その日は2カ月に1回設定されている新人と課長の面談だった。入社して半年が過ぎ、彼らも会社に馴染んできている時期だ。だが、最近良くない噂もある。何人かの若手社員から、「新人の様子が少しヘンです」という話があった。

 

その日の面談は午前10時から設定されていた。既に新人は会議室の中にいる。

私は「おはよう」と声をかけた。

「おはようございます」と神経質そうな声が返ってくる。彼は腰を降ろすと、「では面談を始めようか」と言った。

 

部下は「はい」と言ったが、表情は硬い。彼は期待の新人だったのだが、先月に体調を崩して以来、どうも元気がないようだ。

私は「最近はどうだ、先月体調を崩しているようだけど、無理はするな」といった。

「サラリーマンの人生は長い。これからずっと働かなきゃならないからな。最初に根つめすぎると、持たないぞ」

 

部下の表情がすこし和らいだ。どうやらカンが当たったようだ。

「頑張るのがつらいです」と、部下が言う。

「そうか」

お互いにしばらく沈黙する。

 

「なぜつらいと感じるのかな」

「100%全力で走り続けるのは、もう無理です。会社で働くのが向いていないのかもしれません。」

また随分と飛躍したものだ。

「ふーむ。」

「会社も、やめようかと思っていました」

「そうか」

 

その場がまた沈黙に支配されると、私は思いを巡らせた。この有能な若者は、何を悩んでいるのだろうか。

会社が嫌なのだろうか。いや、働くのは楽しそうだった。それもついこの前まで。それが虚勢だったということもあるが、勤務態度も悪くないし、成果もそれなりに残している。

私は疑問におもい、聞いてみることにした。

「1つ聞かせて欲しいんだが。」

「なんでしょう。」

「働いたり、この会社来ることそのものが、嫌になったということかな。」

 

「そうではないです」部下は即答した。

「では、なぜ辞めたいと感じたのか、教えてほしいのだが」

「…」

彼は黙っている。私も黙らざるをえない。

 

私は声をかけた。

「言いたくないなら、言わなくていいよ。」

「いえ、言いたくないわけじゃないんです。うまく言葉にできなくて。」

「まとまってからでいいよ」

「いえ、なんとなくまとまりました。「頑張るのがつらすぎる」ということだと思います」

「頑張るのがつらい、ですか。」

「はい。半年間、毎日毎日、会社に貢献するために、期待に応えるために努力しましたが、これがずっと続くのかと思うと…」

 

 

そういうことか。真面目な人だ。

「「頑張るのがつらい」と感じたら、何かが間違っているよ。」

「?」

彼はポカンとしている。私は説明不足だったと思い、彼に言った。

「いや、頑張るのがつらい、と言うのは、明らかに努力の方向性として間違っている。私は新人の方々に燃え尽きるほど頑張って欲しいとは全く思っていない。」

「頑張らなくていい、ということでしょうか。」

「そうではない。頑張ることは大事だが、もっと大事なことは継続することだ。」

「…それ、他の人にも言われましたが、意味がわかりませんでした。」

「そうだな。わかりにくいよね。」

「…」

「例えば、業務のために本を読むとする。頑張ったら、一ヶ月でどれくらいできそうかな?」

「…頑張れば、1カ月に10冊位は行けそうです。」

「それは、何ヶ月くらい続けられそう?」

「3、4カ月くらいは。」

 

私は、その若手に言った。

「それは、頑張っているとはいえない。辛くて続けられないじゃないか。私が思う「頑張っている」は、それをずっと続けられる工夫をして、無理なく、楽に継続することだ。」

「では…」

「どれくらいなら、無理なく続けられそうか?」

「通勤の時の30分位なら…1カ月に3冊くらいでしょうか。私読むの遅いので。」

「それでいいんだよ。1年続けたら、36冊。さっき君が言った3,4カ月頑張った時と同じくらい読める。2年続けたら倍になる。3年続けたら3倍だ。

そうやって、仕事は上達していくんだよ。短期的に力を出し切ってしまってはダメなんだ。」

「つらいことを続けるのが、頑張る、ではないのでしょうか?」

「その通り。」

 

 

彼は、帰っていった。

成果を早く求め過ぎるのも考えものだな。今の評価制度は、若手にプレッシャーになりすぎているのだろう。部長に後で報告せねば。

 

 

※この話は実話を元にしたフィクションです。

 

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(2025/5/12更新)

 

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