。決してランダムでかけてきた電話ではないことだ。

だいたい、わたしの名前を知っている時点でおかしいだろう。

 

声からして電話の主が誰だか、見当はついていた。

その電話は、定期的にかかってくるようになった。腹が立つ。自分がメンタルをゴリゴリ削られていること自体にも腹が立つ。

しかし非通知なので、着信拒否のしようがない。

 

そして、ある時。声の持ち主であろう男と飲む機会があった。

衝撃の事実が伝えられる。

 

「入社してきたときからずっと想ってた、けど彼氏がいるの知ってたから言えなかった。今はそうではないんでしょ?お願いだから、一晩だけでいいからいてくれないか」。

そんなことが通用するか、いい歳したクソジジイが。

 

それをバッサリ切って捨てて以降、件のイタズラ電話はかかってこなくなった。

やっぱりお前だったのか。

 

リスクなど考えたことはないのだろうか?

この男たち。

ずいぶんと堂々としたものである。

 

わたしの口から外に話が漏れるなどと、全く想像していなかったのだろうか?

リスクなどありえない、そのくらい常態化していたということか?

もしそうだったら、腐り切っているにも程がある。

 

「くのいち作戦」の果てに

「若い女性」であること。

さすがに今はないと思うが、それが「道具」にもされていた。

 

特に「警察官は若いお姉ちゃん好き」という理論から、ある特定の担当だけは軒並み若い女性記者だった。新聞社にはそんな事情はなく民放だけに多かった習慣で、「くのいち作戦」という名前さえついていた。

 

当時、警察記者は男社会中の男社会。

そこで、えっちなことを考えがちな捜査員は若いねえちゃんには弱いはずだ、というトンデモ理論から生まれた体制である。

 

しかしそれがなまじ外れていないケースもあったから恐ろしい。

もちろん、性別に関係なく人として意気投合して助けてくれた捜査員も多くいた。

でも、トンデモ野郎もいた。

 

歴代仲良くしてくれている捜査員として紹介された、ある男。

わたしが担当記者になった時、前任の先輩が飲み会をセッティングしてくれて、直接連絡を取れるようになった。

 

実際、何かと優先的に小ネタを伝えてくれる人だった。

関係維持のためにも定期的に飲みに行っていた。

 

しかしある時から風向きが変わる。それをなんとなくかわしつつ、わたしは次の担当記者に引き継ぎをした。わたしの後任は男性だった。

これで、わたしの手を離れた。楽になった。

そう思っていたが甘かった。

 

とっくに担当を離れてからも、何年にもわたって連絡が来ていたのである。いや、事件の話なら今の担当に伝えてくれるとわたしとしても嬉しいです、そう何度も伝えたが止まらない。

 

そしてわたしは、電話に出ることをやめた。

すると、ショートメッセージが届くことになる。

もちろんそこに返事はしなかった。

 

しかし相手も諦めない人である。ある時、

「僕、もう先が短いかもしれないんです」。

と。

 

そうとでも言えばわたしが電話に応じるとでも思ったのか?

いや、万が一それが事実だとしても、もはや私には関心がない。それくらい迷惑してきた。そもそも、そう言われたってどうしようもない。

 

強引、高飛車、ストーカー。

いろんな形でセクハラはやってきた。

 

今でこそスマートフォンという道具がある。

いつ何が起きてもおかしくない、そう親しくはない男性とのサシならば、いつでも録画録音開始可能な状態にしておかなければならない。

というか、そこまで構えなきゃいけない時点で何かがおかしい。

 

 

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【プロフィール】

著者:清水 沙矢香

北九州市出身。京都大学理学部卒業後、TBSでおもに報道記者として社会部・経済部で勤務、その後フリー。

かたわらでサックスプレイヤー。バンドや自ら率いるユニット、ソロなどで活動。ほかには酒と横浜DeNAベイスターズが好き。

Twitter:@M6Sayaka

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Photo:Ajeet Mestry