仕事をしていると時々、話が通じない、というシーンに遭遇する。外国語だから通じない、という話ではなく、同じ日本語を使っているのに話が通じない、という状態だ。

 

例えば自社のwebサイトを作成するプロジェクトをあなたが任されたとする。

「プロジェクトメンバーの自由にやっていいよ」

と上司から言われた。そこであなた方は自由にwebサイトを作成した。最新のデザインを取り入れ、競合に負けないようにユーザビリティを研究し、自分たちで最高と思えるものを作った。

 

そして、上司にサイトを見せたところ、「これでは困る」と言われた。うちの顧客は古いデザインが好みであり、このデザインは前衛的すぎる、というのだ。また、上司にすれば使い勝手も良くないという。

 

当然あなたは反駁する。

「自由にやっていいと、あなたが言ったのではないですか。」

上司は一言、

「自由にやっていい、とは言ったが、勝手にやっていい、とは言っていない。」

こういう状態になると、話し合いもできない。上司はあなたへの信用をなくし、あなたは上司への信頼を失う。

 

一体なぜこんなことが起きるのだろうか。

多くの場合は「言葉の不自由さ」に対する理解のなさから生じる。要は、「自分の知っている言葉の意味が、相手が使っている言葉の意味と同じ」と思っているのだ。

 

例をあげよう。

あなたは、「自由」と言われてどのような状態を思い浮かべるだろうか。

 

「無制限の自由」

「他者の権利を侵害しない中での、責任を伴う自由」

 

webサイト作成において、部下は前者、上司は後者を思い浮かべた。かみ合わないのも当然だろう。

実際に仕事の中で、自分の中の意味でしか言葉を解釈しない人とはかなり話しにくい。「相手の使っている言葉の意味の理解」を放棄すれば、あとは力での解決しか道はない。

 

 

忠臣蔵に代表される「勧善懲悪」という物語の類型がある。その多くのストーリーは奥行きがなく、子供っぽく見える。

勧善懲悪のストーリーが子供っぽく見えるのは、「正義」「善」という言葉の解釈が多くの物語において一義的、つまり主人公の側の教義ばかりが肯定され、敵側の教義が否定されるからだ。

 

そこでは「敵の論理にも一理あり」という描写はなされない。だが、大人は世の中はそんなに単純ではない、ということを知っている。

作家の井上ひさし氏は「忠臣蔵」を逆手に取った「不忠臣蔵」という物語を書いた。これは、「討ち入りに参加しなかった義士」が何を考えていたか、という物語だが大変に面白い。

一つの物語の二面性を知り楽しむ、というのは大人にのみ許された楽しみである。

しかし、他者の言葉を理解しようとせず、自己の理解のみで一方的に決め付けることは、どうにも気持ちの悪いものである。

 

不忠臣蔵 (集英社文庫)

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【お知らせ】
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第6回目のお知らせ。


<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>

第6回 地方創生×事業再生

再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは

【日時】 2025年7月30日(水曜日)19:00–21:00
【ご視聴方法】
ティネクト本音オンラインラジオ会員登録ページよりご登録ください。ご登録後に視聴リンクをお送りいたします。
当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。

【今回のトーク概要】
  • 0. オープニング(5分)
    自己紹介とテーマ提示:「地方創生 × 事業再生」=「実行できる経営企画」
  • 1. 事業再生の現場から(20分)
    保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例
  • 2. 地方創生と事業再生(10分)
    再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む
  • 3. 一般論としての「経営企画」とは(5分)
    経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説
  • 4. 中小企業における経営企画の翻訳(10分)
    「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論
  • 5. 経営企画の三原則(5分)
    数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する
  • 6. まとめ(5分)
    経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”

【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。

【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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(2025/7/14更新)

 

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(Photo:Jim Pennucci)