この記事で書きたいことは、以下のような内容です。

 

・昔SEの先輩に、「技術の詳細に通じていなくても、「そういう技術、そういう解決法がある」ということを把握しているだけで十分役立つ」と教わりました

・エンジニアの能力を測る尺度の一つとして、「課題」「問題」に対するアプローチをどれだけ思いつけるか、というものがあると思います

・「こういうやり方があった筈だ」「こういうアプローチが出来る筈だ」ということがなんとなくでも分かっていれば、それをとっかかりに調べることが出来ます

・その「そういう解決法があるということはなんとなく分かる」という状態を広げる為に、基盤技術に関する知識が重要です

・これは、生成AIに色々聞けるようになった今でも変わらないというか、むしろ昔以上に「とっかかり」の重要性が増しているような気がします

・「引き出しを増やす」という視点での勉強と、それを活かす為の基礎の重要性を、新人さんにも伝えようとしています

・新入社員の方は無理せずがんばってください

 

以上です。よろしくお願いします。

さて、書きたいことは最初に全部書いてしまったので、後はざっくばらんにいきましょう。

 

以前から何度か書いていますが、しんざきはシステム関係の仕事をしています。元々の専門分野はDBで、PostgreSQLやMySQLやOracleやらをちょくちょく使ってました。

最近は自分でがっつりDB扱う機会はあまりないんですが、新しい技術が出てくるときゃっきゃ言いながら試したりはしてます。オンプレのOracle 23cいつGA来るんでしょうね?(Free版はもうある)

 

で、立場上新人さんを見ることもしばしばありまして、ちょこちょこ相談を受けたりもするんですが、先日新人さん向けのキャリア勉強会みたいなものが何回かありまして、そこに呼ばれて色々と話してきました。

その中で、「ChatGPTやCopilotのような生成AIが発展してきている中、エンジニアは知識をどう身に着けて、市場価値をどう高めていけばいいのか」というようなテーマが出ました。

 

市場価値っていうと大仰ですが、要は「AIが色々教えてくれるんだから、一人ひとりが知識を身に着ける必要ってあんまりないんじゃないの?」的な話ですね。

まあ、新人さんの立場的には「今やってる勉強意味あんの?」とは聞きにくいと思うんで、だいぶオブラートに包まれたタイトルになった感じです。

 

私の個人的な回答は、一言で言うと「そんなこと無いでしょ」なんですけど、その時話した内容が新人さんにも割と好評だったので、文章でも書いておきたくなりました。

 

ということで、以下はその勉強会で話したことの要約です。

 

エンジニアの能力とか市場価値って、もちろん色んな尺度や評価軸がありまして、人によって、組織によって、何を重視するかは変わってきます。

 

例えばコーディングスキル、フレームワークやアーキテクチャに関する知識の広さや深さ、論理的思考力。ビジネス要件をシステムに取り込むことが上手いかどうかが重要な尺度になることもあれば、コミュニケーション能力とチームビルディング能力が重視される場面もあるでしょう。

 

ただ、割とどんな組織、どんな場面でも重視される能力の一つとして、「問題や課題を解決しようとする時、その為のアプローチをどれだけ手広く考えられるか」というものがあるような気がしています。

問題解決能力って言っちゃうと、もうちょっと話が広くなるんですが。

 

当たり前のことですが、何かの問題を解決する時、その回答は一通りだとは限りません。

大抵の場合、問題解決の為にはいくつもアプローチがありますし、その時々によって適した解決法は変わってきます。

そして、問題の解決の為には「問題の掘り下げ」「原因分析」「ゴール設定」「解決する為のアプローチの案出」といった作業が必要になります。

 

例示なので単純な話にしちゃいますが、「手入力での作業が滅茶苦茶煩雑で、作業者が疲弊してるのでなんとかしたい」というシンプルな問題であっても、根本原因がどこにあるのかはかなり色々掘り下げないと分かりませんし、その先のルートも様々です。

「Excelちょっと変えれば済むやん」という話もあれば、「そもそもその業務必要なんだっけ?」という話も、「業務システムのパッケージ入れましょう」「がっつりRPAで自動化しましょう」という話もあるでしょう。

 

金銭コスト、時間的コスト、作業の難易度、期待効果、人的リソース。ちょっと場面が変われば所与の条件も全く変わるので、「どのルートを選ぶべきか」というのは常に選択困難です。とれる手段が多ければ多い程、最適なルートを選べる可能性は高くなります。

 

実際の仕事の場面では、話は上の例より五段階くらい複雑で、解決ルートも分岐どころかラビリントスの大迷宮みたいになってることがもっぱらなので、「色んな解決法を案出して、それを比較・分析して適切な道筋を見つけ出す能力」というのは仕事をする上で滅茶苦茶重要、これが出来ればそうそう食いっぱぐれることはない、という話が、まず一つ前提としてあるわけなんです。

 

***

 

で。

別に生成AI時代に限らず昔からそうなんですが、何かの問題や課題について解決法を考える時って、必ず「とっかかり」が必要になります。

 

将来どうなるかまではちょっと分かりませんが、まだ現時点の生成AIは「簡単な質問でなんでも解決してくれる魔法の箱」ではありません。

生成AIから知識を引き出すことはいくらでも出来るんですが、その為には多少のノウハウと検証能力が必要で、「なんも分からん」という状態から解決のルートを見出すのは案外そこまで簡単でもないんですね。

 

誤情報に惑わされないようちゃんと検証する必要があるのはもちろんですが、ざっくりした質問にはやっぱり一般的な情報しか返ってこなくって、多少は具体的にポイントを絞った質問をしないと、有用な情報が得られないわけなんです。

 

知識を得るための、入口となる知識が必要。この点は、Googleなどの検索エンジンで頑張って検索していた頃と根っこの部分はあまり変わっていないような気がしますし、一朝一夕で変わるような問題でもないような気がします。

 

で、この「ポイントを絞る」為には何が重要かというと、「なんとなくだけど、こういう解決法があったような気がする」「こういうアプローチがありそうな気がする」という、

「ぼんやりしていてもいいから、取り敢えず「そういうことが出来そう」という理解だけは持っておくこと」

なんですよね。

 

もちろん技術知識自体に精通していればそれに越したことはないけれど、「こういうことが多分出来る筈」ということだけわかっていれば、それこそ検索エンジンやら生成AIやらを使って詳細を調べることが出来ます。

 

必要が生じれば、調べて身に着けることは出来る。けれど、そもそも「そういうアプローチがある」ということを知らなければ、その知識にたどり着くことさえ出来ない。

例えばの話、プロセスの排他制御という概念自体を知らない人がセマフォの使い方にたどり着くまでには、それなりのハードルがありますよね。

 

この話、私自身、私が働いていた会社の先輩から教わったことなんですが、その先輩は「知識の背表紙だけ最低限覚えておく」と言っていました。プログラミングが分かる人なら、「知識へのポインタだけ抑えておく」でも通じるでしょうか。

 

ちなみに、こういう「知識へのポインタ」を増やす為に、一番有用なのって「基盤技術に関する知識を身に着けること」じゃないかと思っています。

それこそOSI参照モデルとか、コンピュータ・アーキテクチャとか、OSがどうやってファイルからデータを読みだしているのかとか、基本情報技術者試験に出てきそうなやつ。

 

どんな技術、どんなプロダクトでも、一番根っこになる部分って共通だから、技術の根本の部分を辿ると「根っこに戻って他のルートを推測する」ということ、言ってみれば「知識のポインタとポインタを繋ぐ」ことが出来るんですよね。

「これが出来るってことは、多分こういうことも出来るだろ」って類推が効くようになる。推測出来れば、調べられる。だから、ある一つの知識を身に着けることが、直接「その知識以外の背表紙」を把握することにもつながる。

 

生成AI時代になってもその重要さは何の変わりもなく、いやもしかすると昔以上に重要になっているかも知れない、全然不要になんてなってませんよと、そんな話をしたわけです。

 

だから私は、「何で直接使うわけでもない基盤技術についての勉強なんてしなくちゃいけないの?」と聞かれたら、「問題解決へのとっかかりを増やすのが楽になるから、だと思います」と答えます。一見役立たない知識のように思えても、案外技術者としてのバックボーンになるものですよ、と。

そんな話だったわけです。

 

そういえば世間ではもう新入社員さんが仕事をし始める時期になりまして、知らなかった世界に目を回していらっしゃる頃かとも思い、老婆心ながら上記のようなお話が少しでも参考になればと考える次第です。皆さん無理せず頑張ってください。

 

今日書きたいことはそれくらいです。

 

 

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【著者プロフィール】

著者名:しんざき

SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。

レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。

ブログ:不倒城

Photo:Mimi Thian