「仕事が遅い」と一口に言っても、それにはいろいろな要因がある。

取り組み始めるのに時間がかかるとか、ひとつのことに集中できずまったく進まないとか……。

そのなかで今日紹介したいのは、「細かいことにこだわって延々と作業してしまう人」の話である。

 

3人のうち1人だけレポート添削が終わらない

大学在籍中にドイツに留学していたとき、留学生向けの授業とは別に、現地の学生と一緒に3つの講義を受けていた。

現地で単位をとって日本の大学に申請し、4年で卒業するためだ。

 

とはいえテストで合格点を取る自信はなかったので、レポートで単位がとれる授業、それも日本に関係のある授業をチョイス。

レポートのテーマは、「満州事変」「三国干渉」「下関条約」の3つ。

 

当時のドイツ語レベルでそれらのレポートを書くのはとても大変だったので、仲のいい友だち3人にレポート添削をお願いした。

「留学生に完璧なドイツ語は求められないだろうから、文章が破綻している部分をちょっと直してほしい」という感じで。

 

満州事変と下関条約のレポートは、カフェで友だちと雑談しながら直してもらい、2時間ほどで完成。

 

が、三国干渉のレポートが終わらない。

まったく終わらない。

 

依頼した友人は近くの学生寮に住んでいたので彼の部屋でやったのだが、彼はずーっとPCとにらめっこしていて、一向に終わる気配がない。1つの文章を、10分も20分もかけて直している。

 

「あの~……丁寧に見てくれるのはうれしいけど、わたしがネイティブじゃないのは教授もわかってるから、意味がわかればそれでいいよ?」

「『意味がわかる』の基準は人によってちがうから、正しいドイツ語のほうがいいでしょ?」

「まぁそうなんだけど、完璧じゃなくてもいいというか……」

 

添削をお願いした手前、「そんな細かいこといいからちゃっちゃと終わらせてよ」とも言えず、かといって自分のレポートを手直ししてくれている友人を差し置いて漫画を読むわけにもいかず……。

いや本当、そこまでしてくれなくていいんだけどなぁ……。

 

終わりの判断ができないと仕事が遅くなる

イメージでいうと、

「遼東半島は、下関条約で日本のものになった。それを清に返すことを求めた」

というわたしの文章を、

「下関条約によって日本に割譲された遼東半島を、清国に返還するよう勧告した」

と修正している感じである。

 

後者のほうが、レポート的にはいい文章ではあるんだけどさ。

でもわたしはスペルミスや致命的な文法ミスなどを直してほしかっただけで、すべての文章をネイティブっぽく書き換えてほしかったわけではないんだよ。

 

結局彼は、3日間ずーっと唸りながら、わたしのレポートを書き直していた。

作業中の彼のモニターを覗き込んでみると、知らない単語ばっかりで、これ提出したら代筆疑われるんじゃ……?と思うレベルだった。

 

さてさて、なぜ2人の友人は2時間で終わったのに、この友人は丸々3日もかかったのか。

それは、彼が「これでいいだろう」と作業を終わらせるのが苦手だったからだ。

 

……いやまぁ、添削してもらっておいて「仕事が遅い」なんてなかなか失礼な言いぐさだっていうのはわかってるけど! でも「ちょっとドイツ語のチェックして~」ってお願いしたら、3日かけて全文書き直されるとは思わなかったんだよ!!

 

「これでいい」のラインを作るのが苦手な人

レポート提出から数年後、彼が働き始めたくらいのタイミングで、ちょうどその話になった。

 

「実はあのときのレポート添削、すごく感謝はしてるけど、めっちゃ時間かかってちょっと困ってたんだよね~」と当時のことを率直に伝えた。

 

「そこまでやらなくていいのにいつまでやるの~!って正直思ってた(笑)」と言えば、彼は「そうだよね~」と苦笑い。

どうやら彼は、「終わりの判断」がとても苦手らしい。

 

「もっとこうできるんじゃないか?」「あれは大丈夫か?」「提出する前にもう1度確認すべきじゃないか?」という不安が、頭の中でぐるぐるしてしまうそうだ。

そして「もう少しだけ手を加えよう」と、完成度を99.95%から99.96%にするために何時間も作業してしまう。

 

完成=完璧という認識だから、完璧になるまで完成させられない。でも完璧になんてならない。だから終わらない。そんな感じらしい。

だからわたしのレポートでも、「ちょっと直す」ができず、自分が完璧だと思えるものになるまでひたすら書き直した。それで、レポートの添削に3日もかかったのだ(ちなみに提出期限ギリギリ)。

 

そりゃまぁ、「完璧なレポート」を目指したら終わらないよね。そもそも完璧ってなに?って話だし。

どこかしらで、「これで完成だ」と切り上げないと。

 

仕事でも、期限内に終わらせるために残業やら持ち帰りやらすることが多く、苦労していると言う。

 

「もうこのへんでいいだろうっていうのは頭ではわかってるんだけど、『いやでも……』って思っちゃうんだよね」

「そういうことだったのか~。わたし的には十分だったけどずーっと直してくれてるなぁ……とは思ってた(笑)」

「まぁそうだよね(笑)でも最近は結構大丈夫になってきたよ!」

 

というわけで、「終わりの判断ができないせいで仕事が終わらない」という状況をどう回避しているか、聞いてみた。

 

終わりの判断が苦手な夫が見つけた対策

レポートであれば最悪徹夜して間に合わせる、ということも可能だが、仕事で毎回それをやるのでは体がもたない。

そこで彼は、作業時間を決めて切り上げることを決めたそうだ。1時間でこの書類のチェックをする、のように。

 

時間を区切ることで優先度の意識が生まれ、「まずここを改善して、時間があればここを……」と作業がどんどん進めていく。

時間制限があることで、優先度が低いことを考え続けなくて済むようになるのだ。

 

また、自分が最終責任者ではないものに関しては、「最終チェックは他人の仕事」と割り切ることにしたらしい。

できるかぎり良いものには仕上げるが、それを100%にするのはチェック担当者の仕事であり、自分の責任ではない。

そのぶん自分は次の仕事にとりかかり進めていくことがチームワークなんだ、と。

 

そう考えることで、「やっぱりあそこが気になる!」と思っても、もう自分の手から離れているタスクなので、「まぁいいか、今はこの仕事に集中しよう」と切り替えられる。

こういった努力と工夫を続け、「終わりの判断ができない」という状況を克服したようだ。

 

終わりの判断が苦手でも「信頼される人」になれる

大前提として、細かいチェック自体は悪いことではない。

その友人と同じ企業でインターンをしていたクラスメートいわく、「彼は適当なことはしない」とまわりから信頼されていたうえ、ミスが多い人のフォローをよくしていたそうだ。

 

レポートの件では「やりすぎじゃ?」と思ったわたしだが、彼はパーティーでビールが足りなくならないようにマメに取りに行ったり、帰り際忘れ物がないか確認したりしてくれていた。

それは彼が、悪いケースを想定してそれを回避するために行動できるからだ。

 

細かいことに気付けるというのは、決して悪いことではない。

むしろまわりの人からすれば、頼りになってありがたいともいえる。

 

ただ「このへんで十分」「これくらいで大丈夫」と見切りをつけないと、いつまでもひとつのタスクに縛られて自分自身が大変になる可能性はある。

人によってはその様子を見て、「あいつは仕事が遅い」「この程度の作業にどれだけ時間がかかってるんだ」なんて評価することもあるかもしれない。

 

そうならないよう、彼のように作業時間の上限を設定したり、最終確認を他人に任せるなどして、「もう終わり!」に持っていけばいいんじゃないかと思う。

いくら自分自身が完璧だと思っても、だれかのチェックが入ったら、どうせなにかしら修正することになるんだし。

 

完璧にしないと完成ではない、となると、いつまでも仕事が終わらない。

「完成」と「完璧」はちがうのだ。

 

 

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(2024/2/22更新)

 

 

 

【著者プロフィール】

名前:雨宮紫苑

91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&写真撮影もやってます。

ハロプロとアニメが好きだけど、オタクっぽい呟きをするとフォロワーが減るのが最近の悩みです。

著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)

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Photo by :Milad Fakurian