辞めていく人間に
「お前みたいなやつは、どこへ行っても通用しない」
という、説教をする人がいる。
辞めるときになって、そんな言葉をかけるのもどうかと思うが、これについて一つ思うところがある。
果たして「どこへ行っても通用しない」は真実なのか?
という疑問だ。
*
私がコンサルタントだったころ。
様々な会社で、辞めていった人間には直接言わなくとも、経営者や管理職が
「ああいう人間は、どこへ行ってもダメだよね」
と言うのを、よく聞いた。
とはいえ、この物言いは議論を呼ぶ。
実際、
「人はそんなに変わらない」
と考える人と、
「場所や環境が変われば、その人のパフォーマンスも大きく変わる」
と考える人が結構はっきりと分かれるからだ。
例えば、前者の代表的な例として、採用の際に「前職のパフォーマンス」を見ることが挙げられる。
平たく言えば、多くの人は
・どんな役割だったか?
・どのようなパフォーマンスを出したか?
・どのようにして困難に対処したか?
こうしたことを聞いて、「うちでも活躍できるか?」を判断している。
学歴も同様だ。
特に商社や金融機関、コンサルティング会社は、いわゆる高学歴が多いが、それは
「勉強でパフォーマンスを出すことができたのだから、仕事でも同じようにパフォーマンスが出る蓋然性が高い」
との考え方を基にして、新卒採用、あるいは中途採用をしているからだ。
「勉強できるやつは、仕事もある程度もできるよね」
との考え方は、新卒採用においては特に根強いようにも解釈できる。
*
一方で、環境が変わると突然パフォーマンスがあがる「化ける」人も、決して少なくない。
私が在籍していたコンサルティング会社の一部門では、中途採用において、本当に「学歴不問」「経歴不問」で、独自に採用を行っていたことがあった。
その中には
八丈島の漁師だった人。
実業団でバスケをやっていた人。
パチプロになるために大学を辞めた人。
など、「コンサルタントのパフォーマンス」とはほとんど関係のないことをしていた、多くの人達がいた。
そんな人たちがコンサルタントをできたのか。
実は蓋を開けてみると、彼らは皆、パフォーマンスが高かった。
むしろ「普通の経歴の人」よりも、良かったくらいだ。
コンサルティング会社を辞めた後、独立して経営者になった人も少なくない。
彼らを「前にやっていたこと」だけで採用していたら、誰も採用されなかっただろう。
「偶然じゃないか?」
と言う人もいるかもしれないが、これは偶然ではないと思う。
根源的な、「働く場所を変えると化ける人」の条件があるように見えた。
*
ではその条件とは何か。
「その人の責によって、パフォーマンスが出なかった人」ではなく
「環境によって、パフォーマンスが出なかった人」は、
「一芸に秀でているが、欠点も多い人」
であることが多かった。
例えば、「服装がだらしない」といった外見上の欠点や、「時間にルーズ」「整理ができない」人は、適切な機会を与えられないケースが多い。
あるいは「口が悪い」「率直すぎる」などのコミュニケーション上の欠点。上司や評価制度と折り合いがつかない人。
「書くのが苦手」「電話が苦手」などの単純作業の得意不得意も不利に働く。
大手では「ミスがない」「全部そつなくこなす人」が評価されやすいため、人付き合いや、些末な事務処理能力に欠点がある人は、パフォーマンスを発揮しにくい。
だから、我々はそうした欠点はできるだけ見ずに、現在の社員にはない能力を持つ人を採用するようにした。
そうして採用した、一芸に秀でている人は、環境を変えると、「化ける」ることがある。
上司を変えること。
苦手な仕事をやらせないこと。
タスクを管理してあげること。
事務作業を肩代わりしてあげること。
上から押さえつけないこと。
一芸に秀でた能力があれば、「強みだけで仕事をさせる」ことが可能となる。
そういう人を部下に抱えている上司の仕事の中心は、「環境を整備すること」が、中心になる。
*
ところが。
世の中は残酷なもので、そもそも、「秀でたところが何もない」人もいる。
何をやっても凡人以下。
あるいは「気力がない」ことで、行動をしない、手を動かさない人たち。
仕事は、頭の良し悪しよりも
「手を動かして、失敗しながらも、修正を繰り返して、目的に達する」
という習慣的な能力が重要であるため、「小賢しいだけ」の、何も秀でたところがない人たちが少なからずいる。
そういう人たちは、環境を変えても同じだ。
「お前みたいなやつは、どこへ行っても通用しない」
と言われて、それが当たっているので、実際に不毛な転職・異動を繰り返すことになる。
*
救いがないように見える。
が、そんなことはない。
「何をやっても凡人以下」というのは、長期的に見れば、ほとんど解消可能である。
多くの仕事は、天才である必要が全くないからだ。
訓練と、努力で十分、凡人を超えるパフォーマンス、つまり「一芸」は身につく。
だからあえて言えば、
「口ばかり達者で、手を動かさない」
「成果が出るまで努力も辛抱もできない」
という人間以外は、環境を変えれば必ず活躍できる余地があるものだ。
それは、多くの会社ですでに実証されている。
良い人事と言うのは、そういうことを理解したうえで、
「環境のせいでパフォーマンスが出ない人」
に対して、活躍できる場所はどこか、どうすれば彼のパフォーマンスがあがるのかを、本人・上司たちと一緒に考える人たちだ。
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【著者プロフィール】
安達裕哉
生成AI活用支援のワークワンダースCEO(https://workwonders.jp)|元Deloitteのコンサルタント|オウンドメディア支援のティネクト代表(http://tinect.jp)|著書「頭のいい人が話す前に考えていること」65万部(https://amzn.to/49Tivyi)|
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