「効率化」というキーワードは、仕事をしている人ならば誰でも耳にしたことのあるキーワードだろう。

 

「効率化して、納期を30%短縮しました」

「効率化して、スピードを2倍にしました。」

 

年度の目標や成果の指標として「効率」は非常に有用であることは間違いない。企業は効率を高めることで、より利益を出すことができ、消費者もより安価に目的のものを入手することができる。

 

かつて自動車が平均的労働者の年収の3倍の価格で販売されていた時代、T型フォードは効率化により自動車の価格を大幅に引き下げ、労働者の年収相当で自動車を買うことを可能にした。

現在の日本で言えば、1200万円の自動車しかない時に、突如として400万円台のそこそこ性能の良い自動車が買えるようになった、という衝撃的な出来事だった。

 

自動車の普及は生活スタイルを変え、都市の形を変え、人々の考え方を変化させた。いかに効率化が人々の生活を豊かにしたか、想像に難くない。

 

しかし、工業化時代は富を生み出すことに大変効果のあった「効率化」も、情報化社会である現在では必ずしも良いことばかりとは限らない。

なぜなら、情報化社会の主役たる知識を生み出すことにおいて、従来の効率化の価値観が悪影響を及ぼすこともあるからだ。

 

全員同時に出社する必要はあるのか?

そもそも皆会社にいなくてはいけないのか?

スーツを着なければならないのか?

 

といった些細な話から、

 

管理者がいなくてはいけないのか?

知識を生み出すのに必要とするコストをどのように算定するか?

機能別部門は必要か?

 

といった経営上重要な決定まで、「効率」には様々な要素が関わってくる。人間は機械やコンピュターの処理と異なり、インプットが同じであってもアウトプットが多様だからだ。

 

 

したがって、現在は「費用対効果」の測定が非常に難しい物が増えている。

 

変わったデザインの机の費用対効果は?

従業員に昼食を提供することの費用対効果は?

リモートワークを許可する費用対効果は?

勉強会の費用対効果は?

社内に素晴らしい絵を飾ることの費用対効果は?

 

こういったことを無理やり数値化してもほとんど意味はない。

中には「数値化できないものはダメ」とか、「効果が見えないことはやっても仕方ない」という方もいるが、そもそも「クリエイティビティ」のような概念を数値化しようとする試みそのものが、工業化時代の効率の罠に囚われてる証拠だ。

測定できないものであっても、確かに存在はしている。「雰囲気」とか、「やる気」、あるいは「創造性」「センス」といったものだ。

 

数値化できるムダは工業化時代に習って排除すればよい。いくらでもムダ取りはできる。だが、創造性に関わる「ムダ」、人の知性や感性を強化する「ムダ」については、「必要なムダ」である可能性も高い。

 

 

「セレンディピティ」という言葉がある。

セレンディピティは『セレンディップの3人の王子』という童話から着想を得た英国の小説家が創りだした言葉だ。

その王子たちは旅をし、その途上において想定外の出来事が起きるが、その都度彼らはもともと探していなかった「何か」を発見する。

つまりセレンディピティとは、「何かを探しているときに、探しているものとは別の価値あるものを見つける能力・才能」のことである。

 

 

ナイロンの発見も、ペニシリンの発見もムダを切り捨てなかったところからセレンディピティによって生まれた。

多くの失敗やムダは、実は成功のためのコストであるとすれば、「社員のセンスを研ぎ澄ます」ための必要なムダを使いこなすことが、これからの経営者には求められているのかもしれない。

 

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(2024/3/26更新)

 

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 (Photo:Anne Marthe Widvey)